フォーリア・コートレール
【十分後 ???】
「はいよ、ご注文のハンバーガー三つね!」
「ありがと! えっと、カリカリのベーコンを挟んだやつは私ので、ユーマとクレアちゃんはお肉とチーズのやつだったよね!」
言いつつ、運ばれてきたハンバーガーをそれぞれに割り振るフォーリア。
ここはジュリラの街中にある食事処――そのテーブル席に俺とクレアとフォーリアはいた。
まあ数年ぶりの再会ということになるし、旧友と昔を懐かしむのも一興だろう。
というのは建前で。
いやぁ助かったマジで。思わぬ形で食事にありつけた。
こちらが本音である。
うん、しょうがない。俺もクレアもお腹減ってたしね。
屋敷以外の場所でごちそうしてくれると言うのであれば付いて行かざるを得ない。
うわぁ、めっちゃいい匂い。
「さ、食べて食べて! 足りなかったらもっと頼むからね!」
「じゃあお言葉に甘えて、いただこうかクレア」
「はい、いただきまーす!」
クレアの号令で三人とも手を合わせて食事開始。
いやはや待ちかねたぞこの時を。今日なにも食べてないのは当然として、昨日も起きて早々【天恵式】のために朝食抜きで出掛けちゃったから……二日ぶりの食事か。
あぁうまい、体中にエネルギーが行き渡っていく感じがする。
「こ、これがハンバーガーという食べ物なのですか……!」
クレアは興味津々で目の前の料理を見つめている。
ああ、そうか、確かに屋敷ではこういうファストフードみたいな物は出ていなかったし、クレアにとってはこれがファーストコンタクトになるのか。
「ナ、ナイフやフォークのような食器は必要ないんですか?」
「うん、こうやって手で持って食べるんだよ。あーん、はむっ」
と、フォーリアは自らハンバーガーを頬張ってお手本を見せる。
ちなみに、この店を選んだのは他でもないフォーリアだ。
彼女はれっきとしたコートレール家のお嬢様なので、幼い頃から豪華な食卓を経験しているはずなのだが、基本的にフォーリアはそういう貴族っぽいことが苦手らしく、どちらかというと庶民的な暮らしを望んでいる。
だから今夜もこうして、一番の大好物であるハンバーガーを食べるためにここを選んだ、というわけだ。
「お高いお店じゃなくてごめんねー?」
「と、とんでもないです! 全然そんなこと思ってないのです!」
フォーリアの言葉をアセアセと否定しつつ、クレアはハンバーガーを持ち上げる。
元々大きめなサイズではあるが、彼女の小さな手で持つと更にボリュームが増したように見えた。
「では、いただきます。はぐっ…………んんっ⁉」
一口目と同時に目を見開くクレア。
そのどちらとも取れるリアクションに対しフォーリアは動揺する。
「あ、あれれ? もしかしておいしくなかった……? ユーマのとこってそんなに素敵なお料理ばっかり出るの? お、お口に合わなかったなら残りは私が食べるよ? なんなら別のとこ行く? ラーメンならクレアちゃんも気に入るかも」
「あ、ごめんなさい……そうじゃないんです。あまりにもおいしかったので固まってしまいました」
「お、おいしかったの……?」
「はい、とっても。このパンとお肉のハーモニーがなんとも言えません!」
その満面の笑みを見て、「よかったぁ」とフォーリアは胸を撫でおろす。
心の底からホッっとしたようで、安堵のため息までついた。
俺が昔、かなりクセのあるチーズを勧められた時は、断っても強引に食べさせようとしてきたけどな。
そう考えると多少は成長しているように見受けられる。
まあ、クレアの反応は長いこと一緒にいる俺にしてみれば一目瞭然だったけど、フォーリアの反応が面白かったので黙っていた。
ささやかな仕返しだ。
「あー、喜んでくれて良かった。たまにお友達をここに招待するとみんな微妙な顔になるから、本当はちょっと不安だったの」
「お友達って、例えば誰?」
「アードルマイヤ家とか、ホノルボン家のお友達」
