三章【万事屋人材派遣所】
「おー、やっと人通りが増えてきたなぁー」
涼が遠くを見ながらそんなことを言っていた
自分達は今、街のすぐ近くまで来ていた
ここまで来ると道も広くなり人もかなり増えてきた
あとは無事に街まで入ってしまえば一安心だろう
街には衛兵がいるし、衛兵には監視系の生魂持ちが常に不審人物を監視している
ここからは澪ちゃんも歩いて大丈夫だろう
「澪ちゃん、ここまで来れば歩いても大丈夫だよ、でも一応万が一も考えて、両側に俺と涼がつくからね」
そう言って澪ちゃんが入ってるリュックを静かに下ろして出してあげた
「工藤さんも涼さんもずっと運んでくれてありがとうございます」
そう言って澪ちゃんは自分達に頭を下げた
「何言ってんの、澪ちゃんは軽かったから全然大変じゃなかったよ、街に入ったら美味しいものいっぱい食べよう」
涼はしゃがんで澪ちゃんの頭をわしゃわしゃとなでながらにっこり笑った
澪ちゃんも頭をあげて「はいっ!!」と元気に返事をしてにっこり笑った
髪の毛は涼のせいでぐしゃぐしゃだがもう気にしないのだろうか
そうして自分達は街への続く人の流れに混ざって歩いた
「そういえば、ここの街はなんと言うんですか?」
澪ちゃんが真横にいる自分を見上げながら尋ねてきた
「ここは「嶺上」、大陸のだいたい真ん中辺りにある街で物流の拠点になってるんだ、だから人もたくさん集まるし、結構大きな街なんだよ」
「嶺上ですか、名前からすると山の上ってことでしょうけど、ここ平地ですよね?、なんで嶺上って言うんですか?」
「ここは平地に見えるけど、実はとてつもなく大きな山脈の上なんだ、いくつかある山脈の内の一つなんだけど、ここは比較的低いところだね、だから気候も安定していて過ごしやすいんだ、それに低めの山脈だから人も登ってきやすくて栄えたんだよ」
「ほへ〜、そうなんですね、工藤さんは物知りですね」
自分がどこかで聞きかじった知識を、聞いた通り丸パクリして披露すると澪ちゃんはとても感心してくれた
ちょっと恥ずかしいからそんな純粋無垢なキラキラした目で見ないで欲しいな
「ちなみに、ここから東に世界最大の帝国、「桃桜帝国」があって、さらに東に行くと島国で武人の国の「日ノ本」、西に行くと「神英」、その先の海を越えた大陸にある「大米」、北に行くと「兵露」、南に行くと「印香」、大きい街はこんなもんかな、あとは小さな村とかがあるかな」
「……私、そんなに遠くまで来てたんですね」
澪ちゃんは涼の話を聞いて感慨深げに言っていた
彼女のいた街は兵露の管轄区域だった
ここ嶺上から北方に行ったところだが、距離がものすごいある
奴隷商から逃げたことももちろんすごいが、追っ手を振り切り、野外で生き延びるためにここまでの南下してきたのだろう
しかも見知らぬ土地で
本当によく生き残ったと思う
この隣でやせ細ってしまった少女は見た目よりもずっと強いのだろうな
そんなことを考えていると
街の門に近づいてきた
「兵露の門とずいぶん違うんですね、なんだか思ったほど大きくないです」
澪ちゃんが興味深げに門を見ていると、涼が澪ちゃんの頭に手を置いた
「そりゃそうさ、現段階で兵露は世界第2位の軍事力を誇るからな、軍事力が発展すると科学も発展する、科学が発展すると今まで作れなかったものが作れるようになるんだ、そのいい例が「兵露の門」、大抵の門は開閉する所だからどうしても防衛力が低くなる、だからほとんどの国では門はだいたいこの嶺上の門くらいなんだよ、でも兵露の門は城壁並に硬くでかい、それだけで兵露は科学の発展した街って言えるな、門だけなら世界一だろう、それでも科学技術では桃桜帝国には敵わないけどな、あそこは別格だよ」
「私、商人の娘でしたが、全然世間知らずだったんですね、お二人の話を聞いて改めて思いました」
