12...鵺宵の変態
「あれ...」
鵺宵は気がつくと自らに与えられた部屋にいた。
畳の上で丸くなって眠っている自分に気がつく。
更に、全身に違和感を覚えた。
「ん?」
鵺宵は跳ねるように立ち上がった。
「変なの...」
鵺宵は今、後ろ足のみで直立していた。
そして、昨日まで前足だったものを見る。
それは、黒い体毛で覆われてはいるものの、人間の手のようであった。
足も、胴体も同様に人間のそれに近い形状に変化していたのである。
鵺宵は、側にある和鏡を覗き込んだ。
すると、そこには変わり果てた自らの頭が映り込んでいた。
「わぁ」
昨日は確かに、犬の様な形状をしていた頭が、人間の童女のものへと変貌していた。
濡羽色の長い髪。
青白い陶器の様な肌。
長い犬歯。
猫の様な瞳孔。
鵺宵が和鏡をまじまじと見つめていると、背後で、白く細長いものが動いた。
「おはよう」
それは、白蛇だった。
鵺宵と目が合った白蛇も恭しく頭を下げる。
「あれ?」
鵺宵はおかしいと思った。
なぜなら、白蛇は既に鵺宵の首に巻き付いて居たからである。
鵺宵は首に巻き付いた白蛇を指で突く。
すると白蛇は、するりと首から解けた。
和鏡には、人間の頭をした鵺宵と、二匹の白蛇が映り込んでいた。
「...よろしくね」
鵺宵は呆気に取られつつ、呟いた。
白蛇たちは同時にお辞儀した。
それから、鵺宵は気を取り直して、全身を隈無く観察した。
鎖骨の辺りから上は人間に似た姿。
それ以外は、黒い体毛に覆われているが、人間に近い形状。
そして、犬の尻尾。
「ま、いっか...」
満足した鵺宵は、ポテポテと部屋の扉へと向かった。
そして、扉を手で押す。
「うーん...」
鵺宵は昨日の阿戯斗たちの真似をして、扉を押してみるが開かない。
鵺宵は、爪でカリカリと扉を引っ掻いてみた。
すると扉の向こう側から小さな声が聞こえた。
「ん?起きられたようだ」
「よし、俺が阿戯斗様をお呼びする」
「頼む」
誰かの足音が遠ざかっていく。
「鵺宵様!
少々お待ちいただけますか!?
今、阿戯斗様をお呼びしていますので!」
それは、聖巣教団の信徒の声だった。
「うん」
鵺宵は応える。
それから少しして、扉が開かれた。
「鵺宵!待たせてしまってすまないな!」
扉の外には阿戯斗が居た。
「ううん」
鵺宵は小さく首を振る。
「あぁそうだ、まずは祝福せねばな!
鵺宵、おめでとう!
凄いじゃないか!
これほど早く昇華するとは!」
阿戯斗が身を屈め、鵺宵の肩に手を置いて言う。
「...昇華?」
「妖廻が更に高次元の存在となることだ!
これで鵺宵も一歩、神に近づいたのだよ!」
阿戯斗が、鵺宵の肩に置いた手を揺さぶった。
「神...」
「今朝方、昇華した鵺宵を泣天狗様が抱えてこられて、腰を抜かしたぞ!
随分と励んだようだな!
疲れ切って眠ってしまうとは!
はははは!」
「あんまり...覚えてない」
「まあ、よい!
これからも期待して居るぞ!」
「うん」
「おっとそういえば、鵺宵はまだ、瘴気以外何も口にしていないだろう?
昼食を用意させるから、食べなさい」
「うん」