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女帝、即位して即婚約破棄される。

稚拙な作品ですが楽しんで頂けますと幸いです

 「マギア・ミスリル・マグルハ!」


 (・・・相変わらず脳味噌お花畑だの)


 呼び捨てされた少女は溜息を吐きそうになる口元を扇子で隠しながら声の主を見下ろした。

 その姿は、このマグルハ帝国を治めるに相応しい威厳に満ち溢れていたが・・・どうやら彼女を呼んだ少年には感じ取れないらしい。 



 「なんじゃ?我が婚約者殿?」


 (なぜこんな阿呆が妾の婚約者なのじゃろうか)

 

 どれだけ相手が馬鹿で阿呆でも、相手は己の婚約者で帝室を支えてくれる公爵家の者。

 自分の即位パーティで叱り飛ばす訳には行かない・・・のだが。


 (帝王しか登ることが許されぬ階段を登って来るとは、想像を絶する馬鹿じゃし、蹴り落としていいかのう?)


 マギアの手の中でメキョッと扇子が音を立てていた。

 それ以外は余裕をもって愛する者の返答を待つ麗しき女帝。

 内心がどれだけ暴力的であろうと外面は淑女であった。


・・・金属製の扇子が手の中でひしゃげていても。



 「今、この時から俺はお前という傲慢な女の婚約者なんかではない!婚約を破棄する!」


 バキャン!

 扇子が壊れ、床へと落ちた。





 (あ〜、だめじゃ。この馬鹿はどうしようもない阿呆じゃ〜)


 手の中に残った金属板をグニグニと折り曲げ弄びながら現実逃避。

 そうでもしないと婚約者殿にロケットパンチをかましてしまいそうだった。




 「・・・なぜじゃ?ルスト・ブロンズ」


 なんとか暴力衝動を抑え込んだマギアは穏やかに婚約者殿(ルスト)に問うた。




 「お前との偽りの愛ではなく、真実の愛を見つけたのだ!!」


 (政略結婚なのじゃから愛などあるわけないじゃろうが。阿呆)


 マギアとルストは16年前・・マギアが産まれ、ルストが1歳の時に決められた婚約者である。

 幼い頃からよく遊んでたといえ・・・否、遊んでいたからこそ、愛や恋心なんて芽生えようはなかった。

 マギアはルストの幼い頃から変わらない馬鹿さに呆れており、ルストはマギアに引きずり回された事でマギアの本性を知っているためである。


 ・・・マギアの本性を知っていながら、この騒動を起こしたルストは本当に馬鹿である。

 マギアが女帝という己より国を考える立場でなかったら・・・暴君であったら、物理的に破滅させられているところであった。





 「・・・おいでサーレ」


 「あっ、うん、ルスくん」


 ルストに手招かれ、階段を登ってくるのはマギアもよく知る少女。


 というか、マギアの奴隷(モノ)である。

 首には細く、一見お洒落なチョーカーに見えるが、奴隷を示す枷がいつもと変わらず光っていた。

 しかし、いつものシンプルなワンピースではなくドレスを身に着け化粧も施していたため、サーレが会場に居ることにマギアは気がついていなかった。




 (おぉ・・・サーレが着飾っているのは初めて見たのぅ。なかなか可愛いではないか!)


 サーレの変身っぷりにマギアは驚いていた。

・・・現実逃避の意味合いも強かったが。



 サーレは友達が出来ないと嘆いていた6歳のマギアに先帝が買い与えた奴隷である。

 それから10年間、2人は幼馴染か姉妹のように育っていた。

・・・つまりは。


 「え、えと・・・マギア、ごめんっ!あたし、ルスくんの事が好きなのっ!!」

 新しき女帝に対する礼儀など無いのである。


 (共に遊んでおると疎外感を感じることは昔からあったが・・・こんなことになるとはの〜)


 マギアは自分の宮にサーレを閉じ込めていた事を後悔した。

 昔、マギアに対する人質として、サーレが狙われたことがあったとはいえ過保護になりすぎたと・・・もっと世の中というものを教えるべきだった。


 (まぁ今更であるがの)


 マギアはもう隠すことなく溜息をついた。





 「この女に謝る必要なんて無いぞ、サーレ。

こいつは君の自由を奪っていたのだから!」


 「でも、マギアは友達で」


 「君は本当に優しいな」


 「ルス君のほうが優しいよ!あたしを連れ出してくれたんだから!」


 「・・・サーレ」


 「ルスくん」


 二人の世界をイチャイチャと作り始めた元婚約者と幼馴染。


(全くそなた達は・・・)


 マギア一個人の意見としては

 (勝手にしてくれて構わぬ!)のだが、女帝としては

 (舐めた真似をしおって・・・っ!!)と言いたいところである。


 ただでさえ代替わりという国内が不安定になる時期に、馬鹿にしたような態度を取られるというのは不味い。

 その上、数年前まで〈無能姫〉と呼ばれていたマギアである。

 せっかく身につけた威厳で払拭したかに思えたのにこれでは・・・




 (どうやってこの場をどう収めるべきかのぅ?)


 マギアは視線を辺りへと移した。

 名だたる貴族があちらこちらで硬直しているパーティ会場へと。

 中にはぶっ倒れている人もいて・・・


 (ブロンズ公爵(ルストの父)か、とんだ親不孝息子を持ったものじゃの〜。あとは・・・あぁ!よく遊んでくれたスチール辺境伯まで倒れておる!?)


 マギアの本性を知る数少ない者は総じて現実に耐えかね気絶していた。


 気絶してないのは馬鹿と阿呆とそこまで親しくない者たちである。

 ひそひそと話しているのは〈無能姫〉だった、マギアの噂しか知らない、ほとんど領地に籠りきりの貴族であった。



・・・〈無能姫〉でなくなったマギアの噂はあまりにも突飛で恐ろしく尾鰭の付きすぎたように見える物だったため真実として広がらなかったためである。






(頭を打ってないといいのじゃが。・・・いや?衝撃でこの事を忘れてくれたほうが幸せかの?起きてる者も殴って忘れさせるのがいいかのう?)


 人はそれを口封じという。

 マギアはグッと拳を握りしめ。




(だめじゃだめじゃ。妾は父上とは違う治世を作りたいのじゃから・・・暴君にはならぬのじゃ!!)


 首を振った。

 そして、行き場のなくなったら拳を天に向かって振り上げた。









 (妾は、頑張るって決めたんじゃからっ!)







 






 その結果。

 新しい帝王の即位を祝福する花弁・・・ではなく。

 歴史ある王宮の天井の破片が降り注いだ。









 スポットライトのように差し込む陽光の下、

片手をふりあげた彼女の姿はその場にいた者全てに焼き付けられた。


 この国に新しく君臨した化物を。




 〈無能姫〉・・・戦うことが出来ないとされていた姫君が見せつけた圧倒的な力。


 微かに虹色を揺らめかせる銀色の瞳と髪。

 そして・・・切り裂かれたドレスから覗く、金属で形作られた右足。

 よく見れば降ろされたままの左手も無機質に光を反射していた。


 義手と義足。






彼らは噂した。

 魔物にその身を売り、力を得た魔女が帝王となったと。



彼らは知らない。

 マギアが守られるべきその身で何を守ったかを。

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