馬と鹿を黙らせたい
今回も短編です。
婚約破棄ものを書いてみたかったけどこれじゃなかった感が拭えないです。
コメディーと呼べるかは微妙。
※11/27修正しました。
「ランベル・ウィルハーン!貴様はここに居る、マリアベル・ディーオリン嬢を卑劣に虐めた犯人である!よってお前との婚約は破棄させて貰う!!」
今日はとある学園の卒業式だ。そこには大勢の人達で溢れかえっており、先程まで賑やかだった会場はいきなりの大声にシンと静まり返っている。
今、一人の女性を指差し声高らかに宣言したのはこの国の第一王子であるギルベルト・ヴォルフリーグだ。
「……殿下、何方かとお間違えではないでしょうか」
「白を切るつもりか!証拠はあるんだぞ!潔く罪を認め彼女へ謝罪を求める!!」
「ですから、私は虐め等しておりません。そもそも虐める理由がございませんし、彼女の事も存じ上げません」
「……ギル様、これは嘘です!だって、だって……あんな言葉を投げつけてきたのに……!酷いわ……!」
「この!往生際の悪い魔女め!!彼女はこんなに怯えているではないか!」
隣に居る泣き出したマリアベルを庇いながら怒り心頭な王子に比べ、対峙している女性はとても落ち着いて冷静である。
それも当然だ。
(私、貴方の婚約者では無いので全く身に覚えがないのですが!!)
-----そう、彼女は王子の婚約者では無かったのだ。よって動機は無く、この罪は冤罪。
「殿下とお会いした頃から何度も申し上げておりますが、私は貴方様の婚約者ではございません。それに、私は学生では無いのでほとんどを学園の外て過ごしております」
「ここまで来てまたその嘘をつくのか!?性根が腐っている!」
腐っているのは貴方の耳ですとは流石のランベルも言えなかった。
コレを納得させるのも骨が折れるが……
(ベル、コイツ潰そう)
(やめなさい。仮にも王子よ)
先程から王子の斜め後ろにいる護衛、アランヴェッシュ・リドリアーヌがランベルに物騒な事を目で語りかけてくるのもあり、気が遠くなりそうだ。
「殿下、失礼ながら発言してもよろしいでしょうか。申し上げたい事がございます」
「アランヴェッシュか。いいぞ許す。この女を叩きのめしてくれ!そして罪を自覚させ謝罪させろ!罪を認めたら牢へ投獄しろ!!!」
「アランヴェッシュ様……!お願いしますぅ!」
猫撫で声でアランヴェッシュへ抱き着くも、
「お離しください。私は結婚しておりますので、不愉快です」
バッサリと切られている。
「私も何度も申し上げておりますが、彼女は殿下の婚約者では無いです。現に彼女も既婚者です 」
二人はキョトンとしており、何を言っているのか解らないとでも言いたそうな目をしている。
「何度も何度も申し上げておりますが、ベルは俺の嫁だ!殿下に俺の婚約者だと紹介した時から思ってたが!ベタベタベタベタと人の婚約者に触れるな!勝手に勘違いして聞く耳持たねえし、贈り物するわで俺はいつ殺してもおかしくないくらい腸煮えくり返ってるんだぞ!あと!数ヶ月前に結婚したと2人で報告しただろ!?聞いてなかったのか?それとも馬鹿なのか!?」
「私も何度も何度も申し上げました。……花束やらドレスやら婚約者でも無い人から贈られるのは、凄く気持ち悪いわ!それに!私は騎士科在籍の女性達の臨時講師!!受け持ってる授業がない限りは騎士の詰所で仕事!!今日はただ招かれてるだけです。今までにも何度か説明しております。お二人共その耳はお飾りなのですか!?要らないなら削ぎ落としますよ!……あと、マリアベル様私の旦那様から離れてくれるかしら!?」
静まり返っていた会場からなんとも言えない視線が王子とマリアベルへ注がれる。
二人は羞恥で顔を染め、言葉が告げないようだ。
「……愚息がすまぬな、ランベルにアランヴェッシュ。ほんと申し訳ないと思ってるから、その殺気……抑えてくれんか?」
タイミングを見計らったかのように陛下が兵士を連れて登場した。きっと、先程の怒涛の口撃に登場するタイミングを失ったのだろう。
「……陛下遅いですよ。それと、俺達しばらく仕事しませんからね」
「それは……、いや、はい。わかったから存分に休んでくれ」
「ねえ、アッシュ。この馬鹿達のせいで行けなかった新婚旅行にでも行きましょうか」
「あー……いいなそれ。いくか」
王子とマリアベルが兵士に連れてかれる中、どこ行こうかしらと相談する二人は既にお互いだけの世界だ。
混沌とした卒業式と婚約破棄騒動(笑)は、騒動を起こした王子が連行されるという異常な光景で幕を下ろした。
これ以降、人の恋路(というか新婚生活)を邪魔する奴はたとえ馬でも鹿でも蹴られてしまうと人々の記憶に深く刻まれ、後の世代へと語り継がれていくこととなった。
お読みいいただきありがとうございました!
いかがでしたでしょうか。
ちょっとした巻き込み事故です。