【LEVEL:2】歪んだ愛
「春菜!!早くしろや!!バカじゃねーのか!?」
時を刻む声に焦りだしたのか冷静さを失っていく杉浦の夫。
「マ…ママを怒らないで…。」
か弱く届く声。
自分の中の恐怖よりも怒鳴られている母親を心配し庇う小さき命。
(なんで迷うの??なんで子供を選べないの??我が子でしょ??)
私は杉浦を見つめて苛ついていた。
(どう見ても、あの子の顔のアザは最近のものではない。あの夫が暴力を振っているのだろう…杉浦もよく見れば顔にアザがある…。なんでこんな男の命と我が子の命で迷うの??)
そう思っていると…
【残り4分です。】
苛ついている私を更に苛つかせる声。
「なんでこんな事をさせるのよ!!??」
完全に身勝手で非常識なこの
【選択】
をさせている声に向かって私は叫ぶ。
だが、声は答える事はなく変わりに…
【残り3分です。】
と告げる。
「わ…わわわわわ私は…ずっと貴方の愛情が欲しくて、貴方に愛されたくて、例え貴方が私や涼太に暴力を振るっても我慢してきた…。」
突然話し出す杉浦。
「俺をここで選べば、またちゃんと愛してやるよ!!」
吐き捨てるように答える杉浦の夫。
「あ…ああ愛してくれるの??」
泣きながら画面を見つめる杉浦。
(なぜ…??なぜ、自分のことばかり考えて子供の事は考えないの?血が繋がってないから?男としての愛情を子供はくれないから??なんて自分勝手なの??)
私は杉浦たちのやり取りに耳を塞ぎたくなった。
【残り1分です。】
時が迫った。
「マ…ママ…ありがとう。大好きだよ。」
そう言って微笑む杉浦の息子。
私はそんな杉浦の息子が不憫でたまらなくなり、耳を塞ぎ目を閉じて杉浦の出す答えを遮断した。
目の前で今から起きるであろう惨劇を頭に浮かべながら私はそのまま
【事】
が過ぎるのを待った。
「ぎゃあああああぁああああああ!!」
「てめぇーええええええぇぇぇぇ…」
「は…はははははは…るるるるる…」
耳を塞いでいても聞こえてくる悲痛な男の叫びに、私は恐る恐る目を開けると画面を見つめながら微動だにしない杉浦と…画面に写る全身から煙を出して痙攣を起こしている杉浦の夫らしき姿を捉えた。
(息子さんを選んだ??)
そう思っていると
プスプス
バチバチ
と音を立てて杉浦の夫らしき物体は全く動かなくなった。
「愛して欲しかったの。私も…涼太の事も…。私が弱いから…」
そう言い残して杉浦は大きな手によって室内から姿を消した。