大団円……?
「すごいよオルフェちゃん! これでジュリラの問題は解決したも同然だね!」
「ふふん、もっと褒めなさいフォーリア。そしてこのおいしい料理をもっと出して。私はまだお腹が空いているわ」
「うん! みんなー、もっとご馳走持ってきてー!」
「「かしこまりましたお嬢様!」」
ガヤガヤ、ザワザワ、と。
夕食時のフォーリア邸は大盛り上がりだった。
オルフェが『フルバースト』の発動に成功し、ゾンビ殲滅の糸口が見えたことで、フォーリアを初め、長らく不安を抱えてきたこの屋敷の人たちは安堵感を露わにしている。
加えて、俺たちが問題を解決すれば必然的に、それを雇ったフォーリアの株も上がるのだから、使用人さんたちにとっては二重に嬉しい出来事というわけだ。
ただ――
「あるじ様、どうかされましたか? お食事の手が止まっているようですが……なにか考え事でも?」
「ん、いや、なんでもない。料理の数が多すぎてどれを食べるか迷ってただけだ」
隣の席から心配そうに覗きこんでくるクレアに、俺はそう返す。
うん、別に不安材料があるわけではない。現状、うまくいっていると思う。
ただ、うまくいっている時ほど慎重に事を進めなければいけない。と。
昔、コートレールでそう教えられた為、こういう順調な時でもいまいち全力で喜べない。
しかし、そんな俺とは対照的に。
「アルジー! そんな難しい顔してどうしたのよ! 全然食べてないじゃない! なになに? なんか嫌いな物でもあるの?」
がしぃ、と。
オルフェが俺の肩に腕を回して絡んできた。うざい。
このテンションの上がりよう、有頂天のお手本みたいな奴だ。
「せっかくのお祝いの席だっていうのに、そんな顔してちゃ勿体ないでしょ? ま、兜を被ってるから表情は分からないんだけど。なんてね! あはは!」
「テンション高っ……あのなぁ、あんまりハメを外し過ぎるなよ。明日もあるんだから」
「問題ナシ! ストーカーまがいのゾンビ共なんて、私がぜーんぶ倒しちゃうから!」
「……? なぁ、ずっと気になってたんだけど、ストーカーまがいって何のことだ?」
「だってあいつら、どこまで逃げてもずっとついて来るでしょ? だからストーカー」
「あー、そういうことか」
一度目を付けられるとしつこく追って来るからストーカーってことね。
「あの鬱陶しいゾンビ共を殲滅することによって、オルフェ・リターナブルの魔法使いとしての輝かしい日々がようやく始まるのよ! あっははは! 魔法って最高!」
「……なんか安っぽい悪役みたいで怖いんだけど……お前、お酒とか飲んでないよな?」
「ないわよ? 普通にお茶」
「…………」
シラフでこれか
酔ったらどうなるんだろ、この魔女っ子。
【十一時間後 ジュリラのコートレール邸】
「オルフェが起きてこない?」
翌日、朝食のために食堂へ降りてきていた俺は、クレアが言った言葉をそのまま繰り返した。
「はい。お部屋の扉をノックしたのですが返事がなく、勝手に入るのもどうかと思いましたので、あるじ様に相談へ参りました」
「参りましたって……クレア、俺の寝室にはいつも勝手に入ってくるじゃん」
「あるじ様はいいんです。わたしのご主人様ですから」
「なるほどね……」
よく分かんない理屈だ。
まだ脳が機能していない朝だからとかじゃなく、何時に聞いても理解できそうにない。
ま、プライベートな空間に対する礼儀がキチンとしているのは良いことだ。そこに俺が含まれていないとはいえ。
「うーん、別に寝かしといても勝手に起きてくるだろうけど、あいつ、朝食を食べ損ねたら怒るだろうからな……仕方ない、起こしに行こうか」
「はい、お供いたします」
俺はクレアを連れて食堂を後にし、客人用の部屋が並ぶ廊下へと向かう。
そしてその内の一室、オルフェが寝泊まりしている部屋の前で足を止めた。
まずは軽くノック。
「オルフェ、朝だぞ。朝食を食べなくていいのか?」
「…………」
返事はない。やはり寝ているようだ。
「どうしましょう……あるじ様」
「カギも掛かってないし、入って直接起こすか」
「いいんでしょうか、そんなことしても……?」
「いいだろ、俺も昨日、朝っぱらからオルフェに『起きなさい、魔力の修行に行くわよ!』って勝手に部屋に入られて叩き起こされたからな」
昨日の目覚めの悪さを思い出しつつ、俺はドアを開けて中に入り、ベッドで眠る彼女の元へ歩み寄った。
「オルフェ、もう朝だぞ、起きろ」
するとオルフェは目をゆっくりと開き、ぼんやりと寝ぼけながら、呻くように言う。
「ん……だ……い……」
「なんて?」
「だ……るい……」
「ダルい?」
おかしいな、【零点特化】は既に解除しているはずだが。
それに、昨日は消費魔力もゼロだったんだから特に消耗もしないはずなのに……あ。
もしかして、魔力消費だけゼロにして体力消費はゼロにしてなかったからかな?
それで本来の限界を超えて無理をしちゃったから、反動がきたのかも。
「全身がバキバキに痛むわ。筋肉痛なんか比じゃない……くらい」
「おいおい大丈夫か? ちょっと待ってろ、フォーリアに医者を呼んでもらうから」
「いや、いい……人間のお医者さんに診てもらっても意味ないし……」
「? 人間以外の医者なんかいないだろ?」
「とにかくいいから。寝てれば治るわ……」
「そういう訳にはいかないだろ。大事だったらどうするんだ」
「あ……なんか元気になってきたかも。気のせいだったみたい」
そう言っている彼女の顔色は、どう見ても普段より悪い。
空元気か。
「クレア、確かめてくれ」
「了解しました、オルフェさん、失礼します」
「ちょ、クレア待って、平気だからホントに――あっ」
ぴとっ、とクレアは自らの額をオルフェと合わせる。
「うわわ、とっても熱いです。やはり体調を崩されているのかと」
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