伯爵令嬢は騎士様に恋してる。
※戦争が終わって~のマリアージュの長女の話です。
「ジェズアルド様、かっこいいーーー!!」
私の名前は、マリッサ・フロネア。
このジェネット王国のフロネア伯爵家の長女である。十六歳の私は双子の妹のメリッサと共に王宮で魔法の研究職をしている。
そんな私の日課は、王宮騎士団の鍛錬の様子を覗き見ることである。というのも、私がずっと片思いしている方がここにいるからだ。
王宮で研究職をしているからこうして鍛錬の場を見るのも簡単に出来てとてもいいのよね。
「おい、ジェズアルド、またマリッサ様来てるぞ」
「マリッサ様は本当にジェズアルドが好きだな」
王宮騎士団の者達に私がジェズアルド様の事が好きでたまらないのは知られている。というのも私はジェズアルド様に恋をしてから機会さえあればこうしてジェズアルド様の様子を見に来ていた。私がジェズアルド様の事を好きになったのはもう十年近く前のことだ。
お母さんに連れられて王都にやってきた時、私は誘拐犯に攫われそうになったことがあった。とはいえ、お母さんやお父さんから護身術などを学んでいたし、調合で作った薬でも投げつけようと思っていた。そんなときにジェズアルド様が現れて颯爽と助けてくれたのだ。
あの時のジェズアルド様と言ったら、今思い浮かべてもかっこよかった!! どうしようもないほどかっこよくてたまらなかった。私があのマリアージュ・フロネアの娘で、ならず者に薬を投げつけようとしていたし、自分で何とか出来たって言っても、「それでも女の子だろう?」って私を案じてくれた。
お母さんとお父さんの名は有名だ。特にお母さんは、ずっとこの大陸一名を馳せている最強の騎士。お母さんの子供であるという事が、私達にはずっと付きまとう。お母さんが恐ろしいからって逃げてく人とかもいるし、お母さんの子供時代の逸話を知っている人たちばっかりだし、私のこともお母さんと同じって思ってる人いるのよね。まったく、あんなおかしなお母さんと一緒にしてほしくないわ。そりゃあ、同年代の人たちよりは私戦う事が出来るかもしれないけど。それでもお母さんほど異常ではないわよ。
それでね。私、ころっといったの。
当時ニ十歳を超えたばかりのジェズアルド様は私に笑顔を向けてくれて、頭を撫でてくれて、本当に惚れてしまったの。
すぐに結婚してほしいって特攻したけれど、断られたのよ。私はまだ子供だったし、子供の戯言と思われたのね。
だから信じてもらうためにそれ以来、好きだって気持ちをずっと伝えるようにしているわ。王宮に務めるようになってからはより一層時間がある時にここにきているわ。
私の方を振り向いたジェズアルド様、かっこいい。私よりも十五歳も年上だけど、ジェズアルド様っていつでもかっこいいの。二十代の時のジェズアルド様もそれはもうかっこよかったけれど、でもいまの、おじ様としてのかっこよさと言うか、大人としてのかっこよさを持ち合わせているジェズアルド様もとってもかっこいいわ。
ジェズアルド様って私の事嫌いなわけではないと思うの。だって私がジェズアルド様のこと、大好き! って示しているのもあってジェズアルド様って婚期遅れてるらしいわ。あのマリアージュ・フロネアの娘が恋している相手を横から奪うのは……っていうお母さんの威光が光っている。これほどお母さんの存在を感謝したことはない。
あとジェズアルド様は騎士団の中でそこそこ戦果を挙げているけど、お母さんたちほど英雄ではないんだよね。実際ジェズアルド様の年代だと、騎士団長様が有名だし。
「マリッサ、また来たのか」
「えへへ、当然ですよ。ジェズアルド様をいつでも私は見たいんですから!! だから、お嫁さんにしてください」
私より背の高いジェズアルド様を見る。栗色の髪と栗色の瞳を持つ、騎士様。髭が生えていて、渋めでかっこいい。この人の前に出ると、いつも私はこんな風に笑みを溢してしまう。……お母さんがジェズアルド様にこうやって突撃する私を見てニヤニヤしてたっけ。
本当にあのお母さんは……、女の子は好きな人の前で可愛くなろうとするのは当然でしょうに。あんなにニヤニヤして!! 本当に変態なんだから。お母さんのことは好きだし、尊敬はしているのよ。でもあの、美少女や美男子に対してあれだけはしゃぐのはやめてほしいわ。あれがお母さんなのは知っているけど……。
「……また、それか」
「ええ、またですわよ。私はジェズアルド様と結婚したいんですもの。その気持ちは変わりませんわ」
「俺とマリッサだと年が離れているだろう……」
「またそれですか!! それは気にしなくていいって言ってるのに」
まったくもう、いつもジェズアルド様はそうなんですからと思ってならない。年の差なんて気にしなくていいのに。私が年下だからってそういう風に言うのよ。
でもね、本当にジェズアルド様が私の事をどうにかしたいっていうなら結婚しちゃえばいいのよ。それか本当に突き放すか。それだったら私もここまで押せ押せはしない。でもジェズアルド様はそれをしないから、私の事を嫌ってはないはず!!
