♥ 赤い靴「 夏のホラー2020 」
「 あぁ〜〜かぁ〜〜いぃーーくつはいたぁ〜〜おーんーなーのーこぉ〜〜〜 」と言う歌詞の歌を聴いた事はないだろうか?
これは昭和●●年の後期に、ちょっこっと有名になった歌だ。
地元にある最寄りの刻阜駅では、プラットホームへ電車が入って来る度に、このメロディーが流れる。
一体誰がチョイスしたんだろうか…。
あまり良い噂を聞かない曰く付きの歌だと言うのに──。
今日は生憎、シトシト…と雨が降っていた。
雨の日に態々出掛けるなんて事したくないのに……。
プラットホームに電車が入って来る合図──「 赤い靴の女の子 」のメロディーが何時も通りに流れる。
因みに電車がプラットホームを発車する時に流れる曲は何故か「 SOS 」「 WMGA 」「 USA 」がランダムで流れる。
誰のチョイス??
稀に「 赤い靴の女の子 」のメロディーに雑音が混ざって聴こえる時があるらしい。
そんな時は限って “ 良くない事が起こる ” んだとか。
だけど、それを証明する人は居ない。
それもその筈、雑音が混ざったメロディーが聴こえた人が助からないからだ。
だから、証明もされなければ、証拠もない。
ただの噂。
地元に転がる都市伝説。
「 ──ねぇ、今日の曲、ちょっと変じゃない? 」
「 何処がぁ? 」
「 何て言うか……聞き取り難い…って言うの?
ザザッザーって雑音が混ざってない? 」
「 えぇ〜〜、雑音なんて聞こえないよぉ。
私にはハッキリと聞こえるしぃ。
雨音の所為じゃないのぉ? 」
「 そうかな…? 」
おぃおぃ、いきなり「 雑音入ってない? 」かよ。
こんな話し声を聞いてしまうなんて、今日は付いてないなぁ……。
…………うん。
オレには雑音が混ざってるようには聞こえなかった。
オレは安全だな?
…………だけど、このまま電車に乗るのは気が進まないな……。
──よし、今日は帰るべ!
ダチにはメンゴラインでもしとこう。
「 腹を壊して行けない 」とかテキトーな理由をラインしよう。
これでダチから絶交されても構わない。
命の方が大事だからな!
オレはプラットホームを離れると階段を駆け上がって電車から離れた。
ふぁ〜〜〜〜……やっべ……寝てたわ……。
折り畳み式のミニテーブルの上に置いといたスマホの画面がピカピカと光っていた。
オレは電源を入れたまま置いていたスマホを手に取ると画面を見た。
──うぉおっ?!
凄い着信の数だ!
相手は……やべぇ……ダチだ。
あっちゃあ……ダチにラインすんの忘れてた!
怒ってるかも??
電話…掛けるの嫌だなぁ……。
今更だけど、ラインでも入れとくか?
ダチにラインする前にテレビの電源を入れた。
テレビの画面に映し出されたのは、事件の映像だ。
電車の事件か?
珍しいな…。
何々……9時40分頃に刻阜駅を発車した電車の中で、無差別殺傷事件が起きた………………はぁ?!
無差殺傷事件っ?!
犯人は凶器を持ったまま、弦河間駅で電車を降りて逃走中……だと?!
マジかよ……。
被害に遭った怪我人は8名。
死亡者は7名。
──あっ、顔写真…………うぇえっ?!
これって…あの子じゃないのか??
プラットホームで「 曲に雑音が入ってる 」って言ってた……。
マジで…死んじまったのかよ……。
鯔のつまり、あの曲を聞いて「 雑音が混ざってるように聞こえた 」乗客は……7名も居たって事かよ?
…………うわぁっ!
オレ、電車に乗らなくて良かったぁ!!
命の拾いしたんだ…。
ダチにラインしとこ。
ダチにラインを入れた後、オレはコンビニヘ行く事にした。
最寄り駅の隣にあるんだなこれが。
まぁ、近いから良いんだけど。
丁度、雨も止んでるし、出掛けるなら今だな。
玄関で靴を履いたオレは、ドアを開けた。
──ガチャっと開けたドアの外には、赤い靴が脱ぎっぱなしのような状態で置かれていた。
…………赤い靴…。
誰のだのろう??
