女帝、頭を抱える
マギアの即位パーティは天井爆散による混乱の末、有耶無耶なうちに終わった。
というか、マギアが終わらせた。
その絶大なる権力を使い『追って沙汰を出す』と命じ、お開きにしたのだ。
そして今、マギアは。
「やってしまった・・・のじゃ・・・」
一人、頭を抱えていた。
(混乱していたとはいえ無意識に魔法を放ってしまうとは・・・妾も馬鹿じゃ〜っ)
―――――この世界には魔法というものがある。
魔法は火を起こしたり水を出したり・・・だけではなく理論上は大抵の事は行える力である。
その中でもマギアは身体強化の魔法に異常なほど適正があり、感情が高ぶったりすると意識しなくとも魔法を発動してしまう体質だった。
他の魔法はからっきしである。
火を起こしたり洗濯物を乾かしたりなど、初級の生活魔法も使えない。
・・・とはいえ、強化した体を使い、摩擦熱で発火したり、布地を引っ叩くことで水分を飛ばしたり、と似たような結果は起こせなくもないのであるが。
場合によっては、初級魔法どころか上級魔法レベルの事象も起こせたりするのであるが。
(父上と同じになりとうないというのに妾の阿呆〜っ!)
マギアは心の中で叫ぶ。
マギアの父であり、先日落石事故で亡くなった先帝は暴君であった。
自分の思い通りにならないとすぐ魔法で地震を起こすぞと脅すような人だった。
・・・ちなみに先々帝、マギアにとっての祖父は気に食わないことがあると火山を噴火させ、曽祖父は従わない村を濁流で押し流した、という逸話を持つ。
マグルハ帝国は建国以来ずっと、帝室の血筋が持つ広範囲遠距離殲滅魔法に物を言わせた圧政を行ってきた国である。
その魔法は、どれも自然が起こすそれに比べれば小規模とはいえ、人々は恐れ帝王に従った。
―――――――マグルハ帝は代々、暴君である。
そして、帝の死亡理由は大体、自爆であった。
先帝の落石事故も自分で地震魔法を使った結果であり・・・祖父は溶岩、曽祖父は濁流に飲まれ、総じて遺体すら見つかっていない。
歴代帝王の墓の半数は、中身が入っていなかったり、一部しか納められていなかったりする。
マグルハ帝室は代々、こんな感じであった。
1000年も存続出来ているのが不思議なほどである。
ちなみに、マギアは直接的な魔法で地震や噴火は起こせずとも、身体強化した力で地面を殴ったり蹴ったりすることで、似たような事が出来る。
竜巻使いだったという百年前の帝王のように、建物をぶち抜くのも朝飯前である。
・・・近距離であれば。
―――――これらが〈無能姫〉とされた所以である。
身体強化も魔法の一種であることにはあるのだが魔法らしくないので、魔法と言われないのである。
適性があり過ぎて無詠唱ということも災いしていた。
そして、戦闘時に帝王らしく、安全な後ろに居てはその絶大的な力が振るえない。
その結果、滅多なことがない限り、その力は振るわれず、その時、その光景を伝えられるような者は居ない。
・・・さらに、今はほとんど克服しているが、人見知りだったということもあり。
新しき女帝、マギア・ミスリル・マグルハは、帝王に相応しくないという評価を受けていた。
(じゃから、平穏に終わらせたかったのだがのぉ・・・)
舐められたくもないが、暴君では無いと示したかったマギア。
だというのに、感情に任せた形で天井を破壊してしまった。
あれでは力を見せつけた形であり・・・己の感情でその力を振るう暴君にはなりたくない、というマギアの望みから離れてしまう。
その上、歴代に比べればかなり小規模な破壊であり、『あの程度』と舐められる原因にもなりかねない。
どっちに取られても最悪である。
今日の所は、威厳を見せつけて、『今はとりあえず従っておこう』と思わせるのが狙いだった・・・のに。
「これも全てあの馬鹿のせいじゃぁ・・・」
あの馬鹿、婚約者があの場であんな、舐めきった事を言わなければ。
踏みしめた床に小さなヒビが入った。
・・・マギアはただでさえ、急に父が死んで動揺していたのだ。
帝王とその娘という普通の家族よりだいぶ遠く、好きでもないどころか大嫌いな父だったが、ショックではあった。
殺そうとしても死なない人であったのに、こんな呆気なく死ぬとは思っていなかったが故に。
まさか、16歳で即位するなんて考えてもいなかった。
そして、〈無能姫〉というレッテル。
それを払拭したいが、暴君にはなりたくないし、舐められたくもないという複雑な思い。
威厳たっぷり、余裕そうに繕っていたマギアであったが、実は必死だった。
そんな心の余裕のない時に、婚約破棄など突きつけられれば・・・
暴力的になってしまっても仕方がないのである。
(―――――っ、妾は悪くないのじゃっ!)
マギアは開き直った。
そして、キッと医務室の在る方向へを目を向け。
(やはり、怪我が治ったら一発殴らせてもらおうかのぅ!)
ぐっと拳を握りしめた。
無意識に膨れ上がった魔力に、銀髪が揺らいだ。
―――――その頃。
降り注いだ瓦礫により、軽症とはいえ傷を負ったルストは、倒れた者たちと共に医務室へと運ばれていた。
そして、無事に庇いきったサーレに甲斐甲斐しく世話を焼かれながら・・・目を覚ました貴族たちに怒鳴られ、どこからか殺気を感じ、泣きじゃくっていた。
高貴な身でありながら前線で暴れるしか出来ない姫君。
次話、王子登場