2...牢の中の彼女と白蛇
「...どこだろ?」
彼女は、ポカンと呟く。
目覚めた彼女が居た場所は、
太い木材によって組まれた牢獄だった。
床は板張り。
そこに、淡い光を放つ行燈が幾つも並んでいる。
空中には、赤い縄が伸びている。
そして、牢獄全体に白い布が覆い被さっており、外は見えない。
彼女は、視線を下げた。
「...変なの」
自らの姿が視界に映り、不思議そうに首をかしげた。
黒くて毛むくじゃらの手、いや前足。
爪は鋭い鉤爪だ。
彼女は四足歩行の生き物だった。
「んっ」
彼女は何とはなしにその場から動こうとしたが、
首が強く締め付けられて、失敗する。
そうして、彼女は空中に伸びている赤い縄が、自らの首に繋がっていた事に気付く。
顔を左右に振ると、その赤縄は一本だけではなく、
牢獄の四隅から一本ずつ彼女に向けて伸びている事がわかった。
しかも、赤縄には殆どゆとりがなく、
彼女に与えられた自由は、首を上下左右に動かせる程度のものだった。
「うーん」
彼女は困り果てて、小さく唸った。
と、その時。
「シュル、シュル」
この牢獄にいるのは彼女だけだ。
しかし直ぐ後ろ、耳元で不思議な音がした。
彼女が後ろを振り向くと、そこには白い蛇の頭があった。
「あっ...こんにちは」
彼女は、白蛇と目が合ったので、とりあえず挨拶をした。
「シュル...」
白蛇は、彼女に向けて恭しくお辞儀する。
「あなた誰?」
「シュル...?」
しかし白蛇は、首を傾げる。
「わかんないの?」
「シュル...」
白蛇が首肯する。
彼女が、白蛇の胴体を目で辿ると、それはどうやら彼女のうなじの辺りから生えているようであった。
「あれ?
あなたの体、ウチとくっついてるね...」
自分の体から生えているのだから、自分の一部なのだろうかと彼女は思った。
「変なの...」
「シュル?」
「まあいいや。
ねぇ...じゃあ、ここがどこかわかる?」
「シュル...」
今度は、首を横に振った。
「そうだよね...」
彼女が残念そうに言うと、白蛇は申し訳なさげに俯いた。
と、その時。
『カン!!』
突如、牢獄の外から大きな音がした。
それは、木と木を強く打ちならした様な音だった。
「わぁ」
「シュル...!」
突然の大きな音に、彼女と白蛇は目を丸くする。
そして、今度はカツカツと足音が近づいてくる。
白蛇は、怯えて瞼を閉じ、震えている。
彼女は「誰だろうね」と呟いた。
『バサッ』
次の瞬間。
牢獄に覆い被さっていた白い布が、彼女の正面だけ勢いよく左右に裂けた。
木格子の向こうには、2人の人間が立っていた。