13...泣天狗と食事
鵺宵は、畳の上に正座していた。
目の前には膳に乗せられた料理。
山盛りの白米。
塩。
味噌。
汁物。
漬物。
魚の干物。
それらはつい先ほど、面布で顔を隠した聖巣教団の信徒が運んできたものだった。
「どうすればいいんだろう...」
鵺宵は複雑な香しい匂いのそれらに、胸を躍らせていたが、いざ手を付けようとして固まってしまう。
彼女は食事の仕方を知らなかったのである。
「...」
鵺宵は恐る恐る高く盛られた白米を指で突く。
暖かくネットリとした感触。
そして、指を離すと、そこには白い粒が付着していた。
「...変なの」
鵺宵はそれをまじまじと見つめてからペロリと舌を出して舐める。
「おいしい」
鵺宵がもう一度、白米の山を突こうとした時。
部屋の扉が少し開いた。
そして、扉の隙間からヌッと大きな体が滑り込むように侵入してきた。
金の髪。
血管さえも透けて見えるほど白い肌。
大きな体に大きな胸、そして、背中に大きな翼を折りたたんだ女。
それは泣天狗であった。
「うぅ...鵺宵ちゃん...」
「どうしたの?」
「うぅ...鵺宵ちゃんが、心配で...大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「うぅ...でも昨日はいきなり...あんなに激しく...大変だったよね」
「あんまり覚えてないの。
でも、多分平気。
それよりも泣天狗様の方が、怒天狗様に一杯怒られて...大丈夫だった?」
「うぅ...やさしいね。
でも、いつものことだから...」
「泣かないで?
ほら、これ食べて...
美味しいよ」
鵺宵は山盛りの白米を指し示した。
「うぅ...ありがとう...」
泣天狗は、膳の上の箸を摘まみ上げると、白米の天辺を箸で挟んで口に運んだ。
「うぅ...おいしい...」
「ねぇ、一緒に食べようよ」
「うぅ...いいの?」
「うん」
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鵺宵と泣天狗は身を寄せ合って、膳の上の料理を平らげた。
鵺宵は、箸の使い方、料理の食べ方などを逐一泣天狗に問うた。
泣天狗はそれを泣きながら、懇切丁寧に教えた。
「ごちそうさま」
「うぅ...ごちそうさま...
私いつも一人で食べてるから...楽しかった...」
「これからも一緒に食べようよ」
「うぅ...たべるぅ...」
泣天狗が鵺宵の言葉により一層涙したとき。
コンコンと軽く扉が叩かれた。
そして、鵺宵と泣天狗の返事を待たずに扉が開かれた。
現れたのは、阿戯斗だった。
「おや?泣天狗様もいらっしゃったのですね」
阿戯斗は、泣天狗を見て少し驚いた顔をする。
「うぅ...一緒にご飯食べてたんです...」
泣天狗が心底ぼろぼろと涙を流しながら、謝罪するように言った。
「ふむ...なるほど...
でしたら、次からは泣天狗様のお食事もこちらに運ばせますね」
「うぅ...ありがとうございます」
「やったね」
鵺宵は泣天狗に笑顔を向ける。
「ところで、鵺宵。
大魔天狗様がお呼びだ。
おいで」
「うん」
鵺宵は元気よく立ち上がって、駆けていく。
「うぅ...」
部屋には、未だ泣き止まない泣天狗が一人取り残された。