第一部 曇りの国 パズル②
20XX年9月17日
パズル港
まずいな・・。
俺は今窮地に追い込まれている。
とりあえず落ち着いて状況の整理をしよう。
俺は任務の都合で乗った船で、たまたま同じになった奴にセクハラの冤罪を被った。
ここまでの条件では任務にあまり深刻な問題はない。
しかし、その相手がこれから世話になるはずの仕事相手の一人娘という条件が加わると、問題のレベルが急に跳ね上がる。
しかも、俺はさっきまでいわれのない誤解だと適当に無視してしまっていた。
被害者(?)ヒカリさんと、なんか急に来た金髪オヤジの心象は最悪だ。
これから状況を打開するには、ちょっと鼻毛が出てる金髪老け顔オヤジを説得してもおそらく信用されないだろう。
ここはやはり直接、当事者であるヒカリさんの誤解を解くしかない。
そのためにも、当時の状況の確認を行い俺の無罪を主張するしかないようだ・・。
骨が折れそうだが、任務の前に問題を起こせば俺の信用にも給与にもかかわる。
・・・先月調子に乗って普段は絶対使わない腕時計を分割で買っちゃったしな。
覚悟を決めたころには金髪の仲間たちが3人ほど駆けつけ、囲まれてしまっていたが、関係ない。俺がすべきことは一つだ。
「ちょっと待ってください!全部誤かババババババババ!」
俺の全身に電流が走る。
相手の解答はスタンガンだ。
今までは避けるための訓練しかしてこなかったので、初めて食らったがこれは良くない。
何が良くないって?痛みもそうだがそれ以上に意識が・・・。
20XX年9月17日
???
おはようございます。
どうやら俺がいるのは簡素な木造の牢屋ですね、はい。
窓はやたら高いし小さいため、換気できないのか変なにおいもする。
少なくとも、任務初日にいるべき場所じゃないですよね、ええわかっています。
しかも、手錠と壁に空いた穴からどこかにつながれた足錠(?)が思いのほか丈夫で動けないどころか、だんだんうっ血してきている気がする。
突然食らったスタンガンの痛みはもうひいたが手足の痛みと、ここに運ばれるまでにいろんなところにぶつけられたのだろう頭や肩に痛みを感じる。
幸い、木製の牢屋なのでこの状態でも破壊して外に出るには出られるだろうが、そのあとは袋叩きにでも・・いや、もっとひどい目にあうかもしれない。
とにかく何もできないし、これ以上痛いの嫌だし、連絡が途絶えれば先輩が捜索しに来てくれるだろう。
手足は痛いが下に敷かれた布団は比較的柔らかく寝られそうだ。
つまり、寝るしかねえ!
20XX年9月18日
木製の牢屋
「おっさん!!起きて!!」
「・・あ、おはようございます」
とりあえずあいさつしたが、目を覚ますと木製の柵越しに黒髪ショートで高身長の、例の女が立っていた。
「朝ごはんですか?」
「チェックアウトよ」
は???
突然手足を開放され元々来ていた服や装備を返してもらうと、おそらくこの建物で最も豪華であろう部屋に連れて来られた。
そこには先に5人の坊主頭のおじさんとひかりがいた。
「あの、とりあえずお座りください」
何故か坊主になっている金髪老け顔オヤジに椅子を引いてもらい座った。
正直手足が若干しびれていたのですごく助かるが・・・、何?どういうこと?
金髪老け顔寝不足オヤジのイメチェンの理由もわからないし、この部屋が何の部屋かもわからない。
豪華な朝食でも出してくれるのだろうか、それとも派手なパフォーマンスでも披露してくれるのだろうか。
手足が解放されて相当余裕が出てきてるな、俺。
そんなことをぼんやり考えていると、部屋の奥の扉が開き強面のおじさんが出てきた。
「あ、ども、はじめまして未来野組組長の未来野茂と申します・・。」
「あ、どうも藤永ケータと言います。」
「・・そういう名前だったのね」
後ろのヒカリがつぶやく。
たしかに今まで自己紹介するタイミングなかったからな。でも、お前らのせいだからな??
「え~今回は、あの~こちら側の不手際でね、なんというか・・その~ご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ございませんでしたぁぁ!!」
「は???」
突然の組長(?)の土下座に状況を理解できずにいると、ひかりが隣に来て説明を始めた。
「――というわけなの・・。」
「なるほど」
昨日船内でヒカリに引きづられていた乗務員が、俺が冤罪で連れていかれたという情報を耳にし、たまたま港に来ていた他の構成員に理由を話し無罪を証明してくれたらしい。
・・しかし、あの乗務員のほうがよっぽどセクハラしてた気がするんだがどんな風に話したんだろうか。
まぁ、俺の無罪が証明されたし全く問題ない。
そっと胸をなでおろしていると、俺が入ってきた方のドアから声が聞こえてくる。
「す、すみません!今親父はちょっと取り込み中でして!待合室のほうでお待ちください!!」
「取り込み中?あのおっさん元気だなぁ。てか、今日俺ここに来ること伝えてあるはずなのにナニしてんだよ。」
「い、いや、それは・・。」
「まぁいいや、直接聞く。」
「あ、ちょっと!!」
バン!という大きな音とともにドアが勢いよく開いた。そこには、
「よう、取り込み中邪魔するぜ、シゲピー」
「か、片山さん!」
俺の上司、片山末之助がいた。