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無能姫と亡国王子

過去、後編。

胸糞ここまで。



こんなに長くなると思わなかった・・・。

 「お前は、お前は―――――っ!!!」


 (・・・妾が何だと言うのじゃ?)


 困惑するマギアの下で少年が叫ぶ。


 「許さない・・・っ!」




・・・マギアには理解ができなかった。

 今回も分からなかった。

 どうして自分が憎悪されるのか。


 しかし、今回は今までと違って。






 


 自分が何か間違っている、というのは漠然と感じていた。




 



 

 そして・・・マギアは、自分の知らない事を知っているらしい少年に興味を持った。



 「そなた、何者じゃ?」



 初めて少年を人間として見た。

 銀色の瞳にはもう復讐心は無い。

 変わりにその瞳宿ったのは、好奇。


・・・マギアは元来、好奇心旺盛である。

 勝手に自分の宮を抜け出し、敵国の事を調べてしまうくらいには知りたがりだった。





 「―――――え?」


 今度は少年が困惑する番だった。

 ついさっきまでドロドロとした復讐心を向けられていたのに、今はキラキラとした好奇心を向けられているのだから当然である。


 「名は何と言うのじゃ?」


 「・・・カラク」


 先程のマギアと同じく、毒気が抜けたのだろう。

 少年・・・カラクはいくらか落ち着いた声色で素直に答えた。

 その茶色い瞳には相変わらず、マギアに対する復讐心と嫌悪感が渦巻いていたが。



 (カラク、のぅ)



 その名前に、マギアは聞き覚えがあった。




 「・・・そなたが王子か」




 確か、王のたった1人の子供で13歳。

 マギアの3つ年上の。


 (・・・ほぉ、本当に子供の様じゃな)


 マギアは小柄で・・・その上、片手を失った自分でも余裕で抑え込めるドワーフの王子を改めて見下ろした。


 「・・・帝国は僕たちの事を何も知らないはずでは」


 「妾は違う。少しは調べておる」



 実際は少しどころではない。

 図書館に忍び込んだり、ちょっと個人的に諜報していたりもしていた。


・・・そのために数日行方を眩ませていて、『末の姫様は戦が怖くて逃げたらしい』という噂も流れたのだが。

 なお、門番と門そのものを蹴り飛ばして中に入ることを忍び込むと言っていいのか、アールデウ王国と接する領地の貴族を拳で脅して情報を聞き出す事を諜報と表現していいのか、疑問である。




 「それとな、兵がそなたの無事を祈っておったのを聞いたのじゃ。カラク」


 「っっっ!!!―――――――・・・・・。」


 カラクは大きな瞳を潤ませたが泣くことは無かった。

 そして、キッとマギアを睨みつけ告げる。


 「・・・っ、そうですよ。僕がアールデウ王国、王子。カラク・アダマン・アールデウです」


 「そうか」

 

 「君は何者ですか?」


 今度はカラクがマギアに質問する番だった。

 自分を取り押さえる、真っ赤な少女の正体を。


 「マギア・ミスリル・マグルハ、じゃ。・・・マギアと呼ぶがよいぞ」


 マグルハという名を口にした途端、カラクの抵抗する力が強くなったが難なく抑え込む。

 それどころかその動きに乗じて、片手でカラクの両腕を拘束した。


 「〈無能姫〉・・・っ!?」


 カラクが驚いた様子でつぶやく。



 無能姫。

 それは銀色が特徴的なマギアの二つ名。

 異国の地にも広がるほど異質なマグルハ帝室の皇女。



 (まぁ妾にはピッタリじゃからな)


 銀髪を血で真っ赤に染めた〈無能姫〉は頷く。


 「そうじゃ。妾が〈無能姫〉じゃ」


 知らない、出来ない・・・殺すしか能のない馬鹿で阿呆な姫君。





 (じゃが・・・これからはそう有りたくない)


