3...鵺宵と呼ぶ者達
「あぁ鵺宵!
やっと目覚めてくれたのだね!」
「鵺宵!」
二人の人間が、興奮した様子で、彼女に声を掛ける。
一人は、背丈ほどもある立派な木の杖を持った男であった。
白い着物に、黒い羽織を羽織っており、
頭には木の冠を被っている。
その冠からは薄い布が垂れていて、
それが、彼の目元を完全に覆っていた。
もう一人は、木の首飾りをした女であった。
男の方と同様に、白い着物、黒い羽織、そして、
木の冠と顔の上半分を覆う面布を身に付けている。
「誰...?」
「...?」
彼女と白蛇は、突如現れた男女を見て、同時にキョトンとした顔をする。
「この日をどれだけ待ち望んだことか!
さぁ!開け!」
男は大きな木の杖で、牢獄の格子を叩く。
すると格子は、音も無く組み変わり、大きな穴が開いた。
「鵺宵!
あぁ、良かったわ!
本当に!」
女が、駆け寄ってくる。
「鵺宵?」
赤い縄に繋がれた黒い毛並みの化け物は、
彼らが自らの事を、鵺宵と呼ぶことに、疑問を抱いた。
「そうよ!あなたは鵺宵!
そして私達の愛しい子!」
「そうだ。記憶は無いだろうが、私は君の父。
そして彼女が君の母だ」
いつのまにかすぐ近くまで来ていた、父を名乗る男。
「父...母...」
鵺宵と呼ばれた化け物は、自らの首元の白蛇と共に、きょとんとした間抜けな顔をして、2人を交互に見た。
「鵺宵。お父様、お母様とお呼びなさい」
女は満面の笑みから、少し眉をひそめて鵺宵の言葉を訂正した。
「お父様...お母様...?」
鵺宵は、素直に言い直す。
「偉いわ!」
女は笑みを取り戻す。
「流石、我らの子だ」
男も満足そうに言った。
「...えっと」
鵺宵はオロオロと困惑した様子で、2人を交互に見た。
依然として彼女は何一つとして理解していなかったからだ。