「それ、どっちもコートレールと同じくらいの名家じゃん……まあでも確かに、気に入らないからってそれを顔に出すのはよくないよな」
「だよね! せっかく私が珍しくお茶会に招待したのに、そんなのって失礼だよね!」
「撤回する。全面的にフォーリアが悪い」
お茶会に呼ばれてハンバーガー屋に連れてこられたら俺でも困惑するわ。
それで喜ぶお嬢様はお前くらいだ。
「まったく、そのお友達もいい迷惑だよ」
「そうかなぁ、こんなにおいしいのにー」
そう言って、初めての味に夢中になっているクレアを横目に、フォーリアはカリカリのベーコンがサンドされたハンバーガーをおいしそうにかじる。
同族ながら、こんなに破天荒なお嬢様を一人にしといていいんだろうか。
実際、さっきも変な男に連れさられそうになってたし。
昔からの付き合いなのですっかり慣れてしまっているけど、フォーリアは貴族のご令嬢なだけあって、客観的に見ても見た目は悪くない。むしろ良い。金色の髪はサラサラで青色の目はクリクリ。中身の性格を知らなければ声を掛けてしまうのも無理はないだろう。
だからこそ疑問に思う。
「それにしても珍しいな。あの過保護な叔父さんがフォーリアに護衛も付けずに外出させるなんて」
「え? あー……うん、そうだね。ホントホント。あ、ところでさ、話は変わるんだけど」
「いや、なんでいきなり話題を変える必要があ――」
「話・は・変・わ・る・ん・だ・け・ど」
「…………」
強引に押し通された。
なんか明らかに都合悪そう……。
が、しかし、フォーリアの話を遮る術を持っていないので諦めるしかあるまい。
今は奢られてる立場だしね。
「私のことはいいから、それより、今しなきゃいけないのはそっちの話だよ。ねぇユーマ、一体何があったの?」
「何がって?」
「だから、どうしてコートレールを追い出されちゃったのかなって」
「ああ……やっぱりもう伝わってるのか」
「うん。私の家にもシーゲルから連絡が来たの。『もしユーマが訪ねて来ても家の敷居は跨がせるな』だって。みんなびっくりしてたよ」
「手回しが早いな、まあ、ジュリラの街は屋敷から一番近いから当然っちゃ当然か」
「何やらかしたの? もしかして私みたいに大事な食事会をすっぽかしたりした?」
「お前、そんな大胆なことしてんの……? いやでも、俺の場合はもっとひどいかも。【天恵の儀】で貰ったスキルを試すことになって、公衆の面前で弟にボコボコにされた」
「あ、そっか。ユーマももう十六歳なんだ。早いねぇ。いやぁ、大人になると時間が経つのなんてあっという間だよ。ユーマなんてこの間までちっちゃい子供だったのに」
「なんかすごい大人みたいな言い方だけど、フォーリアだってまだ十八だろ」
たった二歳しか違わないんですが。
「私はもう大人ですぅ。身体だって立派に成長したし、ハンバーガーに入ってる緑色の変なのだって今は食べれるんだからね?」
「ピクルスを知らない奴は大人じゃないって」
「ううん、私はユーマが家を追い出された理由を聞いて怒っているのでまともな大人です」
「……怒ってる?」
「だってそうでしょ? 正式な決闘ならともかく、ただの模擬戦で負けただけで家を追い出されてたら貴族なんてやってらんないよ」
と、眉間にしわを寄せるフォーリア。
いつも明るい彼女がこうも露骨に憤るのは珍しい。
なんだかんだで俺のことを心配してくれている、ということだろうか。
「まあ、模擬戦の結果だけじゃないさ。シーゲルが【剣聖】のスキルを授かったり、俺の貰ったスキルが派手じゃなかったりで、色々と要因が重なった感じだ」
「そんなにひどいスキル貰ったの? ちょっと見せてよ」
「えぇ……」
「いいじゃん、いいじゃん。減るもんじゃないし」
フォーリアはハンバーガーを一旦お皿に置き、クイクイと手をこまねく。
本来、人間が所持しているスキルの効果は、誰しもが気軽に閲覧できるものではない。
