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わがまま令嬢に仕えて十余年、そろそろ自分の幸せを見つけたいアラサー従女のあれやこれ

作者: 屋津摩崎

 疲れきった顔をした私が窓に映っていた・・・


 顔色は悪く、体調が良くないと自覚している。このまま今日は休んでベッドに横になってしまいたいと思うが、そういう訳にもいかないので大きく溜息を吐く。


「ねーえ!サーヤ!!何をしているの!早く来て!!」


 遠くで私を呼ぶ声がする。体調が悪くて返事もするのも億劫になってしまうがそういう訳にはいかず、すぐに声のする方へと歩き出す。


 サーヤとは私の名前だ、17歳の時に親の借金の(かた)にこの国の貴族ビンスロー子爵に売られ、そしてビンスロー子爵家の一人娘カトレアの従女として働くことになって十余年の年月が過ぎた。

 カトレアは最初に出会った頃からわがまま放題で、私の事を気に入ったのか毎日のように金切り声で名前を呼んでくる。今では慣れてしまったが、最初の頃は夢にまで出てきて嫌で嫌でしょうがない。


「頑張ってねサーヤ」

「カトレアお嬢様のお世話を出来るのはサーヤだけよね」


 声のする方へと向かうとすれ違う同僚達から同情の目を向けられる。誰かに決められた訳ではなく、いつのまにかカトレアに気に入られた私が専属従女のように扱われ、カトレアも何かあるとすぐに私の名前を呼ぶようになった。

「やっと来た!ねえ!この服にはどのリボンが合うと思う?」

 しょうもない理由で喚き散らさないでほしい。

「お嬢様の美しい金色の御髪(おぐし)には対照的な暗い色の方がお似合いかと」

 適当な事をそれっぽく言ってみる、するとカトレアは何か考え込む。

「確かに前にピンクをつけたら全然目立たなかったわ、じゃあこれにする」

 そう言うと濃い色の赤を選ぶがはっきり言って似合わない。


「お嬢様、思い切ってこれになさったらいかがです?」

「黒!?」


 あまり口出すつもりはなかったが、カトレアのセンスの無さに自分まで一緒に恥をかく事になりそうだ。

「ドレスも明るい色なのでワンポイントで極端に濃い色を入れましょう」

 訝しむカトレアを無視して黒色のレースのリボンを結ぶ、カトレアは素材は悪くないがキツめの容姿が周囲を遠ざけさせている。私としてはカトレアが嫌われる事に問題ないが、私のせいにされるのは不味い。そのせいで給料が減ったら目も当てられない。

「・・・いいわ、これで我慢してあげる」


 本当に生意気な小娘だ。


「これからサーストン公爵様のお茶会に行くわ、サーヤも一緒に来なさい」

 体調が悪いのではっきり言って行きたくない。でも命令は絶対なので断る事は出来ない、せめてもの武装として私も馬鹿にされない程度の化粧をする。

「あらサーヤも同行するの?」

 私が化粧をしているので同僚が声をかけてくる。

「お嬢様の命令、あまり体調が良くないから行きたくないんだよね」

 本人の前では言えない本音を思わず漏らしてしまう。

「断れば良いじゃない」

「私の親の借金を肩代わりしてくれる?これでクビになったら責任とってよ」

 同僚の無責任な言い分に言い返すとソッポを向かれてしまった。


「ああー、誰か借金を肩代わりしてくれる金持ちが、私に結婚を申し込んでくれないかなぁー。そうしたらこんな職場なんて辞めてやるのに」

 自分で言っていて悲しくなってくる、30を前にしてその可能性は限りなくゼロだろう。

「本当にろくでもない親よね、借金の形に子供を置いていくなんて」

 この同僚従女は私の事情を知っているのでよく同情される。ただ本当にその通りで悲しくなる、計算すると借金は20年はこの屋敷で働かないといけない額になるらしい、すでに10年は働いたので半分は返済した事になる。