そんな思いで私は今日も特攻している。
「まったくもうマリッサは飽きないわね。またジェズアルド様の所へ行ったんでしょ?」
そんな風に言うのは私の双子の妹であるメリッサである。私達双子は王宮の研究所の一室に二人で住んでいる。
「だってかっこいいのだもの。ああー、私も早く射止めたいわ。ソルなんてさっさと結婚相手見つけてきちゃったし、私もラブラブしたい」
「ケーシィ、凄く美人さんでソルとラブラブだったものねぇ。でもいいじゃない。私なんて今そんな仲になったら犯罪よ?」
メリッサが好意を抱いている男の子はまだ小さいのだ。その子はメリッサの事を好き好きって言っているけど、子供の好意の勘違いの場合もあるし、大きくなってからも自分を好きと言ってくれるなら逆プロポーズする! とか言ってた。
……でもメリッサの場合はいいのよね。あの子、メリッサのことが大好きだし、メリッサが大人になってもメリッサの事好きそうだもの。
ソルはさっさとケーシィっていう思い人見つけて、その子と一緒にまた旅立ったし。メリッサは両想いだし。私も好きだって言ってほしい。
ジェズアルド様に好きって言われたらどれだけ私は幸せな気分になれるかしら? 想像しただけでもわくわくしてうずうずしてしまうわ。いつか、ジェズアルド様に好きになってほしい。私の事を好きだって囁いて欲しい。だって大好きで、愛してるから。
ジェズアルド様も私の事嫌いなわけじゃなのは分かるわ。それに私の頭撫でてくれるし、優しくしてくれるし。脈がない訳ではないはずだもの!! だからそろそろ陥落してくれるはずと思っているの。
そのために、私はどんどん向かっていくわ。
というわけで、何度も何度もそれからも私はジェズアルド様の元へと向かっている。
そして私の望んだその日は案外早くやってきた。
「ジェズアルド様!!」
「マリッサ……」
「今日もかっこいいです! 大好きです! 結婚してください!」
その日も私はいつものようにジェズアルド様へと向かっていった。いつものように愛を叫んで、結婚してほしいと告げる。
それは王宮の中庭でジェズアルド様を見かけたのだ。
今日もいつものように断られるのだろうかと思っていたのだが、
「……マリッサは、どうしてそこまで俺がいいんだ」
と質問をされた。
私はその質問が来た時、はしたないことに美男美女を見た時のお母さんのように叫んでしまいたくなった。内心、「きたきたきたー」などと令嬢に相応しくないことを考えながら私は冷静に答えることにした。
だって、なんか関係が変わるきっかけって感じでしょう? なら、冷静にならないと。これは恋の駆け引きよ!!