この階に赤い靴を履いてるような子なんて居たっけ??
まぁ、いいや。
赤い靴から目を離して、ドアを閉めて、鍵を掛けたオレが前を向くと、今さっき迄あった筈の赤い靴が無くなっていた。
2足ともだ。
──えっ????
ドアを閉めて、鍵をかけてる間に誰かが持って行ったのか??
神業過ぎないか?!
誰かが持ち去ったような気配なんてしなかったけど……。
ま、まぁ…取り敢えず、コンビニに行くべ……。
オレは階段を駆け降りると最寄り駅の隣にあるコンビニへ早足で向かった。
コンビニから戻って来たオレは、ドアの鍵を開けて、ドアを開けた。
部屋の中に入ると玄関には、きちんと揃えられた赤い靴が置かれていた。
ガタガタガタっ──と、オレは慌てふためいてバランスを崩してしまった。
何で──?!
何で……オレの玄関に子供用の……女の子が履く赤い靴があるんだよっ!!
オレに子供は居ない筈だ!
だって……、オレは独身で、童貞だからな!!
親戚にだって、赤い靴を履くようなマセガキなんて居なかった筈だ!
抑、連絡を取ってないし、此処の住所も電話番号だって教えちゃいない!!
両親にだって教えて無いんだからな!
…………オレは身に覚えが全くない赤い靴を黒いゴミ袋の中に入れると、外へ放り出した。
勿論、オレのドアの前にじゃなくて、階段から遠い場所に投げた。
誰かのドアの前にゴミ袋が置かれたみたいになるけど、知った事か!!
ドアを閉めて、鍵を掛けて、少しだけ安堵したオレの目の前には、居る筈なんてないのに、裸足で色白の女の子が立っていた。
「 …………だっ…誰だよっ!! 」
オレは思わず女の子に向かって叫んでいた。
「 オレは聴いてないぞ!!
曲に雑音なんて入ってなか──── 」
●月●日、待ち合わせをしていた友人が来なかった。
電話をしてもメールをしてもラインをしても通じなかった。
夜のニュースで友人が利用している最寄りの刻阜駅から発車した電車の中で、無差別殺傷事件が起きていた事を知って驚いた。
入っていたラインに、「 ニュースを見て驚いた事 」と「 電車には乗らなかった事 」がコメントされていたから、被害には遭わなかったみたいだ。
「 腹を壊した 」なんて、食いしん坊なアイツらしいな。
「 ──ねぇ、廣武…、あれってユッキーのアパートじゃない? 」
「 はぁ?
何で由樹のアパートがニュースに映るんだよ? 」
「 だって……ほら、ユッキーの顔写真が出てるよ 」
「 はぁ?
何言って──…………由…樹……?? 」
何で由樹が死んだんだ??
「 やっだ、怖いね!
密室だったみたいよ。
ドアから大量の血が流れ出てたのを見付けた近所の人が通報したんだって!
自殺かな??
ユッキー……、自殺なんてしなさそうなのにね? 」
「 ………… 」
言葉を失ったままニュースの画面を見ていたオレの耳にガタン──っという音が入った。
「 何だ? 」
「 ドアじゃないの?
まぁ〜た、何か投げ付けられたんじゃないのぉ? 」
「 また…か……。
いい加減にしてほしいよなぁ… 」
「 嫌がらせじゃないの?
夜もラブラブなウチ等への腹いせ! 」
「 じゃあ、今夜は止めとくか? 」
「 えぇ〜〜〜しようよぉ〜〜 」
オレは彼女にヒラヒラと手を振りながら玄関に行くと、鍵を開けて、ドアを開けた。
「 …………黒いゴミ袋?? 」
誰だよ……。
オレはイラッとしながら、ゴミ袋を開けて中を確かめてみた。
「 …………赤い靴?? 」