「全部借金を返す頃には40かぁ、そうしたら仕事を辞めて親を探す旅に出るわ」

「え?何で?毒親よね?」

 私の言葉が意外だったのか同僚は驚いている。

「見つけ出して私の手でぶちのめしてやる!」

 拳を強く握って復讐を誓う。子供を生贄に自分達だけ楽をしようなんて絶対に許さない、私の残りの全て復讐に捧げてやる。


「サーヤ!何しているの、早くなさい!!」


 私の決心を他所にカトレアは金切り声をあげる。

「ふふふ、お呼びだよ」

「うう、お腹が痛い」

 化粧を終えて立ち上がる、おそらくストレスからくると思われる腹部の痛みを覚えながらもカトレアと合流する。


 馬車に乗り込みサーストン公爵邸へと向かう、お目当てのサーストン公爵家の三男と会えるからカトレアはご機嫌だ。

 私を同行させるのは自分のボロが出るのを未然に防ぐためだろう。私は今まで何度もカトレアの失態の尻拭いをしてた、それにうんざりした私は先回りしてフォローをするようになった、カトレアはそれに味をしめて大事な場面では私を同行させるようになってしまった。


 馬車の揺れに気持ち悪さが倍増される、本格的にダメな体調不良かもしれない・・・

「辛気臭い顔をしないでよ、背筋を伸ばしなさい!」

 このムカつく小娘を殴ってやりたい、辛気臭い訳でなくて体調が悪いんだ!と言い返してやりたいが借金を抱えたままクビになると奴隷にでもなって身体を売らないとならないので我慢するしかない。


「や、やっと着いた」

 馬車が止まり少しだけ安堵する。先に馬車から降りてカトレアをエスコートする、馬車から降りた瞬間に立ちくらみがしたが気合いで立て直す。

「ようこそカトレア様!」

「お招きしていただき、ありがとうございますエリア様」

 サーストン公爵家令嬢のエリアお嬢様が出迎えてくれた、カトレアと違ってお淑やかな正真正銘の貴族令嬢だ。

 逆にカトレアはエリアお嬢様のひとつ上の兄である公爵家三男マリウス様に近づくためだけに仲良くなったと言っても過言ではない、まさにカトレアは心から尊敬できない貴族令嬢なのだ。

「何よその目は」

「いえ、別に」

 最近は私が心の中でカトレアの悪口を言っているとなぜか勘付かれる、今でもジイッと私の顔を覗き込んで訝しんでいる。誤魔化し笑いをしながら屋敷の中へと促すと仕方なさげに中へと歩き出す、小賢しくなってきたので扱いが難しくなってきた。


 そしてエリアお嬢様とカトレアのお茶会が始まった。何が楽しいか分からないが、どこかの知らない誰それの噂話を二人で嬉しそうに話している。

 ただそれをずっと見ているだけの私は苦痛以外なんでもない。この様子ならボロが出る気配もなさそうだし、私が来なくても平気ではないかと思えてきた。

「やあ、カトレア嬢。良く来てくれたね」

 ここで爽やかな美少年がお茶会に乱入してくる、サーストン公爵家の三男のマリウス様だ。お目当ての人物が登場してカトレアはあからさまに顔が変わり、発情したメス猫のような顔になる。


 コンッ!


「あっ!申し訳ありません、失礼いたしました」


 あまりにも露骨に変わり過ぎて見てられない、わざと音を立ててカトレアに合図をおくる。私の意図を感じとったのかカトレアはハッとして顔を引き締めて平常心を取り戻す。これぐらい素直なら可愛げがあるのに・・・

