7...鵺宵のおめかし
鵺宵が閉じ込められた場所から出された鵺宵は、
阿戯斗と鎖凪に連れられて、
トコトコと四足歩行で歩いていた。
そこは、床も天井も壁も木製の廊下である。
「お母様、これ何?」
廊下の脇にある照明器具を鼻で小突いた。
木の枠と薄い和紙で構成されたそれは、柔らかい光を放っている。
「それは、行燈よ。
これが無いと真っ暗になってしまうのよ」
「ふーん...
お父様、それ何?」
鵺宵は阿戯斗の持つ杖に鼻を向けて問う。
それは背丈ほどもある大きな杖で、よく磨き上げられていた。
「ん?これは神秘樹という神聖な樹木から作られた杖だ」
「へぇ」
鵺宵は、ゆっくりと廊下を歩く阿戯斗と鵺宵の足下をうろちょろとしながら、
目に付いたものについて、片っ端から質問していた。
「鵺宵、早くしなさい」
鵺宵が、周囲に気を取られ、足を止めていると、
阿戯斗が急かした。
鵺宵は、ハッとして父と母に駆け寄る。
そんなやり取りを、数度繰り返した後。
「さ、着いたのだ」
廊下を進み、階段を降りて、また廊下を進んだ先にあった扉。
その前で阿戯斗は立ち止まり、鵺宵に告げた。
「ここが今日から鵺宵の部屋だ」
重い音と共に開かれた扉の先は、殺風景な部屋だった。
壁も床も天上も、全て木製。
部屋の奥には、灯籠で挟まれて1枚の畳。
その向こうに一枚の和鏡。
その光景はまるで祭壇のようであった。
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「わあ」
鵺宵は、和鏡を角度を変えて懸命に覗き込み、そこに映る自らの姿をキラキラと目を輝かせて見ていた。
黒い毛並みの獣。
頭と胴体そして、尻尾は犬のもの。
前足と後ろ足は猫のようだった。
そして、首には一匹の白蛇が巻き付いている。
犬と猫の混ざり物に蛇を付け足したような奇妙なそれが鵺宵の姿だった。
「鵺宵!とっても似合っているわよ!」
鎖凪は鵺宵を抱き抱えて顔を擦り付けた。
鵺宵は今、鵺宵の体に合った服を着せられていた。
それも、阿戯斗や鎖凪の身に付けているものと似通った意匠である。
胸元に小さく、そして背中に大きく蜘蛛の巣の様な紋章がある。
「ほら、今度はこちらを着てちょうだい?見て?綺麗でしょう」
鎖凪が、今鵺宵が着ているものと多少異なったものを見せる。
「うん」
鵺宵が頷くと、鎖凪は素早く手を動かし瞬く間に着せ替えてしまう。
「素敵!...どれが良いかしら...阿戯斗様はどう思われますか?」
阿戯斗は呆れ顔で答える。
「鎖凪、どれでもよいから早く決めてしまいなさい」
今鵺宵が着ている服で、既に4着目であった為に、阿戯斗は呆れてしまっていたのだ。
「そうですね...でしたら、最後にこれだけ試させて下さい」
鎖凪は、更にもう一着の着物を出す。
「はぁ、好きにしなさい...
鵺宵、すまんな。
もう少し付き合ってあげてくれ」
阿戯斗は申し訳なさげに鵺宵を見るが、鵺宵はむしろ嬉しそうに「いいよ」と尻尾を揺らして答えた。
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「さぁ、そろそろ、皆の元へ行こうか」
「そうですね」
鵺宵は結局、4着目の着物を着せられた。
その上で、頭に木の冠を乗せられる。
その冠には、阿戯斗や鎖凪同様に、薄い布が垂れていて、
鵺宵の目元を覆った。
しかし、不思議と視界が塞がることは無かった。
「どこへ行くの?」
鵺宵は冠がずり落ちないように視線だけで阿戯斗たちを見上げた。
「私達の同志の元へ行くのだよ」
「鵺宵を心待ちにしていた人達に、鵺宵が誕生したことを伝えに行くのよ」
「ふーん」