 マギアは睨みつけてくるカラクの視線を真っ直ぐと受け止めた。

 ついさっきまでのマギアと同じ、復讐に燃える茶色の瞳を。

 本物の復讐の炎。

 マギアの偽りの復讐心では無く本物の。


 (妾は、知りたい)



 己に向けられる復讐心を。

 己の間違いを。



 だから。


 「・・・僕を殺すのですね」


 「いや、殺しはせぬ」


 マギアは、カラクを殺さない。

 なぜなら。


 (殺してしまっては妾の知りたい事が分からなくなってしまうからのぉ)









と、その時だった。

 地響きが近づいてきたのは。

 マギアは姉達を殺したモノの接近に気が付いた時のように、強化した感覚で正体を探る。


これは・・・

 (父上、じゃな。)


 安全を確認したのだろう、父が前線まで出てきている。

 ・・・つまり、戦争は終わり。

 マグルハ帝国の無敗伝説は続く。


 (にしても大丈夫なのかのぅ?地下は意外と地震に強いらしいが・・・)


 この時、父がまだ戦い足りないとかいう馬鹿げた理由で魔法を乱射していたのだが、マギアは知らない。


 



 「・・・のぅ、カラク」


 近づいてくる震動を感じながらマギアは再び口を開いた。


 「生き延びたいならばその口を閉じておれ。そして、妾の言葉に頷くのじゃ」


 「・・・どうして君なんかの」


 「復讐したいであろう?」


 (妾にな。じゃから今は生きる事だけを考えるのじゃ)


 そうして、生きていてくれないと困る。

 色々と教えてもらいたい事があるのだから。


 「一体何がしたいのですか、貴方は!?」


 「そろそろ黙れ、殺されたくないじゃろ?」




 マギアは立ち上がるとこの部屋の入り口へと細めた銀色の瞳を向けた。

 カラクは掴んだ腕を強引に引っ張って背中へと・・・隠すように。


 そしてマギアがドワーフ王との戦いの直前に打ち砕いた扉の破片を踏みしめて現れたのは・・・マギアの父、マグルハ帝国の主。


 


 「まさか、お前が・・・マギア」


 父は血塗れの我が子を見下ろした。

 ここまでの道程に転がっていた夥しい量の死体とすぐそこに転がっている肉塊と同じ色に染まった真っ赤な娘を。


 「そうじゃ。地下都市の殲滅は全て妾がやったのじゃ」


 マギアは今までろくに言葉も交わしたことのない家族相手に淡々と答えた。


 「王族も全てか」


 「そうじゃ。全員、妾が殺した」


 (本当は1人、残っておるがの)


 たった1人、己の手の中に。

 マギアは嘘をついた。


 「強くなったな、流石我が娘だ!」


 初めて父に娘と呼ばれた。

 しかし、嬉しくなどなかった。

 

 「ただのぅ・・・兄上も姉上も・・・皆、亡くなったのじゃ」


 「お前が生きていればそれで良い」


 父は今までマギアに向けたことの無い表情を向けた。

 それはかわいがっていた兄と姉に向けていた笑み。


 それを向けられてもマギアの表情は変わらなかった。




 

 マギアは愛された事が無いと同時に、愛されたいとも考えていなかった。

 故にマギアは・・・誰よりも暴君としての資質を持っていた。

 他人にどう思われても良いと思っていたのだから。

 自分の好奇心のままに、楽しいように暴れる。



 愛されたいと狂うよりも質の悪い、化物へとなりかけていた。



 今回、少し変化の兆しが見えたとはいえ・・・本質はそう簡単に変わるものではない。







 「まぁ、腕は失ったがの。毒で切り落とすしかなくなったのじゃ」

 

 父はマギアの動かした視線の先、床に転がった紫色の腕を見下ろした。

 