「サーヤさん大丈夫ですか?どうも顔色が悪いようですが」

 私の近くにいたサーストン家の執事が声をかけてくれる、まさか私の名前を覚えてくれているとは思わなかった。


 背も高くて顔も良い、優しそうできっとお金も持っている。

 ああ、私の理想とする殿方がこんな場所にいたとは・・・


 思わず変な妄想をしてしまった。

 次の瞬間、目の前が真っ暗になり、身体に力が入らずに前のめりに倒れ込む。


「サーヤ!?」

「ちょっ、大丈夫!?早く医者を呼んで!!!」

「サーヤ!サーヤ!!サーヤ!!!」

「ねえ!お願い!!死なないで!!!」


 薄れゆく意識の中で、カトレアの取り乱したような金切り声が聞こえてくる。

 こんな時まで私の名前を連呼しないでほしい、そう思うと同時に私の記憶はここでプッツリと切れてしまった。



 私が気がついたのは数日経った後だった。サーストン公爵家で倒れた後の事は見舞いに来た同僚から教えてもらった。私が倒れたことでパニックになってしまいお茶会は中止、そのまま病院に連れていかれたらしい。

 その際に私の近くにいたサーストン公爵家のイケメン執事が私を抱き抱えて運んでくれたらしい、意識を失っていたのが本当に悔やまれる。

「ああ、失敗したなぁ、とうとうクビかなぁ、借金を返してから辞めたかったなぁ」

 病室の天井を見上げながら呟く。

「サーヤさん、ビンスロー子爵様のお嬢様がお見舞いにいらっしゃってますよ」

 声のする方を見ると看護士さんが立っており、後ろにはカトレアがいた。

「サーヤ」

 カトレアは私が倒れてから毎日のように見舞いに来ている、私の意識が戻るまでここに泊まると言って周囲に迷惑をかけたとも聞いている。普段の高慢な生意気令嬢と違い、落ち込んだ様子で沈痛な面もちだから調子が狂ってしまう。

「もう大丈夫なの?」

 背筋がむず痒い、普段なら絶対に私の心配などしないのに。

「はい、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」

「・・・本当に?本当に大丈夫?」

 疑り深く念押しに聞いてくる。そう思うなら寝かせろと言いたいけど言えないのが情けない。


「サーヤ」

「サーヤさん」


 ここで珍しい人が病室に入ってくる。サーストン公爵家令嬢のエリアお嬢様とイケメン執事だ、イケメン執事に再び名前を呼ばれるとドキッとしてしまう。

「もう大丈夫なの?」

 単なる従女である私を心配してくれるなんて、エリアお嬢様は本当に尊敬できる淑女の鑑のような人だ。

「この度は私めの失態でございます、多大なご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 私のせいでお茶会が流れてしまった事を謝罪し、深々と頭を下げる。そしてついでにカトレアに向けても頭を下げて謝罪する。

「この度はとんでもない失態を犯してしまいました、いかなる罰を受ける所存です、つきましては私にはこれくらいしか責任を取る方法がございません」

 そう言うと病室で書いた辞表をカトレアに渡す。残りの借金の返済は奴隷に落ちて誰かに買ってもらうしかなさそうだ。


「なっ!?ふざけないで!!」


 せっかく書いた辞表なのに、カトレアは私の目の前で破り捨てる、ここ数日の私の努力を無駄にされてしまった。

「サーヤがいなかったらダメなの!!絶対に辞めさせないから!!」

 なぜカトレアが泣く!?

「何で体調が悪いなら言ってくれないの!!私は、私が、どれだけ心配したと思っているの!!!」

 私に抱きつきながら見苦しく泣き喚く。こんなはしたない姿を公爵家の人達に見せて見苦しい、なさけなくて私まで涙で視界がボヤけてきてしまったじゃないか。

「サーヤさんがカトレアお嬢様を献身的に支えてきたのは周知の事実です。その姿には私どもはいつも感銘を受けてきました、どうか早まった決断をなさらないで下さい」

 イケメン執事に惚れてしまいそうだ。年上のお姉さんは好みじゃないかな?