「私がジェズアルド様の事を愛しているからですわ。初めて会った時、貴方は私の事を助けてくれました。そして私があのマリアージュ・フロネアの娘だと知っても、何処にでもいる少女と同じ扱いをして、笑いかけてくれました。その時に私はジェズアルド様の事を大好きになりました」
そう、その時に大好きになった。
その時に私の心は、熱を持った。ジェズアルド様の事が好きだって、大きな熱が生まれたんだ。
「でもそれだけじゃありませんわ。それからずっとジェズアルド様のことを見て、真面目なところとか、優しいところとか、騎士として一生懸命に働いていて……。ジェズアルド様は天才ってわけではないけれど……天才が隣にいても腐ることなく騎士として鍛錬していて、それで徐々に力をつけていて……。そんなジェズアルド様だからこそ、大好きなんです」
騎士団長——お母さんに憧れて騎士団長なんてものになったらしい人は、お母さんほど異常ではないにしても天才っていうやつだ。剣の腕が凄まじい。私は剣よりも魔法の方が得意で、剣の良し悪しはお母さんより分からないけれどそれでも天才は分かる。
そんな天才と同年代で腐る人間っていうのもいるのに、ジェズアルド様は腐らなかった。堅実に力をつけて、天才ではなくても騎士として頭角を現している。
親が二人とも英雄で、天才……いえ、天才を超えているような存在だかジェズアルド様に惹かれたっていうのもあるかもしれない。
ずっとずっと見ていて大好きだな、って気持ちでいっぱいになったのは事実だ。恋は理屈ではなく、気づけば落ちるものなのだ。
「私は十年前にもうジェズアルド様に落ちてるの。ジェズアルド様が結婚してくれないっていうなら、私は一生結婚なんてしないわ。私はジェズアルド様と結婚して、夫婦になって、子供が欲しいの!! ジェズアルド様の傍にずっといたいの」
……いけないいけない、つい、興奮してならなくて願望があふれ出てしまった。お母さんの血かしら、たまに興奮してしまうのよね。淑女としてこれではいけないわね。
私はじっとジェズアルド様のことを見る。
ジェズアルド様は私の言葉に一瞬だけぽかんとした顔をして笑った。
ああ、もうときめくわ。なんて素敵な笑みかしら。この優しい笑顔を見れるだけで私は嬉しくて、幸せな気持ちになって仕方がないの。
ドキドキしている。
「――本当にマリッサは昔から変わらないな」
「ええ、ええ、私は昔からずっと、ジェズアルド様のことが大好きですもの!!」
この気持ちは誰にも否定させない。私がずっと大切にしている大事な気持ち。10年変わらなかった大切な恋心。
「……はぁ、こんなおじさん捕まえて、結婚しても俺の方が絶対に先に死ぬぞ?」
「それは百も承知ですわ!!」
「……後から後悔しても、知らないぞ?」
「後悔なんてするはずがありませんわ!! ジェズアルド様もご存じでしょう? 私の家が一途なことぐらい。私はジェズアルド様の心さえ手に入れば満足ですもの。ジェズアルド様に愛されたいって一心しかありませんわ。
私、ジェズアルド様にとって良き妻にきっとなって見せますわ。私はジェズアルド様が大好きですもの。ジェズアルド様のためならなんだってして見せますわ」
私は真っ直ぐにジェズアルド様のことを見ていった。
「だから、私の事をジェズアルド様のお嫁さんにしてください!!」
私の言葉にジェズアルド様は少し黙ってから、「……負けた」と言って、頷いてくださったのだ。
「やったあああああああ」
……そして私ははしたないことかもしれないが、盛大に歓喜の声をあげてしまったのであった。その様子を落ち着かせるためにジェズアルド様に抱きしめられて、私は顔を赤くして黙り込んでしまったのだった。
――それからまぁ、お母さんが大興奮して「結婚式はいつなの? 目一杯綺麗な恰好しましょうね。はぁ、マリッサも花嫁衣裳着るのかぁ」と気が早い事を言っていた。
……私もはやくジェズアルド様のお嫁さんになりたい! って目でじっと見てたらちゃんとプロポーズしてくれて、私は嬉しすぎて気絶してしまうのだった。
というわけで戦争が終わって~のマリアージュの長女で、冤罪~のソルの姉の話です。今後、他の兄妹の話も書いていきたいです。
マリッサ・フロネア
《炎剣帝》マリアージュ・フロネアと《光剣》グラン・フロネアの娘・長女。双子の姉の方。
グラン譲りの美貌を持つ美しい少女。10年前から騎士であるジェズアルドに惚れていて、押せ押せだった。
母親の事を変態とか思ってたりするが、興奮した姿はマリアージュと似てたりもする。基本的に冷静な少女だが、好きな人相手には一直線だったりする。
双子の妹と共に魔法の研究職として王宮に務めている。
ジェズアルド
王宮騎士団に所属する茶髪の騎士。
マリッサとは十五歳差で、ずっと押せ押せされてた。ずっと好きだと言われて悪い気になるわけもなく、何だかんだでマリッサへの好意はあるので折れた。
十五歳も違うのはどうかと思っているが、結婚する事を決めたので躊躇いや迷いは捨てた。なので多分キスとかは躊躇いもしないと思われる。マリッサがその度に沈黙したり、反応が凄まじいことになる。
騎士団長が天才な人だけど、腐らずにコツコツと鍛錬を積んだ人。騎士団の中でも評価は高い。実家は子爵家。