「大丈夫、澪ちゃんはこれからたくさんのことを学んでいけば良いんだよ、学ぶ手段も時間もこれからたくさんあるしね」
そう言って涼は澪ちゃんの頭をわしゃわしゃと乱暴になでた
そんな話をしながら歩いているとやがて門の
目の前まで来て、そのまま門をくぐり抜けた
一応門番はいるが余程の人物ではない限り素通りだ
「うわぁ、この街は私がいた街と雰囲気がまったく違いますね!!、兵露とも全然違います!!」
門を通り抜けると澪ちゃんはキラキラした瞳で周りをキョロキョロ見回した
そこら辺は年相応の子供だなぁ
「なぁ工藤、先に宿探すか?それとも報告しちゃうか?」
「そうだなぁ、澪ちゃんのこともあるし先に報告しちゃうか」
「じゃぁ、ギルドに行かないとな、澪ちゃんも一緒に行こう」
そう言って自分と涼は澪ちゃんと一緒に歩き出した
「ギルドってどんな所なんですか?、私行ったことなくて……」
「じゃぁ、この涼お兄さんが歩きながら簡単に説明してあげよう、ギルドは正式名称「万事屋人材派遣所」って言って、名前の通り何でも屋だよ、でも長いしかっこよくないからほとんどの人は「ギルド」って言ってる、そしてこのギルドに所属してる人達を「派遣員」って言うんだ、俺も工藤もこの街にあるギルドの派遣員なんだよ、ギルドでは色々な依頼があるんだ、街の清掃依頼から凶暴化した動植物の討伐依頼までなんでも、派遣員は依頼をこなして生計を建てているんだよ」
「ちなみに涼の説明に補足すると、ギルドは大抵が酒場と提携してて、どこの街のギルドも酒場とギルドとが合わさった建物になっている、だから呑んだくれの騒がしい連中がほぼ毎日騒いでいる結構にぎやかな所でもあるぞ」
「………工藤、それはわざわざ言わなくても良いだろ」
「だって今から一緒に行く所なんだからあらかじめ知っておいた方が良いだろ、知らないであそこに入ったらたぶん怖いと思うし」
と言って澪ちゃんの方を見ると表情が暗くなってしまった
しまった……逆効果だったか…
「あーあ、工藤が澪ちゃん泣かしたー」
「まって!!俺が悪い…よな……、澪ちゃんごめんね、呑んだくれは多いけど基本は悪い奴らじゃないから、それに俺達も一緒だからさ、大丈夫だよ」
しかし澪ちゃんの顔は晴れなかった
やっちまったなぁ
そんな話をしているとやがてギルドに着いた
ギルド「万蔵」、自分と涼が所属しているギルドだ
「……澪ちゃん、怖かったら手繋いで行こうか?」
自分がそう言うと澪ちゃんは黙って自分の手を握ってきた
相当怖がってるな……
「よし、澪ちゃん恥ずかしかったら姿を消してもいいからね」
自分はそう言うと澪ちゃんを自分の片腕にヒョイっと抱き上げた
「わっ!!、工藤さんっ!?」
「この方が怖くないだろ、人混みでは視線が高い方が恐怖心も薄れるしね」
「……わ、わかりました…」
澪ちゃんは頬を赤くしながらも自分の服をギュッと握った
これならまぁ大丈夫だろう
「じゃぁ、涼行こうか」
「工藤、そのまま行くと………まぁいいか」
涼が何か言いたげだったが自分はギルドのドアを開けた
ドアを開けると広いホールのようになっていて、ドアと反対側の壁にカウンターが2つある
1つは依頼等に関してのカウンター、1つは酒場のカウンターだ
ホールにはテーブルが並んでいる
そこでガタイのいいやつから頭の良さそうなやつ……つまり自分達と同じ派遣員の奴らが食ったり呑んだり騒いだりと、まぁ主に騒がしくしている
……はずなのだが、ドアを開け、中の奴らが自分を見た途端、目を見開いて静かになってしまった
中には目を合わせないようにそらす奴までいる
まぁ、たぶん自分がボロボロの少女を保護してきたから驚いてるのだろう
少し驚きすぎだとは思うが
自分は特に気にせずテーブルの間を歩いて行き依頼カウンターに向かった