 「・・・卑劣な事をするものだ!そんなクズを相手に良く戦った!お前は本当に良く出来た娘だな!!」



 無能、出来損ないだと娘を見下していた父はそこに居なかった。



「此度の褒美は何がいい?」


 上機嫌に娘を甘やかそうとする。

 それに対してマギアは言った。




 「父上、この者が欲しいのじゃ!」




 マギアはドワーフの王子(カラク)をずいっと押し出した。


 カラクが、ぎょっとした目でこちらを振り向くが、少しばかり腕を掴む手に力を込める事で黙らせる。




 「またお前は変な物ばかり・・・新しい奴隷がほしいのか?奴隷なら亜人などではない別のモノを用意してやるぞ?」


 数年前に友達が欲しいと言われ、奴隷を買い与えた事を思い出したらしい父がそう提案するが、マギアは首を振った。


 「この者が良いのじゃ!」


 「何故だ?その者で無いと良くない理由でもあるというのか?」


 マギアは頷く。

 そして、顎で左の肩・・・失った腕を示した。


 「この腕を切ったはいいのじゃがな?間に合わなかったようでの。全身に毒が回った故、ドワーフが作る解毒剤が必要なのじゃ。」


 (まぁ、解毒剤が無くとも1ヶ月ほど昏睡するぐらいじゃろうがな)


マギアは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。


 「それとな、手の失った手の代わりとなる・・・義手を作らせたいのじゃ」 


 ()()()()()を告げる。




 「解毒剤に義手?そんなもの、作れるのか?」


 「作れるじゃろ。機械兵器はなかなか凄かったしの・・・高度な技術を持っているはずじゃろ?のぅ?」


 マギアは自分の手の中にある命を見下ろす。


 (作れなくとも良いから、とりあえず頷いてくれぬかの?)




 父の視線も加わり・・・敵の親玉二人の視線に震えながらもカラクは頷いた。


 震えているのは怯えからではない、怒りからである。

 敵の手助け(治療)をさせられるという屈辱に耐えかねて震えていた。

 それでもカラクはこの場を生き延びるために口を開かない。

 ここで殺されてしまえば復讐など果たせないと理解している故に。



 カラクはこの場を生き延びて復讐することを誓った。

 マギアの願いの通りに。




 「・・・王家の者じゃないだろうな?」


 (父上、鋭いのぉ)


 たまに父が見せる野生の勘のようなものにマギアは内心、苦笑いをする。

 言い当てられてカラクの震えが強くなるが・・・ギュッと抱き締めてそれを抑える。

 まるで大切なモノ(玩具)を奪われないようにする様に。


 そして、ニコリと笑って言う。



 「この国の王子は13歳じゃぞ?父上。この者がそんな年に見えるかの?」


 「・・・見えないな。6歳ぐらいだろう」



 マグルハ帝国は滅ぼす国の事など調べない。

 知略を巡らせるのは弱者のすることだと見下している故に。

 


 「そうじゃろ?・・・のぅ?カラク」


 嘘偽り無く王子の名を口にしても。


 (やはり、父上は反応しないか)


 敵の王族も良く知らない。

 どんな敵も我らが王の前では総じて塵芥なのだから。



 数年前、占領した国の王を見せしめに処刑したこともあったが・・・王族でない者(影武者)が王族として晒し首にされていたのだから笑ってしまう。







 「・・・いいだろう、ソレを奴隷にすることを許そう」


 父は少し悩んだ様子だったが、初陣だというのに一人で敵を殲滅せしめた愛娘のおねだりという事もあって折れた。


 「やったのじゃ!!感謝するぞ!父上!」


 マギアは今日一番の笑みを浮かべた。

 己の腕の中にいるカラクから憎悪の視線を向けられていることも気にせずに。















  こうして、マギアとカラクは出逢い、共にいることなった。


  マギア10歳。カラク13歳。

  最悪の出逢いであった。









そして。



 好奇心が罪悪感に、復讐心が――――――変わるのは。

 これより少し先のお話。

 幼いマギアの無邪気な邪気と、先帝をはじめとする帝国の馬鹿さが伝わっていれば幸いです。


 このあと色々あって今のマギアへと成長するのですが・・・ここの話はまたいつか。

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