どうやら仲間が増えたっぽいです
【一時間後 ジュリラのコートレール邸】
「ただいま帰りました!」
「おかえりクレアちゃん! もう帰って来たの? 随分と早いね――って、んん?」
屋敷の大広間で出迎えてくれたフォーリアは、俺たちを見るなり小首を傾げた。
出発前の人数に一人プラスされている違和感のせいだろう。
当然だな。
「アルジ、どうしたの、その子?」
「なんか懐かれた……」
「懐いてない! 同志を見つけたから行動を共にしているだけ!」
「……どうし?」
フォーリアは更に首を傾げてこちらを見る。
「経緯を説明しよう。コイツが――ああいや、オルフェがゾンビに喧嘩を売って返り討ちになっているところを俺たちが助けたんだけど、そしたら付いて来るって言いだして、【魔力覚醒】を持ってるっていう嘘までつく始末なんだ」
「だから嘘じゃないって! ホントなの!」
「――という言い争いがありましたので、こうして帰宅した次第です。フォーリア様」
「まとめてくれてありがとう、クレアちゃん。オッケー、つまり私がオルフェちゃんを見ればいいんだね?」
と、フォーリアはオルフェの前まで歩み寄り、あっけらかんとした口調で語り掛ける。
「初めましてオルフェちゃん、私ね、人のスキルとかを確認できるんだけど、オルフェちゃんのを見てもいいかな?」
「それで私の言葉が真実だと証明できるのなら、ぜひお願いするわ」
「りょーかい。じゃあ見ていくねー。スキル解放っと」
【潜在鑑定】を起動したフォーリアは青い瞳を輝かせ、オルフェの目をジッと見つめる。
それから少し沈黙の時間があって。
そこから更に静寂が保たれる。
………………。
その空気に耐えかねたクレアが耳打ちをしてきた。
「あの……あるじ様?」
「……ああ」
候補がフォーリアしかいなかったからここに戻って来たけど、失敗だったかも。
「無礼を承知で申し上げるのですが……わたし、トイレに行ってきてもいいでしょうか? さっきからずっと我慢してて……」
「行ってこい行ってこい。あと五分はかかるから」
「……失礼します」
申し訳なさそうに席を外すクレアを見送って、この場には三人が残された。
「待たせちゃってごめんねー。そうだ、暇つぶしに雑談でもしよっか。ねぇ、オルフェちゃんはどこ出身なの?」
「名前を知らない相手に出身を聞かれても困るわ。先に私が、アンタの名前を聞いてあげる」
「あ、そうだよね。ごめんごめん。フォーリアです♡ よろしくー」
「…………」
他人事ながらヒヤヒヤする言動だ……。
一応、この街で一番大きい名家のご令嬢なわけだし、他の人に聞かれでもしたら大変だぞ。
「なぁオルフェ、その人はマジでお偉いさんだからお淑やかにしてた方がいい。あのグラシュリス・コートレールの娘さんなんだ。俺たちみたいなのは片手で消せる」
「もー、しないってそんなこと」
「グラシュリス……ああ、前に聞いたことあるわ。どっかのマイナー貴族の少年が強いスキルを発現したとかしてないとか、私の国でも話題になったし」
「マイナーって言うな。いや、それより少年って……グラシュリス騎士団長はもう子供がいるような歳だぞ」
「そうなの? じゃあ別人かしら。私の勘違いかも」
「オルフェちゃん、アルジの言うことは真に受けなくていいからね。私自身はなにも凄い事してないし、気は遣わなくていいから」
「……ふぅん、大変ね、偉大な親を持つと」
「んー、そうだね。あ、ところで、オルフェちゃんはどこから依頼を受けてるの? もしアルジたちと行動するなら向こうにも話を通しておく必要があるから、よかったら教えて?」
「どこからの依頼を受けてるのって……どういうこと?」
「だからその、オルフェちゃんに『ゾンビをどうにかしてくれー』ってお願いした人」
「そんなのいないわ。困っている人間を助けるのは王族としての使命だもの」
フォーリアの質問に対し、オルフェは誇らしそうに言った。
で、言われたフォーリアは目をパチクリさせている。
うん、俺も彼女と同じ気持ちだ。こういう厄介な仕事は普通、街なりギルドなり貴族なり、どこかしらの依頼を受けて遂行するものだからである。
ゾンビ退治は慈善事業として成り立たないと思うんだけど……。
ただ、それと同じくらい引っ掛かったワードがもう一つ。
おそらくフォーリアも同じ疑問を抱いたはず。
「ええっと、オルフェちゃんって王族なの?」
「そうよ。リターナブル家の第三王女と言えば伝わるでしょ?」
そう言って粛々と肯定するオルフェ。
しかし。
「うーん……私の勉強不足かなぁ。アルジ知ってる?」
「聞いたことないな」
二人ともオルフェに威厳を感じることはできなかった。
ごめんね。