「サーヤに何ら責任は無いし、サーストン公爵家一同サーヤの回復を祈っているわ」

 エリアお嬢様が女神様に見える、私がクビになったらサーストン公爵家で雇ってくれないかな。



 後日私は無事に退院する事ができた。

 全快とまではいかないけど体調はすこぶる良くなった、ビンスロー子爵家の屋敷に戻ると真っ先に旦那様から呼び出しを受ける。

「大変ご迷惑をおかけしました、旦那様、奥様」

 呼び出された理由はだいたい分かる、今後の私の処遇を言い渡されるんだろう。

「それで体調は良くなったの?」

 子爵家で唯一の救いである奥様から心配のお言葉をかけてくれる。こんな素晴らしい人から、どうやったらカトレアのようなわがまま傲慢令嬢が生まれるのか理解できない。

「はい、もう大丈夫です、ご心配をかけてしまいました」

 私の言葉に2人は安堵の表情になる。

「そうか、しばらくは仕事をセーブしなさい、今日はゆっくりと養生してくれ」

 旦那様が私をいたわる?予想外の出来事に困惑してしまう。


「え?そ、それだけですか?」

「ん?」


 私の言葉に旦那様と奥様も変な顔をしている。

「い、いえ、てっきり私の処遇が決まるのかと思ってまして。此度の私の失態でお茶会を台無しにしてしまったのです。せっかくお嬢様が公爵様とご懇意にされていたのに」

 そう言うと再び書いた辞表を取り出す。

「お嬢様に渡したら破られてしまったので、旦那様に直接お渡ししようと」

「え?何を言っているの?辞めるの?」

 辞表を見て奥様が狼狽え始める、良い人だけに悲しませるのは心苦しい。


「親の借金の形とはいえ、旦那様に救われたこの身ですが」

「ちょっ!ちょっ!!ちょっと待て!!」


 言い終わる前に旦那様が慌てて止める、呆気に取られていると奥様を強引に部屋から退出させてしまった。


「旦那様?」

「あーー、いや、実はお前の借金うんぬんは妻は知らない。分かるだろ?あの性格の妻がそれを知ったら」


 何となく察しがついた、人が良すぎる奥様なら借金を帳消しにするとか言い出しかねない。私の身の上を知っているのは屋敷でも一部の人間しかいない、今の反応を見ると奥様は本当に知らなかったようだ。


「ですが、私はお嬢様の大切なお茶会を台無しにしてしまいました。何らかの罰を与えないと周りに示しがつかないのでは?」

「そこは気にするな、むしろ吊り橋効果があったみたいだ」


 吊り橋効果?私が不思議そうな顔をすると旦那様は一度咳払いをしてから口を開く。

「突然お前が倒れてあの場は騒然となったらしい。あの時にカトレアが茶会の席よりも、倒れたお前を優先した事で公爵家ではカトレアは家人を大切にする良き淑女として評価を上げたらしい」

 吊り橋効果ってそういう事なの?恋愛弱者の私には何でそうなるのか理解が出来ない。

「公爵家ではカトレアの株が上がり、三男のマリウス様との婚姻が本当に決まるかもしれん」

 何となく複雑な心境だが、私が倒れたのは無駄にならなかったようだ。


「そうなったらお前には褒美をとらせないとなぁ、借金を帳消しにしても良いが、そうしたら従女を辞める?」

「はい」


 正直に答えると旦那様は笑いを堪えているみたいだ。

「そう言うと思った。じゃあ、それは却下だな。お前はカトレアのお気に入りだから手放さん」

 だったら最初から聞かないでほしい。

「それなら私の親を探してください」

 私の提案が意外だったのか旦那様は顔色が変わる。


「あんな者達でも手を差し伸べようというのか?」

「はぁ?そんな訳ないですよ」


 何か勘違いしているようだ、私が即否定すると再び理解不能な顔をされてしまった。

「見つけ出してこの手でぶちのめすのです!!」

 私は貧弱な拳で見えない仮想敵を殴りまくる仕草をする。

「却下だ」

 大きな溜息を吐いて呆れられる。いったい褒美とは何なんだ?私に何をくれると言うんだ?

「じゃあ男性を紹介して下さい、金持ちのイケメン、その代表格であるサーストン公爵邸の執事さんとの仲を取り持って下さい」

 妥協案を出すが旦那様は何かを思い出すように考え込む。

「サーストン公爵邸の執事?確か彼は既婚者ではなかったか?」


 ショック!!

