モフモフ天国
定期報告会の夜間の部の途中でダクネスからの情報を聞く。
なんと私の実家のダンジョンが経営難に陥って、すぐに帰ってこいとの内容だった。
私は驚愕する。決して有名なダンジョンではないが、経営状態は良好のはずだ。それに敏腕コンサルタントの実家がそんな状態になっているなんて知れたら会社にも迷惑が掛かる。
ミランダ社長が言う。
「とりあえずナタリーちゃんは、実家に戻って状況を確認して!!」
私はすぐに自宅に戻り、準備をして、翌日ダンコルの事務所から私の実家のダンジョンに簡易の転移スポットを設置してもらって、実家のダンジョンに戻ることになった。
私の実家のダンジョンは少々、いや、かなり特殊だ。
ダンジョンと言っていいかどうかも怪しい。
実家のダンジョンがあるのは、獣人の国であるラーシア王国のラドクリフ公爵領だ。因みに現勇者はラーシア王国の第一王女だ。
実家のダンジョンはラーシア王国では「モフモフ天国」という名で知られている。一応ダンジョンなのだが、討伐すべき魔物も採取できる素材も置いていない。それでなぜ成り立っているかというと一角兎や黒羊、それにフワフワ熊などのモフモフした魔物を飼育し、そこにモフモフの魔物を愛でに来た愛好家達から滞在ポイントを得るということに特化しているので、何とかやっていけている。獣人国はモフモフ好きが多いのもその理由の一つだと分析する。
更に滞在ポイントを稼ぐためにカフェや最近は宿泊施設も建設している。
実はラーシア王国では、「モフモフ天国」はダンジョンとして認められていない。
これには訳がある。国がダンジョンに指定すると管理が国になるので、どうしても「モフモフ天国」を自分の手元に置きたかった時のラドクリフ公爵が『「モフモフ天国」は「モフモフ天国」だ』と言い張って、ダンジョンではなく「モフモフ天国」という謎の場所として管理することになったようだ。
私も実家から出るまではあまり気にしていなかったが、ダンジョン経営学部を卒業し、ダンジョン関係の業務に携わってみると改めて実家のダンジョンの異質さに気付く。
人族に認められて始めて一人前のダンジョンとして認められる現状を考えると、ダンジョンとして認められないことは何とも複雑な心境だ。
ここまで話したが、なぜ優良経営のダンジョンが存亡の危機にあるのか理解に苦しむ。
ダンジョンを見ても取り立てて、入場者が激減しているようには見えない。
とりあえず、実家に戻ると両親と次期マスターの兄は不在だった。代わりに長くスタッフを続けてくれている魔族のカミラから事情を聞く。
「ああ、お嬢様、お元気で何よりです。実はダンジョンが経営危機に陥ったのはお嬢様にも関係が・・・・・」
カミラの説明によると、半年程前に急にダンジョン協会の職員が来て、「DP納入額が上がったこと」と「規定が変わり、私のダンジョン経営学部の学費が一括DPで返済しないといけない」と言ってきたそうだ。基本的にダンジョン経営学部の学費はDPで返済なのだが、ダンジョン関係の業種に就けば減額されるし、10年を目途に返済すればいいのだ。私が何としてもダンジョン関係の仕事に就こうとしていたのはこれが理由だ。
これに両親と兄は驚愕したらしい。優良経営といっても流石に一括で職員が提示したDPを支払うことはできない。何とか分轄を頼んだが、断られたそうだ。
そしてその職員はこう言ったそうだ。
『実はいい話があるんですよ。実はクワトロメイズさんがテトラシティのサブダンジョンの募集をしていて、そこに支店を出してみてはどうでしょうか?了承してもらえるなら追加でDPを融資しても構いません。テトラシティは有名なダンジョン都市なのですぐに回収できると思いますよ』
この話に両親と兄は飛びついてしまったようだ。
今なら分かる。これは、「光の洞窟」とかと同じダンジョン協会の策略だ。
テトラシティと実家があるラーシア王国とでは条件が違い過ぎる。テトラシティの冒険者は攻略をメインに入場する。誰もモフモフによる癒しなんて求めてない。当然、サブダンジョンは大失敗のようだった。赤字続きで、DPもほとんどないみたいで、モフモフ天国も維持できない状態に陥っている。
「そんな・・・・。どう考えても詐欺だって分かるじゃないですか!!」
「お嬢様、そう言われましても・・・。ダンジョン協会に問い合わせても、その職員さんは実在するし、実際にクワトロメイズさんにも話がついていたみたいでしたし・・・・」
私はカミラさんにダンジョン協会の現状を話した。
「えっ!!ダンジョン協会がそんなことに・・・そんな詐欺みたいなことを教会ぐるみでやってるなんて・・・」
仕方がないか。
大手のミスタリアのラッセルさんも、クワトロメイズのクリスさんもダンジョン協会には一杯喰わされているし。
ここで私はカミラさんに言った。
「でも心配しないでください。私はダンコルで数々のダンジョンを立て直した実績と経験があります。私が来たからには絶対にこのダンジョンを潰させはしませんよ」
そう高らかに宣言した私だが、実際は只のスタッフとして働いている。
帳簿を見たり、経営状況をチェックしても特に問題は無かった。それもそうだ。ダンジョンの経営が悪化したわけではないのだから。
足りないことと言えばスタッフの人数だ。サブダンジョンオープンのため、スタッフを多く連れて行ってしまったので、人員が不足している。
なので、私は只のスタッフとして働くことになってしまったのだ。
今日もモフモフの魔獣達の世話から始まり、カフェのウエイトレスも兼務する。更に不幸なことに私の情報部隊の隊員達が私の噂を流していた。今もフワフワ狼の奥さんが、噂話をしている。
「あいつは使いっぱっしりだけど、マッサージが上手いんだよ」
「へえ、そうなの?」
「それに燻製肉も作れるし、クッキーも美味しいんだよ」
「いいわね。どうしたらもらえるの?」
「何か分からないけど、「部隊」ってのに入ったらクッキーをもらえたり、マッサージを受けれるのよ」
「いいわね。私達も入ろうかしら?」
「そうしなさいよ。ちょっと呼んであげるからさ。おい!!隊長!!クッキーを持ってきて、「部隊」に入りたいってさ!!」
こんな調子だ。ただでさえ人材不足なのに、ますます仕事が増える。
良かったことと言えば、私の情報隊員の隊員が増えたことくらいだろうか。でも魔獣達は何か勘違いをしているように思われる。
私は毎日クタクタだ。
ブラック企業もびっくりの労働時間だ。
そんな生活が1カ月以上経過したところで、私は思いもよらない人物に遭遇した。
なんと、勇者がモフモフ天国にやってきたのだ。
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