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女帝、絡繰宮に住まう

のんびり投稿すみません。

多忙でマイペースです。

 「ん?」


 帝宮に向おうと玄関ホールへ入るなり、マギアはスンスンと鼻を動かした。

 眉間に皺が寄る。


 「どうなさいました?」


 後ろに控えていたカラクが首を傾げる。

 キョトンとした顔。

 カラクは、マギアの感じた違和感を感じていなかった。



――――その違和感は


 「・・・血の匂い、がするのじゃ」


 それはよくマギアが纏う赤い香水の。

 慣れてしまっても鼻につく、ありふれた悲劇や悪意、憎悪、復讐の残り香。


 



 「血の匂い、ですか?」 


 「うむ、微かじゃが確かに・・・」


 マギアはピリピリと魔力を放出させながら、辺りを油断なく見回すが。

 

 ただ、いつもいる騎士や侍女等が居ないだけの無人だと言うだけで・・・視覚的な違和感はそれだけだ。

 赤色は見当たらない。





 「僕には何も感じられませんが・・・」


 カラクは自分も鼻を動かした後、マギアの横を通り抜けた。

 マギアは慌てた。


 「カラクっ!?」


 (何があるのか分からぬのに・・・っ)


 この状況、自分に刺客が差し向けられていてもおかしくない。

 それなのにカラクが自分より前に出てしまって。

 もし、この先にそれが居たら自分ではなくカラクが・・・っ


 「下がるのじゃ!妾が先に」


 マギアはぎゅっと自分よりずっと低い位置にある肩を掴んだ。





 「大丈夫ですよ」


 歩みを止めて振り向いたカラクは安心させるように微笑んだ。

・・・僅かに焦りを含んで。


 それは刺客を恐れてのものでは無く、何かを隠そう、誤魔化そうとするような。





 「・・・カラク?」


 (もしやこの匂いの正体、知っておるのか?)


 マギアの強化された視覚がカラクの瞳が泳いだ瞳を捉える。

 かつて、復讐の炎を揺らめかせた瞳を。

 




 


 「・・・マギア様は本当に鋭いですね」


 カラクはマギアの鋭い視線に観念したようにつぶやいた。


 「知っておるのじゃな?この匂いの正体を」

 

 「・・・鉄の匂いですよ」


 「鉄、じゃと?」


 (確かに血の匂いと鉄の匂いは似ておるが・・・)


 「見せたほうが早いですね」


 訝しげなマギアに、カラクがポケットから取り出し見せたのは、小さな手でもすっぽりと納められてしまう金属製の箱だった。




 「なんじゃそれ?それが匂いの元か?」


 「違います。・・・今からお見せするものを動かすのに使うんですよ。」


 その箱にはいくつも出っ張りがあり・・・カラクはその中の1つをカチリと動かした。


 次の瞬間、大理石の壁から床、天井までいたる所から・・・まるで植物が芽吹くように無数の刃が飛び出してきた。

 大理石は砕けていない。

 継ぎ目が分からないほど緻密に仕込まれていたらしい。





 マギアは目を丸くしつつも反射的にそれを――――――


 「反射的に殴ろうとしないでください!壊れますから!」


 近くに現れた刃をマギアから庇うようにカラクは手を広げた。


 否、刃だけではない、鈍く光るマギアの左手をそのまま大きくしたようなものや、ハンマー、銃、ありとあらゆる武器が次から次へと生えてくる。


 「・・・・・これ、は」


 マギアは止めた拳を解きながらポカン、とそれらを見つめた。





 それは壮麗な宮に仕掛けられていた、無骨な鉄塊。


 機械兵器。

 かつて、ドワーフの国で見た物と似たモノ。





 「驚いてくれましたね!・・・まぁ僕も驚かされましたけど」


 カラクはイタズラが成功した子供そのものの笑みを浮かべた。




 「カラク、これはなんじゃ?」


 「護衛にと思い作った機械です」


 護衛と言うにはだいぶ攻撃的で鋭利だが。





 「・・・凄いのぉ」


 「実はずっと前からこっそり作っていたんですよ」


 「こっそりでこんなものを作るのか」



 マギアは『ドッキリ大成功!』と書かれた旗を振り回す大きな手と、紙吹雪を吹き出す大砲、ギャリギャリキュイイイインカンカンカンカンと小気味よい(?)金属音を響かせるその他、奇怪な機械を見回した。

 赤色は見当たらない。


 そして、強くなった血・・・否、鉄と油の匂いに頷く。




 「・・・確かに匂いの正体はこれだったようじゃの」


 (確かに血の匂いだと思ったんじゃがなぁ。まぁカラクがそう言うのなら鉄の匂いなのじゃろう)


 隷属魔法には主に質問された時、嘘がつけないという効果も存在する。

 故にマギアはカラクを疑わない。





 「すみません、勘違いさせてしまったようですね」


 「良い良い。妾も少し気がたっておるようでの、神経質になってしまってるようじゃ。すまぬな」


 (無意識下で嗅覚を強化した上に、鉄と機械油の匂いを血と間違えるとはのぉ。呆れられてしまうのじゃ)


 少しだけ顔を出した臆病をマギアは恥じた。





 「それにしてもこんな、凄いものを一人でか?」


 「ええ。・・・騎士が居なくとも良いように」


 「警備態勢、バッチリじゃな・・・王国で見たモノよりも凄そうじゃ」


 かつて、アールデウ王国で打ち砕きまくったモノよりずっと大きく複雑な兵器に囲まれたマギアは、関心すると同時に。


 (流石の妾でもコレを向けられたら苦戦しそうじゃの)