その間もこちらを見る者、目を合わせないようにする者と給仕の女性達も含めて様々な視線を向けられた
依頼カウンターに着くと涼が村長からサインを貰った依頼用紙を受付の女性に渡した
「依頼完了しました」
「……あっ、はい!!、少々お待ちください…………確認しました、お疲れ様でした、こちら報酬です、ご確認ください」
受付の女性は報酬金の入った袋を涼に手渡した
涼は袋の中を確認して
「確かに、ありがとうございます」
と他所向きの笑顔で微笑んだ
しかし、受付の女性の興味は自分が抱きかかえている少女にあるようで、まったく効果を示さなかった
「もう1つ別件で報告があるのですが、こちらの少女、帰ってくる途中で保護しました、話を聞くと、違法奴隷商から逃げてきたとのことだったのでギルドで保護をお願いします」
「……わかりました、所長に報告しますので少々お待ちください」
そう言って受付の女性は席を立ち奥にかけていった
とりあえず自分達はその場で待つことにした
少しして、「とんとん」と誰かが自分の肩を叩いたので振り返ると、さっきまで静かにしていた顔見知りの派遣員数人が集まっていた
「話は聞かせてもらった、そう言う理由だったのか、俺はてっきり工藤があまりにも女性と縁がないからついに奴隷の少女を買ってきたのかと思ったぞ」
「俺はどこかでさらってきたのかと思った」
「俺は少女に首輪をはめて連れて歩く趣味でもあるのかと思った」
「おいっ!!、ちょっと待て!!、お前らの中でなんで俺はそんな可哀想な変態になってるんだ!?、色物は好きだけどモラルと節度は持ってるぞ!!、それに俺はこんなにも紳士だぞ!!」
「そうだな、工藤は紳士(変態)だよな、大丈夫、わかってるわかってる」
「いや、今漢字が違う「紳士」だったよな!?、「変態」と書いて「紳士」って読むやつだったよな!?」
「まぁ、落ち着けって、子供が見てる前で言い訳とかみっともないぞ」
「いや、濡れ衣だから!!、全部言われのない濡れ衣だから!!」
「わかったわかった」
自分が不当な疑惑に対して抗議してる最中、自分の腕にいる澪ちゃんはずっとくすくす笑っていた
ついでに後ろの方で涼もずっと腹をかかえて笑っていた
涼、なぜお前は弁護しないで爆笑してるのだ
てか、こうなることを予想してたなら初めに言ってくれ!!
くすくす笑っている澪ちゃんに派遣員の1人が話しかけた
「お嬢さん、大変だったね、でもここに来たならもう大丈夫だよ、ここのギルドの所長は見た目は怖いけどいい人だから、お嬢さんを助けてくれるよ、この街に居る間はお嬢さんが危険な目に合わないように俺達派遣員がちゃんと守るからね」
そう言って澪ちゃんににっこり笑いかけた
「あっ、ありがとうございます……」
澪ちゃんは緊張と恥ずかしさと、でも嬉しい気持ちから赤くなって小声になってしまった
「工藤、この将来美人になる有望な少女にしっかり気を配ってやれよ」
そう言い残して派遣員の奴らは自分達のテーブルに戻っていった
それとほぼ同時に受付の方から声がかかった
「所長が、話を聞きたいので2階の所長室まで来て欲しい、とのことでした」
自分達は2階への階段を上り所長室へ向かった
1人給仕の女性も飲み物をお盆に乗せて自分と一緒にいる
所長室をノックすると中から「どうぞ」と声が返ってきた
「失礼しま〜す」と言ってドアを開けると目の前にはローテーブルとソファー、その奥には所長の机があり、もちろん所長もいた
丸太かと思うくらい太い腕の所長が立ち上がってこちらに歩いてくる
身長は2メートル超えてるんじゃないかと思うくらい高く、体は鍛え抜かれた無駄のない筋肉の塊でがっしりしている
シャツにビシッとネクタイを締めていて、短い髪を後ろに流して、さらに鋭い眼光によって全体的な威圧感が半端ない