俺だって自分が持っている【零点特化】がどんなスキルなのかを知るためには、今日のように実際に試してみるしかないのだ。
しかし、彼女は二年前の【天恵の儀】で【潜在鑑定】という他者のスキルの効果を閲覧することができる能力を手に入れた。
ちなみに歴代のジュリラ大聖堂の司祭も、このスキルを持っている候補者たちを募り、その中から選抜する決まりになっている。
なので現在、彼女は次の大聖堂司祭となるべく、この街で聖職者として修行の日々を送っている。
――って、二年前に貰った手紙にはそう書いてあったけど、一年前に貰った手紙にはおいしい料理を出してくれるお店のことしか書かれていなかったし、真面目に取り組んでいるのか怪しいところだ。
「なぁ、ちゃんと大聖堂には通ってるのか?」
「もちろん、気が向いた時にはバリバリ行ってるよ」
「…………」
うん、期待できない。
というかそもそも。
「フォーリアが見てくれても分からないと思うぞ。儀式のときに司祭の人が見てくれたけど、どんな能力か分からないって言ってたんだ。だからだいじょう――」
「スキル解放【潜在鑑定】」
フォーリアがそう口にした瞬間、彼女の青い瞳はさらにその輝きを増す。
えっと……人の話を聞いてないですね、この人。
年上なのに。
「はーい、じゃあ能力を見ていくからジッとしててねー」
「……はいはい」
その自由奔放さに白旗を上げた俺は、フォーリアの言いつけ通りに大人しくする。
彼女はまるで瞳に書いてある文字を読み上げているかのように、俺と目を合わせたまま動かない。
それから数秒後。
「むむむ……」
俺たちのテーブルはフォーリアの「うーん」や「おかしいな」といった呟きだけが流れる奇妙な空間と化した。
クレアもハンバーガーに夢中のため会話に入ってこない。
笑顔でハグハグと食べ進めている。
まあ、そこまで気に入ってくれたのならなによりだ。
「な、やっぱ分からないだろ?」
「くう、こんなことなら大聖堂の修行をサボるんじゃなかった……!」
「…………」
やっぱサボってたんだ……。
薄々わかってたけどね。
「い、言っとくけどまだ本気じゃないから……よし、ちょっと全力出しちゃおっかな」
そう言って、フォーリアはテーブルから身を乗り出し、対面に座っている俺の目をさらに近距離で見つめる。
このまま「無理でした」と引き下がるのは彼女のプライドが許さないらしい。
その気持ちは分からないでもないのだが……。
うん。まずいな。
フォーリアのブラウスの隙間から覗く白い肌が、テーブルに手をつく前かがみな姿勢になっているせいで胸元まで見えてしまっている。
気まず……目ぇ逸らそ。
「ちょっとユーマ、集中してるから眼球は動かさないでこのまま固定」
「……はい」
フォーリアに注意を受けてしまったので、依然として焦点は彼女の胸元に合ったまま。
その双丘は確かに、数年経ってもなんの変化も見られない精神とはまるで違い、彼女の成長を最も顕著に表している。
「意外と大きいね。ユーマの目」
「…………」
「形も悪くないよ。瞳孔の」
「…………」
「うん、良い感じ。もう少し、もう少しで見えそう……」
「………………」
こっちのセリフなんだよね。さっきからずっと。
てか瞳孔の形って何?
「あとちょっと。あ、良い感じかも。やっと見え――」
「ごめん、もういいわ!」
限界です!
俺は咄嗟に顔を背ける。
「あー! なんでいきなりやめちゃうの⁉ あと一秒あれば全部見えてたのにー!」
「それはこっちのセリフだからマジで!」
「なになに? どういうこと?」
「なんでもない……とにかくもういいから、気持ちだけで十分だ」
「……? 変なの」
と。
光り輝く青い瞳をこちらに向けたまま――フォーリアは。
動揺し取り乱す俺を見て、不思議そうに首を傾げた。
読んでいただきありがとうございます!
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