「なんで知らないの? アンタたち本当にこの国で生活してる生き物なの?」
「どこに本拠地があるんだ? そのマイナー王族は」
「そんな悲しい言い方すんなっ!」
「お前が先にコートレールをそう呼んだんだろ!」
「いいわ教えてあげる! オルフェ・リターナブルがどれだけ偉大な使命を持ってこの世界を旅しているかを一から丁寧に――」
「あ、やっと見えたよー。はい、雑談終わり」
「もー! まだ話してるのに!」
ワーキャーと騒ぎ立てるオルフェをスルーして、俺はフォーリアに尋ねる。
「どうだった?」
「うん、それがね……」
フォーリアはそこでもったいぶるように溜め、俺たちの注目を集めてから口を開く。
「オルフェちゃん、本当に【魔力覚醒】持ってるよ! 魔法の威力を何倍にも引き上げる超すごいスキル!」
「え……マジで?」
「ふふん、だから言ったでしょ。私は女神に選ばれた天才なの」
「すごーい! オルフェちゃん魔導院に入りなよ! お金は私が出してあげるからさ!」
「あ、いや、それはちょっと……」
「どうして?」
「まあ、その、人間が多い場所は苦手っていうか……」
「なら私から、できるだけ人と関わらなくて済むように頼もうか?」
「え、いやいやいや、そこまでしてもらうのは悪いし……」
ダメだオルフェ、一度興味を持ったフォーリアはそんなんじゃ引き離せないぞ。
言い淀む彼女の代わりに俺が正直な説明を入れるとしよう。
「フォーリア、オルフェは魔法が撃てないんだよ」
「あっ、ちょっ、言わないで!」
「うん? 撃てないってどういうこと?」
「そのままの意味だ。魔法を使えないから【魔力覚醒】で強化ができないらしい」
「そうなの? オルフェちゃん」
「あ、う……まあ、そう」
フォーリアから目を逸らし、気まずそうに頷くオルフェ。
魔法の話題になると勝ち気な雰囲気が薄れるのは、おそらく、これが彼女の抱えている一番のコンプレックスだからだろう。
「で、でも【魔力覚醒】を持ってるのは本当だったし、仲間に入ってもいいわよね?」
「ダメじゃないけどさ……うーん……」
怪我人1名と一般人2名になっちゃうんだよね、そうなると。
それが果たしてオルフェにとって良い環境なのかというと難しいところである。
そんな風に考え込む俺の顔を見て、オルフェは両手を合わせて懇願する。
「お願い! い、いずれ撃てるようになるから! 絶対! ママもお姉ちゃんたちも立派な魔法使いなの! だから私もきっと……! ほら、お花を種から育てると思えば気も楽じゃない?」
「お前、ちゃんと咲けるのか?」
「咲くわ! それはもう鮮やかに!」
「……フォーリアはどう思う?」
「うん、私はもちろんいいよー」
そのあまりにもあっさりした返答に驚くオルフェ。
「え……いいの? そんなあっさり?」
「早いってお前」
「だっていいものはいいんだん。他に言うことある? 魔法が使えないなら練習すればいいんだよ。はい、加入完了。さっそく魔法使いの先生を呼んでレッスンを受けようね!」
「待て待て待て、実際に同行するのは俺たちなんだけど、その辺は考慮してくれないの?」
「んー、まあ、今のアルジの雇い主は私だからね? 私が決めたことが最優先、みたいな?」
「傲慢な貴族だな……会って数分の奴にどうしてそこまで?」
「だってどこかの誰かさんと違って、オルフェちゃんは私の【潜在鑑定】にちゃんと最後まで付き合ってくれたし?」
「…………」
根に持ってたか。
あれは時間が掛かったから中断したんじゃないんだけど……弁明しようがないもんな。
「ま、そもそも行くアテのない女の子を放ってはおけないじゃん? 私だって一応、この街を治める権力者の一人なわけだし」
「やったぁ! ありがとうフォーリア! 私、頑張る! というわけでアルジ、私が仲間になってあげるから! よかったわね!」
「その言い方だとまるでこっちが頼み込んだみたいになってるな……まあいいや、雇い主の要望にはおとなしく従うさ」
「なによ、それだと嫌々みたいじゃない」
「みたいというか、半分くらいはそうなんだ」
「私にだってちゃんと協調性はあるわよ。新入りとして、ちょっとくらいなら言うことだって聞いてあげてもいいわ。王族にも下積みは必要だしね」
「じゃあ早速なんだけど、一ついいか?」
「なんでも言って!」
「匂いが気になるから風呂に入ってこい」
「だからこれはゾンビのせいだって! ……いやまあ、入るけど!」
と、いった感じでまあ――
魔法使い(魔術発動不可)が仲間になった。
……えっと、大丈夫なんでしょうか。
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