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イェレナという魔女  作者: るい
1/1

始まりの日

 俺は目を覚ました。時刻は朝7時。俺は起きてすぐ、朝食の準備を始めた。今日の朝食は、トーストとスクランブルエッグ、そして野菜ジュースだ。


「いただきます。」


 1人で黙々と食べるのには慣れている。俺の親は2人とも忙しく、あまり家にいない。そんな環境で16年間生きてきた俺にとっては、寂しいなど感じなくなった。


「ごちそうさま。」


 朝俺がいう言葉はこの2つ。そのあとは学校に行く支度を済ませ、学校に行く。俺の通う学校は埼玉県の県立高校だ。徒歩で10分ほどの距離なので、家の出る時間はいつも8時過ぎだ。

 学校に着き、授業を受け、帰る。俺の学校生活はなんのイベントもなく、すぐ終わる。

 

 友達がいるわけでもなく、もちろん彼女もいない。他のクラスメイトは休みの日に遊びに行ったりと高校生活が充実していると呟いてる。俺には何をすれば充実できるのかわからない。そんな日々が過ぎていくだけ、楽しいわけがない。


 家に帰り、その日の宿題や復習、次の日の予習を済ませ、本を読む。最近はミステリー小説にハマっていて、特にシャーロックホームズなどは別格だ。コナン・ドイルという作家は俺の人生に刺激をくれる。

 ホームズの華麗な推理、そして文章から安易に読み取ることができる風景、本好きの人にとって最高の作家であることは間違いないだろう。

 

 俺には唯一、毎日日課にしているものがある。それは、俺にとって1番生きてると実感する時間だろう。

 ランニング。この言葉は俺に自由を与える。いつも同じ道だが、毎回のように新しい発見をする。例えば、タンポポを見つけたとき、時間によって新しい景色もある。これが俺の好きな時間だ。

 

 出発。家を出て、俺はすぐいつもと違うことに気が付いた。俺の向かいの家は佐々木さんというおじいさんが住んでいるのだが、佐々木さんの家があった場所には「鈴木」と書かれたうちがあった。単に、他の誰かが家を買ったのだとすれば、なにもおかしいはずはない。


 オブジェ。


 いつも庭にあるオブジェが消え、倉庫ができている。さらに、家の外観も変わり少しボロくなった。なにかおかしい。幽霊がいそうだ。


 19時。あたりはもう真っ暗で、昼間より少し涼しくなった。俺は走り始めた。アスファルトは相変わらず硬く、俺の足を揺らしている。


「おかしい。」


 いつもだと、俺の家の周りには住宅街しかなく夜は車の音で騒がしいが、今日は違う。静かだ。周りに人がいない。家の電気もどこもついてない。街灯だけが静かな街を照らしている。


「…ねぇ…。」


 え。…え?


「ねぇ。」


 な、んだ。今の声。周りに人の気配はない。声のする方へ振り返りたいが、怖い。


 怖い。俺の中には恐怖しかなかった。正直おばけなどは経験したことなかったし、典型的なホラーストーリーを展開しているこの状況でなにができるのか正直分からない。ただ、怖い。


 俺の知ってるホラー小説では、後ろを振り向いたらアウトだが、実際でもそうなのだろうか。分からない。だが、振り向いてはいけない気がする。


 いや待てよ。また違う小説では、振り向かないまま進んで、結局追いつかれて殺される。そんなシーンがあった。つまり、振り返ろうと逃げようと、死ぬ。


 なら、俺は自分の物語を作る。振り向いて怪物を倒して、俺は自由になる。それが俺の物語だ。


「やるしか、ねぇ。」


 俺はバッと振り返り、化け物の姿を見た、ハズだった。


「え…。」


 俺は息をのんだ。そこにいたのは俺より小さい、中学生くらいの女の子だ。見るからに、弱そうだ。俺でも勝てる、そう確信した。

 勝てる、はもう違う気がする。相手は中学生の女の子。今の時間は20時。中学生がいてもおかしくない時間だ。塾の帰り、部活の帰り、はたまた遊びにいった帰りかもしれない。


 まったく狂ってる。こんな小さな女の子にビビるなんて。そのままなにも言わずに帰ればいい。うん。そうしよう。

 

「ちょっとあんた!待ちなさいよ!」


 俺に、言ってるのか?まさか。だがここには俺と少女しかいない。クソッ。もう()るしかないのか。

 俺は後ろに振り返り、少女と目を合わせた。俺を睨んでいる。やはり、俺に話しかけていたようだ。少女は俺を見るなり、小さな声でこう言った。


「まったく、人間というのは耳が遠いのか…!まあ良い。私はイェレナ。お前に用があってわざわざ人間界に来た者だ。」


 ????


 今、人間界に来たと言ったのか。だとすると、()()()は、人間じゃないってことか?だとしたら、なんだ?妖精か?魔女か?それとも、女神…か?


「まぁ急にこんなことを言われても混乱するだろうな。要するに私に着いてこい、と言っている。」


 少女はこう言ったあと、俺の反応を待つように俺の顔を見た。

 えーと!つまり、俺はこの少女に攫われるってことか?

 

「どうする?まあ断ったところで無理にでも連れて行くがな。」

 

「意味がわからない。俺は、着いていかなければどうなる?」


「私がここでお前を殺す。それだけだ。」


 殺す、だと?なぜ?どうやって?俺の頭には疑問しかなかったが、殺されるのなら着いて行った方がいいかもしれない。だが、どこに連れて行かれる?人間界じゃなければ、安全なハズがない。


「どこに、連れて行くつもりだ…?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。少しでも相手の情報を手に入れ、この状況を打開する。


「どこ、か。うむ、難しい質問だな。簡単に言うと、私の町。人間界でないことは言っておこう。なぁに、心配する必要はない。お前は着いてこなければここで死ぬが、着いてくればお前の命は私が保証する。」


 どうする。ここで死ぬという道を選ぶか、人間界ではないにしろ生きれる道を選ぶか。賭けるか。


「よし、分かった。お前の言う通りにする。本当に生き延びることができるのならな。」


「安心しろ。生き延びるどころか、とてつもない力を手に入れることができる。」


「とてつもない、力?いったいどんな?」


「それはお前の努力次第変わるが、今よりは強くなれる。例えば、そうだな。米軍を全滅させるぐらいだな。」


 米軍を、全滅?それは、人間ではなく、もうバケモノだ。だが生き残れる。よし。決めた。


「行く。やってやるよ。なんでも。」


「良く言ってくれたな、少年。よし、私から離れるな。今から行くぞ。」


 そう言うと少女の周りには青白い紋様が浮かび上がった。まるで魔法だ。

 俺の意識はそこで途切れた。



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