トータルするとアンダーグラウンドのボスでもおかしくない風貌だ
澪ちゃんが思わず「ひっ!!」と短い悲鳴をあげて自分の服にしがみついた
「所長〜、保護した子を威圧してどうするんですか、ただでさえ怖い風貌なんだから自重してください」
給仕の女性がため息をつきながら厳つい所長に抗議した
「そんなつもりじゃなかったんだよ、お嬢さんごめんね、とりあえず座ってお茶でも飲もう」
喋るとなんとも腰の低い人だ
ギャップが激しすぎて詐欺かと思うレベルだ
自分と涼はソファーに腰を下ろし、澪ちゃんも腕から下ろして座らせてあげた
所長は自分達とは反対側のソファーに腰を下ろした
座っても見上げなきゃいけないってどんだけでかいんだよ
澪ちゃんはすっかり怯えてしまってずっと自分の服を掴んでいる
給仕の女性がそれぞれの前に飲み物を置いていった
所長と自分と涼にはお茶、澪ちゃんには果実で作ったジュースと可愛いお皿に並べられたクッキー
怯えている澪ちゃんに給仕の女性はそっと小声で話しかけた
「見た目は怖いけどとてもいい人だから、安心して助けを求めてね」
そう言って給仕の女性は澪ちゃんにウインクをしてから部屋を出ていった
「さて、じゃぁ、報告をお願いします」
自分と涼、主に涼が澪ちゃんと出会った状況、澪ちゃんから聞いた話、ここまでの道中、全て報告した
「………………………以上が全ての報告になります」
全ての報告を終えると所長がなぜか暗い顔をしている
「そうか、とりあえず道中何も無くて良かったよ、でもなぁ……………ん〜」
「所長、どうしたんですか?、何かおかしな所でもありましたか?」
「いや、報告自体には何もないんだけどねぇ………」
所長が珍しく歯切れの悪い感じなので自分は思わず問いただしてしまった
「なんですか?、はっきり言ってください、俺達何も分からないじゃないですか」
澪ちゃんも不安そうに自分の服を掴みながら所長を見ている
「状況が状況だしなぁ………わかった、話そう、でも今から話すことはここにいる4人だけの秘密にして欲しい、外に漏れてしまうと澪さんの身の安全が保証できなくなってしまう、良いね?」
所長が真剣な雰囲気で自分達に聞いてきた
自分達3人は顔を見合わせてからゆっくり頷いた
所長が話しづらそうに切り出した
「実は今朝、ある組合から依頼が来たんだ、「青髪で真紅の瞳を持つ少女がいなくなったので探して欲しい」と、話では少女は10歳くらいで、精神的に壊れてしまって誰彼構わず生魂を使って危険だから絶魂の首輪をしている、危険な生魂使いだから早急に見つけて引渡して欲しいと、特徴からしても捜索依頼の少女は澪さんで間違いないと思う」
「……なんだよそれ……そんなでまかせの依頼のために彼女を引渡してまたあんな辛い目に合わせるって言うのかよ!!」
自分は思わず所長に怒鳴ってしまった
「しかしちゃんと契約金も払い正規の依頼として受理されてるんだ、簡単に無視することはできない、そんなことをしたら今度はギルドがただでは済まない、だから提案と言うかお願いなんだ、澪さん、君の口から「助けて欲しい」って言ってもらいたいんだ、君からの声があれば、組合は違法行為をしてるってことで澪さんを全力で保護できる、まぁその後で捜査のためにまた色々話を聞かなければいけないんだけど、でも君を引渡さずに済むんだ、しかし君が助けを求めてくれないとギルドとしては君を引渡さなければいけない、でなければギルドが契約不履行で最悪ギルド自体が無くなってしまう、ギルドにとって依頼とはそれほど重要なものだからね、そして僕はこれ以上君を促すことはできない、一応ここの責任者だし、これは黒に近いグレーな行動なんだ、あとはもう澪さんからの声を待つしかできないんだ」
