1-1 魔王の家出!?
もう嫌だ!辞めたい!!
――魔王なんてっ……!――
僕はルルウ・クルシュカ。
半年前、たった十五歳にして第百六十八代目魔王に就任した魔族の少年である。
こんな子供で魔王なんかが務まるかだって?
正直、僕もそう思う。何なら、そうとしか思わない。
だって、僕はまだたったの十五歳、つまりは子供なんだよ?
確かに魔族は種族によって成人する年齢が違ったりするかもしれない。だから種族によっては十五歳は十分大人かもしれない。
でも、僕の種族である魔人族。その魔人族が大人として認められるのは十八歳。本来よりも三年ほど早い。つまり僕は明らかな子供なわけだ。
それに僕は十五歳の魔人族の中でも平均よりも身長が小さい。魔人族のほかにはそれよりも大きい種類がいっぱいいるので、ここじゃ下手すりゃ、「ちびっこ」扱いだ。
魔王なんてものは強いものがなる。それが決まりで確かに身長が小さいものが成ってはいけないという掟のようなものはない。
しかし、それでも外見というものは大事だろう。
見かけによっては舐められる原因になる。
確かに言ってしまえばこれだけだろうけども、これが魔王を務める人の状況と考えるとかなり具合が悪い。下剋上や命令無視、治安悪化などの問題になるからな。
それなのに、僕の父上である前魔王ゼグン・クルシュカが「お前はもう俺よりも強くなった。だから、これからはお前が魔王の座を継げ!」とか言ってきて、実際に魔王の証である「魔王の指環」を僕に譲渡して魔王の座を明け渡してきた。
魔族の中で一番強いものが魔王になるという掟というか風習は存在するし、それに絶対に実力で勝ち取らないといけないものでもない。なので今回も風習通りと言えるだろう。父上が言うことが本当ならば……
しかし、僕はそうとは思えない。
だって、まだこんなに若い、いわば未熟者である僕が数十年も魔王の座に座り続けた父上を越えるなど無理だ。むしろ就いてから半年たった今でさえ届けてすらいないだろうと思う。
だから、まだ僕は魔王の器ではないのだろう。
まぁ、でもそれはまだいいんだ。
魔王就任としては歴代初のことがいくつかあったが特に僕が問題に思っているだけで、周りは、特に身内に等しい者たちは特に問題に思っていなかったし……
でも、そのあとのことである、魔王就任後のことが問題なのだ。
その問題というのが――
魔王である僕に対する魔族貴族たちの言動だ。
彼ら、僕に対して下剋上を狙って決闘を挑んできたり、古くからの因縁がある人間に対して戦争を仕掛けようとひたすら進言してきたりするのだ。
僕にとってみればどちらもあまり、戦争の話については全くしたくない。
むしろ僕としては真逆の人間とは仲良くなりたいというのが個人的な考えなのだ。
それに魔族は基本的に好戦的だし強欲だから、その上僕がまだ若き小さいから周りから弱く見えるから、自分が魔王になろうとしたりだとか、自分の都合よくできるように傀儡にしようと策略してくる。
これがこの半年間かなりの頻度、それこそ毎日のごとくやってくるのだ。
最初こそ、頑張って対応していたのだが、流石にここまでくると僕の方の精神が摩耗してしまった。
――正直、
「もう疲れた……」
最近に至ってはこんな言葉が口癖のように出るようになってしまった。
もういっそのこと、ここを家出しようかな。
ん?家出……?
「そうだ!嫌ならここから家出してしまおう!」
家出しちゃえばこんなに大変なことしなくて済む。もっとゆっくりとした生活を送ることもできるだろう。
こんなことを言ったら流石に責任感がないと周りに怒られそうだけど、魔王の仕事は俺がいなくても、本来ならやっていただろう父上がやってくれるだろう。
元を言ってしまえば父上が僕に魔王を押し付けたのが悪いのだし。
若干、罪悪感があるけど構わないだろう。
「よし、決めた!」
「決行は一週間後の夜。それまでにバレない様に準備をしておかないと」
僕は決めると早速自室に向かい、簡単なものから準備をし始めながら今後の計画を考えることにした。
―― 一週間後 ――
今日が作戦結構の日だ!
この日のために一週間しっかりと計画を組んできた。
この一週間ワクワクしながらもちゃんと周りにバレない様にしっかりと準備もしてきたし完璧だろう。
でも、少し心残りなのはさっき魔王の証でもある「魔王の指環」を父上の部屋に置いていこうとしたら、父上にバレてちゃんと持ってろと言ってきたことだけど、バレたりしてない…………よね?
