11...瘴気と快楽
気がつくと、鵺宵は、雪のように積もった灰の上にいた。
周囲に生い茂っていた木々は跡形もない。
先ほどまで目の前に居た、汚らしい男たちの姿もない。
「たまげたぜ!」
怒天狗がいう。
「君、凄いじゃないか!」
笑天狗は、満面の笑みで賞賛する。
「うぅ...やり過ぎだよぉ」
泣天狗は灰になった木々を見て、涙をこぼしている。
鵺宵の側に天狗たちが降り立つ。
「どうだ!最高の気分だろ!!」
「それにしても、随分と綺麗に吸ったね!」
「うぅ...きもちい?」
大柄の三人の天狗が、子犬のような大きさの鵺宵を取り囲み、
口々に言葉を投げかける。
「...」
しかし鵺宵は、彼らの言葉に反応を示さない。
彼女は、完全に放心していた。
「ハハハ...気をやっちゃった?」
笑天狗が呆れたように笑う。
鵺宵は自らの内に渦巻き、溢れる快楽に浸っていた。
達成感。
爽快感。
万能感。
胸も頭も焼き切れるほどに熱い。
「おい!なにボーッと突っ立ってんだよ!なんか言え!」
しびれを切らした怒天狗が、鵺宵を怒鳴る。
「君はね、今悪い人間をやっつけたんだ!
そして、ここに漂っていた悪い空気も綺麗にした!
感じてごらん?!
この澄み切った空気を!」
「うぅ...あの黒いモヤはね、瘴気っていうんだよ...?
...醜い人間が吐き出す何かよくわからないもの...
妖廻は瘴気を食べると気持ちよくなるんだよ...」
「...すごかった」
鵺宵は、何も覚えていない。
ただ、何か物凄い事をしたのだという認識だけがあった。
「そうだよね!
よし!じゃあ、次に行こうか!」
笑天狗が、満面の笑みでいう。
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それから夜が明けるまで鵺宵は、
天狗たちに連れられて、あちこちを飛び回り、
黒いモヤを吸い続けた。