所長が話終えると少し沈黙が流れた
そして澪ちゃんが恐る恐る切り出した
「……私が…私が助けを求めたら工藤さんや涼さんに迷惑がかかります…」
「澪ちゃんっ!?、何言って……」
自分が思わず声を上げてしまうと所長は片手を上げて制した
澪ちゃんは話を続ける
「お2人に迷惑がかかってしまう、ならこのまま引渡された方が誰にも迷惑をかけずに済みます、優しいお2人に多大なご迷惑をお掛けするくらいなら私があの地獄に戻れば……、でも私、工藤さんと約束したんです、「ちゃんと自分の足で歩いて生きていく」って、それに本当のことを言うと、私もうあの地獄に戻りたくありません!!、だから……だから、多大なご迷惑をお掛けするとは思いますが、どうか………どうか私を助けてください!!」
澪ちゃんは瞳に涙を浮かべながら、それでも真っ直ぐと所長の目を見て言い切った
「……わかりました、万事屋人材派遣所嶺上支部「万蔵」は、幽影 澪さん、あなたの身柄を全力で保護します」
所長がにっこりと笑った
所長の言葉を聞いて、澪ちゃんは大粒の涙を流してしまった
自分は優しく澪ちゃんの背中をさすってあげた
澪ちゃんが落ち着いてきた頃に所長が話を切り出した
「澪さん、しばらくはギルド3階の宿泊施設を利用してほしい、あと体力が回復するまでは外出も控えてもらえると助かります、あなたを保護するためにはギルドにいてもらった方がこちらも動きやすいので、あとで係の者に案内させますね、あと涼と工藤もしばらくは宿泊施設利用の許可を出すから、なるべく澪さんのそばにいてあげてほしい、捜査のためとは言え事情聴取もきっと疲れるだろうから、アフターケアをお願いしたい、日当も最低限支給するので頼みます」
「よっしゃ!!、宿代浮いた!!」
「よっ!!、所長太っ腹!!、最高!!」
自分と涼が歓喜の声を上げていると
「もちろん2人には後日、利用料を請求するから」
「あんまりだぁぁぁぁ!!」
「理不尽だぁぁぁ!!」
「外の宿泊施設に比べたら格段に安い上に日当も支給するんだぞ、しかも当日じゃなくて後日請求、これ以上何を求める?」
所長がギロッと威圧しながら睨んでくるので自分達はそれ以上何も言えなくなってしまった
「あの……料金がかかるなら私も……」
「澪さんは良いんですよ、あなたにかかった経費は今回問題の組合に全て請求しますから」
「所長、それなら俺達の分も……」
「それはダメ」
にっこりと威圧してしてくる所長には何も言えないな
笑顔が怖いんだよ……
「じゃぁ、澪さん、今日は早いけどもう休んでね、今受付の人に話して部屋に案内させるから」
そう言って所長は立ち上がって部屋から出ていった
「澪ちゃん良かったね、とりあえずは一段落、あとは所長が色々やるから安心してね」
自分の隣で涼が澪ちゃんに親指を立ててそう言った
「ここまで本当にありがとうございます、涼と工藤さんにはいくら感謝しても足りないくらいです」
「俺も涼も全然気にしてないよ、澪ちゃんが無事に保護されて本当に良かったよ、たぶんこれからもちょくちょく絡むようになると思うから、これからもよろしくね」
「はい!!、こちらこそよろしくお願いします!!」
澪ちゃんは頭を下げた
自分達はそんな澪ちゃんの頭を2人してわしゃわしゃとなでてしまった
これで澪ちゃんは無事ギルドに保護してもらえるわけだ
あとは澪ちゃんの体力が回復して元気になるのを待てば大丈夫だろう
しばらくしてから部屋の扉が開いて所長と給仕の女性が入ってきた
「こちらの人が部屋に案内してくれるからね、首輪は夕飯前には解除機準備できるから、すまないけどそれまであと少し我慢して欲しい、夕飯はそこの2人と下で食べれば良いよ、体調に合ったものを準備させるからね、あと一応明日はギルドの専属医に見てもらうから今日はしっかり食べてしっかり休むように、じゃぁ、部屋への案内お願いします」