 何もせずとも失恋してしまった。


「じゃあ条件の合う人を紹介してください、もうすぐ30歳の恋愛経験無し女で、金持ち、イケメン、優しくて、背が高くて、私が働かなくても養ってくれる器量のある人を探して下さい!!」

「そんな男は余ってないわ!!」


 話は平行線のままだ、世に言うご褒美とはいったい何なんだろう?私には分からない。

「給料を上げて休日を増やす事で妥協しろ。まあ、男の紹介の件は・・・少しは探してみる」

 何とも頼りない返答だ、この様子ではあまり期待は出来なさそうだ。


 旦那様との攻防を終え、部屋から出ると今度はカトレアが待ち構えていた。

「サーヤ・・・」

 何でそんな心配そうな目で見ているんだ?

「どうされました?お嬢様」

 いつも通り従女の鉄仮面をかぶる、するとカトレアは何か言いたそうだが何も言わない。

(いとま)をいただけるそうなので少しだけ養生したいと思います、後は後任の者に申し付け下さい」

 一礼して自室に戻ろうとする、しかしなぜかカトレアも後ろを着いてくる。

「お嬢様?」

 私が立ち止まるとカトレアは言いづらそうに口を開く。

「サーヤ、辞めないよね?」

 かろうじて聞き取れる声量で尋ねてくる、親の借金があるので辞められないとは言えない。まあ、辞めたところで次の就職先のあては無い。

「どうやら首は繋がったみたいです」

 するとカトレアの表情が花が咲いたように明るくなる。もしかして「(いとま)をもらえる」を変な風に受け止めていたのか?

「本当に!?良かったぁ!!」

 馴れ馴れしく私の腕にしがみついてくる、今までの態度と違いすぎて調子が狂ってしまう。

「サーヤがいなくなったらと思ったら不安で不安でしょうがなかった。サーヤの事を大切にしないといけないのにわがままばかり言っていた、あのままサーヤが死んじゃうかと思ったら後悔ばっかり頭によぎって」

 腕にしがみついてくるので歩きづらい。


「ずっとわがままばっかり言って・・・ごめんなさ」

「ダメですよ、それから先は言ってはなりません」


 カトレアが私に謝ろうとするので仕方なく遮る。

「私はお嬢様の従女です、なのでその言葉は必要ありません。それに今まで通りわがままを言ってくれないと私が側にいる必要が無くなってしまいます」

 今まで通りじゃないと調子が狂ってしまう、するとカトレアは何か勘違いしているのか瞳を潤ませて私を見つめてくる。

「・・・ずっと側にいてね」

 この言葉が男性が言ってくれたらどけだけ嬉しい事か!


「それは無理ですね」

「えっ!?な、何で!!!」


 断られると思わなかったのかカトレアが青い顔をしている。

「初めてお会いしてのがお嬢様が6歳の時で私が17歳。専属の従女となってすでに10年以上の歳月が経っております。お嬢様はもう17となり私がここに来た年齢となりました」

 そして私はもうすぐ30に届きそうな年齢になる、自分で言っていて悲しくなってくる。

「お嬢様はすでに結婚を意識する年齢です。その時に私まで婚姻先に一緒に行く訳にはいきません。その家にはその家の流儀があり、誇りを持って多くの人が仕えているのです。ましてや公爵家のご子息様との婚約を目指しているのなら尚更です」

 物は言いようだ、単に私の一生をカトレアのために使いたくないとは口が裂けても言えない。

「それに、私もまだ人生を諦めるつもりはございませんよ、旦那様には私のお相手を探すようにお願いしておきましたから」

 あの様子では当てにならなさそうだ、カトレアを利用して外堀を埋めてやる。

「え!?お父様がサーヤのお相手を!?ど、どんな方!!」

 さすがにカトレアも女の子だ、この手の話にすぐに食いついてきた。


「ふふふ、もうすぐ30歳となる恋愛経験がし女でも良く、金持ち、イケメン、優しくて、背が高くて、働かなくても養ってくれる器量のある人が最低条件です!きっと旦那様なら見つけ出してくれるはず!お嬢様もそう思いますよね!!」