まぁ、この際バレていないというていで、出ていくことにしよう。
もう少しで日も暮れて夜になるし、最終確認を済ませて早速出発することにしよう。
そう思って、僕は持っていく荷物を詰めたバッグを一度開いて再確認する。
「えーっと………数日の食べ物に着替えの服、そしてナイフや水筒………」
後は、この腰に下げている愛用の剣。
荷物は最低限に絞ったけれど、これでも何があっても大丈夫だろう。
「よし、行こう!」
確認し終えたバッグを背中に背負いなおすと、僕はまず瞬間移動してこの城の屋根に移動する。
辺りはすっかり真っ暗だ。城の屋根の高さもかなりある。それなりに風も吹いている。
長距離移動の魔法は流石に足がつくよな。
しょうがない、飛んでいくか……
今は夜で辺りは暗いし、かなりの高さだから地上からじゃ見つからないだろう。まぁ、わかっていてこの時間帯に出発することにしたんだけど。
「それじゃあ、行こう!」
僕は勢いよく飛び出して、背中の翼を広げ、飛んでいく。
城から出ておおよそ七時間経った。もうそろそろ朝日が昇り始めてくる頃だ。
できるなら、もう少しこのまま空を飛び続けていたいところだが、流石にこれ以上は明るくなるから見つかってしまいそうだ。
ということなので、僕は一度地上に降りようと思う。
「じゃあ、あそこにするか……」
僕はばれないために近くにある手ごろな森に向かって少しずつ高度を下げていき着地する。
地面に足をつけると、飛んだせいで乱れてしまった服装を整え、頭には被った顔が簡単に見えないようにする。
ここはまだ僕の住む魔王城のあった魔族の都であるルイクスヴァンザから街を一個超えたほどしか進んでいないのでまだ人通りが比較的多いだろう。僕はまだ魔王になってからまだ半年くらいしか経っていないし、まだいろいろな理由で限られた場所にしか知らせていないので知っている人は限られている。
でもさすがにまだ街にほど近いからバレてしまうかもしれない。
それに魔族は結構自由気ままに動いているやつが多いので行動が読めない。だから、気まぐれで森に入ってきたやつにばったり会ってしまうかもしれない。
そんな奴にうっかりバレない様にするために、しっかりとフードとかで対策をしないといけない。
まぁ、最低限これで十分であろう。これ以上はできないし。
「これでめったなことがなければバレることはないから、先を急ごうか」
身支度が整ったら僕は再び、今度は森の中を進んでいく。
今、僕が目指しているのは第一の目標地点、要は中間地点なわけだが、それはこの大陸を大きく二つに分けている大山脈「ラダナプト大山脈」だ。
なぜそこを目指しているのかというと、僕が最終的に目指しているのが人やエルフなどの住む大山脈の西側通称「アルウェスト」であるからだ。
この大陸「ゼーゼルバ大陸」は僕たち魔族の住んでいる通称「カースイースト」と「アルウェスト」はこのラダナプト大山脈によって分断されている。
要はアルウェストに向かうにはまずはラダナプト大山脈を越えないといけないのだ。
なので、まずはそのラダナプト大山脈を目指しているのである。
カースイーストはゼーゼルバ大陸のおおよそ四分の一位しかないのだけどルイクスヴァンザが東の端の方にあるせいでそれなりに時間がかかる。多く見積もって一か月くらいだ。
「できるだけ早めにつけるといいんだけど……」
時間がかかりすぎたらさすがに僕が見つかる可能性もあるだろうし、単に僕の負担も大きくなるだろうし。
そのため、早く着くためにもできるだけ寄り道せずに進んでいきたいのだが、なんと予想外なことに森の中には僕のことを誘惑するものが多く溢れかえっていた。
ご、ごくり…………
僕は僕の興味を際限なく引き付けてくる周りの果実やら花やらを見て息をのむ。
僕はなんでかわからないけど街からあまり出してもらえず、いわゆる箱入り状態に等しいのでそれらはすごい物珍しく映る。
――しかし、
ぐっ………………
余計な寄り道はさっき言って様にできないので悔しいが無視して進んでいく。
きっと、向かった先でもいいものがあるだろう。
そう自分に言い聞かせて、僕は先を急ぐことにした。