所長が給仕の女性にお願いすると、女性はテーブルの上を見て
「所長、確か可愛い包み紙持ってましたよね?、1枚ください」
と唐突に言ってきた
所長は「なんで知ってるの!?」と驚きながらも引き出しから1枚のとても可愛らしい包み紙を取り出して女性に渡した
この所長、こんな見た目だけど可愛いものが好きなんだよな
相変わらず見た目に似合わない趣味してるな
女性は包み紙を受け取ると澪ちゃんの前に置かれたお皿の上のクッキーを全部綺麗に包んで澪ちゃんに手渡した
「良いんですか!?」
「飲み物も運んであげるから部屋でゆっくりお食べ、こんな怖い人の前だと緊張して食べれないでしょ」
「で、でも………」
「子供が遠慮しないの、今はなんでも食べて体力を付けないと、それにここの男3人だって食べたい時に食べたいものしか食べないんだから」
そう言って澪ちゃんの手の中に包んだクッキーを持たせた
自分達は何も言えずあらぬの方を向いて聞き流そうとした
図星だから自分達は何も言い返せない……
澪ちゃんは満面の笑顔で「ありがとうございます!!」と言って大事そうに胸に抱いた
女性は澪ちゃんを優しくよしよしとなでると
「じゃぁ案内するね、着いてきて」
と言って澪ちゃんの手を引いた
澪ちゃんは部屋のドアから出る前に
「所長さん、本当にありがとうございました!!」
と、所長に頭を下げてから女性に手を引かれて出ていった
自分達も後を追うように出ていこうとすると所長が「2人とも頼んだぞ」と言ってきた
自分達は静かに頷くと澪ちゃん達の後を追った
「では、ここが澪ちゃんのお部屋になります、お2人は隣の部屋をお使いください」
「ちょっと待って、俺達は2人部屋なの!?」
自分と涼は思わず言ってしまった
「何か文句でもお有りですか?」
給仕の女性は一切臆することなく、にっこりと威圧してから軽く頭を下げて去っていった
「ここのギルドの職員は笑顔で威圧するの上手くないか!?、採用時の必須条件なのか!?、それとも所長の影響なのか!?」
涼が誰にでもなくそう言うのを聞き流して澪ちゃんに向き直る
「じゃぁ、澪ちゃん夕方頃にご飯にしようか、時間になったら迎えに行くから、それまでゆっくり休んでね」
と、自分が部屋に入ろうとドアを開けると
「あ、あの、今は言葉でしか伝えられず、何度も同じことを言ってまうのですが、涼さん工藤さん、本当にありがとうございました、このご恩はいつか必ずお返しします!!」
澪ちゃんが何か決意に満ちた瞳で自分達を真っ直ぐ見てくる
自分はそんな澪ちゃんと同じ目線までしゃがんで澪ちゃんの頭をなるべく優しく撫でてあげた
「そうか、それなら今はしっかり休んでご飯をいっぱい食べて体力を回復しないとね」
「そうだな、澪ちゃんが「元気になりました!!」ってなるのが俺も工藤も1番嬉しいからな」
「わかりました、今はお言葉に甘えてしっかり休みます!!」
「よしよし、じゃぁ、また後でね」
「はい!!」
そうして自分達はそれぞれの部屋に入っていった
澪ちゃんは頑張った
あとは大人の仕事、とは言え今自分にできることは彼女のそばに一緒にいてあげるのことくらいだろう
彼女がいつでも笑顔でいれるように
でも、それもいつか、自分と涼がそばにいなくても笑顔が絶えないようになるだろう
彼女は強い子だ
いずれ今ある恐怖心も薄れるだろう
なぜなら澪ちゃんは自分で歩く勇気を持ったのだ
だから、澪ちゃんなら大丈夫だ
自分は窓の向こう側で夕焼けに染まり始めた空をみながらそう思った
涼が「そろそろ飯行こうぜ〜」と声をかけてきたので、隣の部屋の澪ちゃんを迎えに行った
それと同じ時、ギルドの屋根には不気味なほど白い烏が何かを待つようにじっと静かにとまっていた