薩摩隼人
劫火によって異形の者達が焼き尽くされていく。
ある者は後悔と絶望を、ある者は困惑と悲しみを、恨み辛みを抱いたこの世ならぬ者達の最後のあで花が咲いていく。
「相変わらずお見事ですね、来るなりいきなり焼き尽くすとは」
「うるさいぞ、それよりもあいつは何をしていた?」
「・・・如何に御身と言えども」
「やかましい!!とっとと天孫を連れてこい!!」
怒りに触発されたかのように、間欠泉のような勢いで一気に炎が吹き上げた。
「・・・そう憤るな」
「何してやがった、てめえ!!」
「はは、色々とありましてね・・・」
言葉は笑っているが、その目に宿るのは抜き身の刃。
触れるものすべてを斬り裂く、壮絶な輝きを宿す刃だった。
「てめえがしっかり仕事をしていればこんなことにはならなかったろうが!!」
「これでも仕事はしっかりしていますよ、どこぞの死にたがりと違って。
たかが人間が1人取り込まれて死んだ程度で何を騒ぐのですか。
人一人死んだところで多勢には影響はありませぬ、それとも一人を護りてこの地に住まう者達全てを見殺しにしろと、そう言われるのか」
「・・・・」
「はいはい、そこまで」
お互いの殺意がぶつかり合う中、完全武装の存在が二人の間に割って入った。
「陽将、お前はどちらの味方だ!」
「どちらの味方でもありませんよ・・・その物騒なものを抜く前にお引き下さい」
明けの明星と暗褐色の輝きをそれぞれ纏う剣が、輝きが僅かに木漏れていた。
対する相手も無言の闘気を乗せて、剣と呼ぶにはあまりにも大きな剣が微かに震えていた。
「ちっ・・・とっとと行くぞ!」
「お待ちください、まだ迎えに行くのは早すぎます」
「お前は・・・」
漆黒の黒衣に身を包み、琥珀と鮮やかな紫の瞳を持った存在が留めた。
「閻羅王様直々の命令です、御身であったとしても迎えることなくここに留置けとのことです」
「・・・・どういうことだ?」
困惑も露わに冥府の使い、閻羅王の使者に問い質した。
「このまま送れば生者の悲しみいや増すばかり、それによって耐え難き苦しみとなる。
後を追ってこられるようなこと(注:後追い自殺)をされてはならぬゆえ、御身がこの地に訪れるまで留めおくとの裁定です」
「・・・死者との最後の別れをさせよ、そういうことか」
「以て死出詣でとすること、閻羅十王様直々の裁定です。
いかな御身様であったとしてもかないませぬよ」
「・・・しゃ~ねぇなあ、誰がその者を見受けするんだ?」
「・・・・私がしますよ」
「そうか・・・天孫の部下なら安心して任せられるな・・・。
燐威天命!」
「何をする気ですか!」
「黙ってみていて下さい・・・法印霊術ですか」
「ああ・・・無事にいられるようにな」
「待たせたな、薩摩隼人」
「・・・あんたは?」
「神む光の刃、魔の光の刃、それらを持つ者さ」
「・・・あんた」
「よく頑張ったじゃあないか。
惚れた女を護る為に最後まで足掻いたんだな、頑張ったな」
「・・・・!」
「はは、泣いてしまえ、良くやったな、偉い偉い」
無言で泣く者の背中をポンポンと、軽く叩いた。
「さて、そろそろご家族が迎えに来る頃合いだな、その前に焼き尽くしておくか・・・。
次に来る者の為に綺麗にしておかないとな」
「何か言い残すことはあるか?」
「兄ちゃんと店なんて誰がやるかよ!
どんぶり勘定やるだけやって、あとで大変なことになるのは目に見えているんたぜ!
絶対に御免だね!」
怒鳴るかのように言葉を吐いた。
「元気なやっちゃなぁ・・・車の中で泣いていた奴とは思えん」
「・・・・」
「他には?何か言い残したいことがあるんだろう?」
「・・・・絶対に奥さんと幸せになれよな!
兄ちゃん、本当にずぼらで変な所でおっちょこちょいで、抜けていて・・・・困るんだから」
「そうか・・・確かにな、しっかりした奥さんがいないと厳しそうだ。
しっかり者の良い奥方が傍にいるから安心だな」
安心させるかのように笑った。
「だからさ!あいつのことも・・・もう忘れて良いんだからな・・・」
「・・・・どういうことかわからんが、彼女のことは良いのか?」
何かを思い出したのか、その顔には微かに憂いが帯びた。
「幸せになれ、もう吹っ切っているだろろうけどさ、過去のことなんて幸せになってくれ。
いつか大切な人と共にこれからの人生を歩いてくれ」
「大丈夫だろう、きっと。
その人は強い、幸せになるだろう。
さて、そろそろ送るぞ、覚悟は良いか?」
「最後に、あんたの名を教えてくれ。
もう一度覚えてから行きたいんだ」
勢い良く顔を上げると、力強い目で質問した。
「なんだ、閻羅のおっちゃんには話してある、気にすることはない・・・・○○だ、忘れるなよ」
室内に暗褐色の輝きと、赤い炎が乱舞した。
ただそれは、視える者にしかわからなかった。