15...洗脳演説
御立ち台の上。
目の前には沢山の信徒。
「見なさい!これが救世主の新たな姿である!」
鵺宵が御立ち台に立ったのを見計らい、阿戯斗が宣言する。
信徒たちから歓声が上がる。
「陰妖師どもが妖廻を虐げれば虐げるほど、我々の意志は強くなり、
鵺宵の輝きも又増すだろう!
見よ!この美しい姿を!
この姿こそ、正義の証明!」
阿戯斗がビシッと鵺宵を指し示す。
「さぁ鵺宵!
力を示しなさい!」
誰もが鵺宵を注視した。
「白蛇さん...おねがい」
鵺宵が、首に巻き付く二匹の白蛇に触れる。
「シュル」
すると白蛇たちは、うねって首から解け、天に向けて伸びる。
そして、口を開いた。
白蛇たちの口から黒い煙が溢れ出す。
信徒たちが「おぉ」と感嘆にどよめく。
黒煙は、丸い球状になったかと思えば、
空を覆うように広がり、満月の光を遮った。
そして、今度は黒い蛇のように細長く形状を変化させ、
最後には白蛇の口に飲み込まれるようにして消えていった。
鵺宵はお辞儀する。
信徒が歓声をあげる。
「鵺宵の聖なる黒煙は、きっと世界を優しく包み込み、浄化していくことだろう!」
阿戯斗は鵺宵の頭に手を置きつつ、信徒を見て言った。
「皆も知っての通り、我はかつて陰妖師であった。
ただの陰妖師ではない。
陰妖師の中でも最高位の真果ノ陰妖師であった。
我は、幾人もの妖廻を封縛した。
しかし、あるとき、かつて神隠しに遭った妹、綾女が妖廻として生まれ変わって、我の前に現れた。
その時、悟ったのだ。
妖廻は邪悪な存在ではないのだと!
世界を清める為に、神によって新たな命を授けられた、聖者なのだと!」
阿戯斗は鵺宵に熱い視線を送る。
「そして同時に、自らが行ってきた数々の罪に震え上がった!
陰妖師の封縛が、如何に冒涜的で、醜い許されざる行為であったか悟ったのだ!
我はそれまで当然のごとく、妖廻の尊い体に、幾本もの太い杭を刺して磔にし、更に縄で縛り付け、牢獄に閉じ込めていた!
それを、沢山の妖廻に、無慈悲に行っていた!
苦痛に叫ぶ妖廻や、許しを請う妖廻が居たにも関わらずだ!
妖廻の中には、長い苦痛の末に絶望し、自我が崩壊し、獣のようになるものもいた!
呻くのだ!かつて自我のあった者が!獣の様に!」
阿戯斗は涙をこぼして叫ぶ。
信徒たちの中には嗚咽するものもいた。
「我はすぐさま、信頼できる部下であった鎖凪と五右衛門と共に、綾女を開封し、同志を集い、聖巣教団を立ち上げたのである!
聖巣教団はいつか必ず、全ての妖廻を開封する!」
阿戯斗は、ぐっと握りこぶしを作り、空を見上げた。
「そして、陰妖師どもから、妖廻を救い出せる日はもうすぐだ!
もうじき世界は、正しく導かれる!
我々は正義の代弁者!
聖巣教団こそが、新しい世界の導き手!
信じるのだ!
そして、尽くせ!
聖巣教団万歳!!」
「「「万歳!!」」」
「ば、ばんざい...」
鵺宵は理解が追いつかないままに、信徒たちを真似て、慌てて両手を挙げた。