「・・・」

 カトレアが固まる。


「み、見つかるといいね・・・私もお父様を応援します」

 カトレアが顔を引くつかせているが応援を約束してくれた。この反応が何なのかよく分からないが、固まったまま動かなくなってしまったので一礼して自室へ戻ることにする、久しぶりにゆっくりして良いのなら甘えようと思う。



 数ヶ月後、カトレアとサーストン公爵家三男マリウス様との婚約が本当に決まってしまった。ビンスロー子爵家としては過去稀に見れない快挙であり、屋敷全体が祝福する空気に包まれていた。

 そんな中、私は名指しで旦那様に呼び出された。もちろん私への報酬の事だと思い、ウキウキしながら呼び出しに応える。

「条件に見合った殿方が見つかったのですね!」

「は?そんな訳ないだろ?」

 カトレアを利用して外堀を埋めたけど、とんだ無能だったようだ。


「あーーー、お前の親が見つかった」

「えっ!?」


 私は拳を握る。この日のために週に1回腕立て伏せを10回やって鍛えてきたんだ!ついに私の復讐の旅路が始まる、私の手で血祭りにしてやる!!

「あーーー、その落ち着いて聞いてくれ。お前の両親は隣国で詐欺と殺人未遂を犯し現在刑務所にぶち込まれているらしい。しかも手口が悪質らしくて懲役20年だってさ。子供だと名乗りでない方が良いぞ、お前まで罪を疑われるかもしれん」


「・・・は?」


 と、とんでもないクソ親がぁ!!!!

 私の事を売っておいて他所で捕まってんじゃねぇ!!!!


「ぐううう、復讐をするにもさらに20年も待たないといけないなんて・・・」

「わははは、復讐など似合わん事は止めておけ」

 他人事だと思ってニヤニヤしやがって!!


「それからお前にはカトレアと一緒に公爵家に行ってもらう事になった」

「はぁ!!??」


 雇い主でなければ胸ぐらを掴んで殴ってしまいそうだ。

「カトレアたっての希望であり、公爵家からもお前が来る事を強く望まれた、とても名誉な事だから誇りと思え。そうそう、今回の報酬として親の借金は帳消しにしてやる」

 怒りのあまり震えている私をニヤニヤしながら覗き込んでくる。

「娘の事を頼むぞ」

 肩をポンポン叩かれる、そのセリフは本来カトレアの相手に言う言葉だろ!

 心の叫びは誰にも届く事はなかった、こうして私の復讐するリストの中にビンスロー子爵の名前が刻まれた。


 落ち込んだまま部屋を出ると再びカトレアが待ち構えており、何故か私の隣に立って顔を覗き込んでくる。

 カトレアは公爵家三男のマリウスとの婚約が決まり、公爵家に私が同行する事まで決まって幸せ一杯な笑みを浮かべている。

 心では泣いているが、今日も従女の鉄仮面をかぶってカトレアの笑顔に応える。

 私の幸せはいったいどこにあるんだろう・・・



読んでいただきありがとうございました。


一応ジャンルは異世界・恋愛となってますが、ドキドキなどとは程遠い内容で申し訳ない気がします。そこは優しい目で見ていただけるとありがたく思います。


この作品は、私が現在連載中している「母は生まれ変わりて騎士となる」の筆が全く進まなくなった時に気晴らしに書いた小説なので、内容も軽くてノリも良く書けたので作者的には気に入ってたりします。

ここまで読んでいただき重ね重ね感謝の言葉しかありません、気軽に感想などもいただけたら嬉しく思います、本当にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これ公爵家でいい男見つけて結婚する流れでは(笑)!というか見つけそう~ 多分本人が思っているよりはイケてるのではあるまいかという予想はしています。 [一言] お嬢様いきなり目の前で倒れてし…
[一言] サーヤに幸せを!
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