17...鎖凪による座学2【陰妖師?】
「じゃあ、陰妖師って何?」
妖廻の事を一通り聞いた鵺宵は、今度は陰妖師について質問した。
「陰妖師はね、妖廻を封縛する存在よ」
鎖凪は応える。
「妖廻はね、死んでしまっても、魂になってこの世を漂い、一番近くの瘴気溜りから生き返るの。
魂が瘴気を取り込んで、力を取り戻すと考えられているわ」
「だからね、妖廻を滅する事に意味は無い。
でもね、人間は愚かだから、どうにかして妖廻を消し去ることは出来ないかと考えたの。
自分たちより強い力を持つ妖廻という存在を恐れたのね。
そうして生まれたのが陰妖術」
「陰妖術は、妖廻を封縛して、表の世界から排除して、人目のない場所に閉じ込めてしまう術。
そして陰妖術を扱って妖廻を封縛するのが陰妖師なのよ」
「ふーん」
鵺宵は、いい加減に相づちを打つ。
「陰妖師の仕事は主に三つ。
一つ目は、妖廻を封縛する事...閉じ込めるって事ね。
そして二つ目は、封縛を維持し続ける事。
最後に三つ目は、妖廻の代わりに、瘴気を浄化する事」
「妖廻の封縛と封縛の維持は、悲しいことに随分と上手くいっている。
長い年月積み上げてきた技術によってね」
「でも、問題は瘴気の浄化。
妖廻の代わりに瘴気を浄化するなんて、そんなに簡単にできることじゃないの。
当然あちこちに瘴気溜りが出来てしまっているわ。
そして、その瘴気溜りから、妖獣が生まれる」
「妖獣?」
「妖獣っていうのは、妖廻の卵や種子のような存在よ。
妖廻とは違って、まだ魂が芽生えていないから、不死ではないの。
だから、完全に滅する事が出来るわ」
「その代わり、妖獣には自我がないから、無差別に暴れまわる危険な存在なの。
でも、陰妖師ではない人々には、妖獣と妖廻を見分けることは難しい。
だから、多くの人々は妖獣と妖廻を同じ存在だと勘違いしてしまっている。
妖廻も妖獣と同様に、凶暴で恐ろしい存在だと思ってしまっているのよ。
妖獣が沢山生まれるせいで、余計にね」
「そうなんだ...」
「それなのに陰妖師は、妖獣退治を殆どしない。
瘴気払いや妖廻の封縛を維持するのに忙しいから妖獣なんかに構っていられないだとか、
妖獣は専門外だとか言うのよ」
「そうして、妖獣退治は妖獣狩りって呼ばれる人々に押しつけて...
元はと言えば、陰妖師が妖廻を沢山封縛したから、
瘴気がそこら中に放置されて、
瘴気溜りになって、
妖獣が沢山生まれたって言うのに!
おかしいと思わない!?」
「う、うん...」
「あっ、ごめんなさい。
いつの間にか妖獣の話になってしまっているわね」
「いいよ」
「とにかく、陰妖師は妖廻を封縛する悪い人達なのよ。
わかった?」
「うん」