 ほんの少しだけ、ゾッとした。

 少しだけなのは常に・・・心の奥底で覚悟は出来ている故か。

 静かになった機械兵器を見つめながら唇を噛む。

 





 マギアは忘れていない。

 事あるごとに思い出す。


 復讐心に染まった茶色い瞳(カラク)を。








 「・・・流石、じゃな。カラク」


 「マギア様こそ流石ですよ。まだ隠しておくつもりだったのですが・・・匂いでバレるとは思いませんでした」


 「普段の妾なら気が付かぬよ。本当にカラクは凄いのじゃ」


 「褒めて下さり、ありがとうございます」



 マギアは気が付かないフリをする。

 先程一瞬だけ見えたカラクの焦りの表情と、今の安堵によるものも含んだ照れ笑いを。




 (妾に対する攻撃手段、か。)


 復讐のための武器に。

 マギアはそれを理解しても穏やかに。


 「無茶はするでないぞ」


 (隷属魔法が解けない限り、妾が死んだらそなたも死ぬのじゃから)


 ただ、マギアはカラクを心配していた。

 ・・・自分がその苦痛を与えている張本人であるのに。






 「それは僕の台詞ですよ。貴女は無茶をしすぎです」


 カラクはジトっとマギアを見上げた。

 復讐や憎悪ではない感情により、眉間にシワを寄せた。


 「そうかの?」


 「自覚してなかったんですか?なにかあるとすぐ殴る時点で無茶です。」


 「結果的に壊さなかったし、許してくれぬか?」


 「ダメです。この刃はこの国のナマクラと違ってよく切れるんですから・・・怪我するところだったんですよ?」


 どうやら機械に付けられた刃そのものもカラクが作ったらしい。

 つまり、そのへんのモノなら豆腐のように切れる。

・・・強化したマギアの皮膚ですら傷付ける事ができるほどのドワーフの技術。





 しかし、それを恐れる様子もなくマギアは笑って言う。


 「ちょっとぐらい怪我しても・・・妾、治り早いし」


 「貴女は、この国の女帝(・・)なんですよ?」


 カラクの言葉に怒気が含まれた。



 (あ、やってしまったのじゃ)


 マギアは己の間違いに気がつき、頬を引きつらせた。

――――マギアの間違いをいつも気が付かせてくれるのはカラクである。


 そして予想通り。





 「いつも言ってますよね?よく分からないものをとりあえず殴るのはやめましょうって。」


 カラクの小言が始まる。


 「それだけではないです。誰かを――――僕を庇うのもしなくて良いと何度も」


 「妾、負けたことないし?それに妾は他の者よりもずっと丈夫じゃから・・・無茶ではないぞ?」


 「無茶です。」


 「そ、そんなことないぞ?」


 「どう考えても無茶です。あとマギア様程ではないですが、ドワーフである僕も丈夫です。

 ましてや貴女はこの国の主で、僕は奴隷ですから、庇われる必要はありません・・・これも何度も、いつも言ってますが?」


 「そうかもしれぬがな?妾は」


 「お願いですから、主君である自覚を持ってください」


 カラクの瞳はいつも通りにまっすぐとマギアに向けられていて。

 





 「―――っ」


 マギアは最後には耐えきれなくなって目をそらしてしまう。

 向けられているものが憎悪で無くても・・・痛くて辛くて苦しくて。


 罪悪感。

 

 

 





 「わ、分かったのじゃ・・・そういえば、これは初めて見る形の機械じゃの」


 そしてマギアは改めて機械兵器を見つめた。

 今度は好奇心で瞳を輝かせて・・・話題をなんとか逸らそうと必死である。



 

 「貴女は本当に・・・」


 「なんじゃこれは!?カラク」


 マギアの叫ぶような問いにカラクはため息一つ、指さされたモノへ視線を送る。

 




 「ああ、それはですね。鉄板の縁のレールを、小さな刃をつけた鎖が高速で滑るように動くことで対象物を切る・・・というモノです。」


 こことは異なる世界に存在する、チェーンソーに近い原理。

 カラクが操作したのか、ゆっくりと動き出したソレに嘆息を漏らした。





 そうして。

 あれはなんじゃ、これはどんな仕組みでと質問しつつ機械兵器の森と化した玄関ホールを進み・・・


 昨日、ぶち破ったはずの扉が元通りになっていることに目を丸くした。





 「カラク、まさか扉も・・・」


 その時だった。

 バン!と件の扉が開き、人が現れると同時。





 「っわぁ!?」


 扉枠の左右からワイヤーが発射され、その人に絡みついた。


 そして、白木で作られた扉板に幾重も直線的な亀裂が入ったかと思うと翼の様に展開し・・・薄い内部に格納されてたとは思えないほどの刃が飛び出す。





 「ええ。修理と同時にちょっと改造しました」


 「ちょっと、というレベルかのぅ?」


 少し誇らしげなカラクに、首を傾けるマギア。

 そんな二人の前で。



 「なっ、なんだこれは・・・ひぁっ!!」


 ワイヤーから逃れようと藻掻き、物騒な翼に包まれ(刃を向けられ)ていることに気がついた・・・その人の顔に、マギアは見覚えがあった。





 「・・・ルスト」


 (そういえば、こ奴の事忘れておったわ)


 自分を舐め腐って謀反を起こしている貴族共で頭がいっぱいで、自分を大した者じゃないと奴らに勘違いさせた一番の元凶をすっかり忘れていた。


・・・マギアが婚約者の事を忘れるのはいつものことである。

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