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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三月の短編系まとめ

憑依先がデブ公爵令嬢

作者: 三月

 目が覚めるとヒラヒラのカーテンが眼前に飛び込んできました。驚いて体を起こそうとしましたが体中に鉛が巻きつけられているかのように重くすぐに起き上がれません………

 必死の思いで体を起こして辺りを見渡せば、私の体は推定キングサイズくらいあるであろうベッドで寝ていました。

 カーテン+ベッド。つまり天蓋つきベッドという超豪華なベッドに寝ていたという事です。


「こ、ここは一体……」


 驚いてもう一度辺りを見渡すと見覚えの無い光景が広がっていました。一言で言えば豪華とファンシーとピンクがカオスに入り乱れた部屋でした。起きてから既に何度も驚いているというのに、私は自分の腕を見て更に仰天しました。


「な、なんですかこのボンレスハムは……」


 手がまるで昔子供の頃に川で実物を見てトラウマになった水死体どざえもんのように膨れ上がっており、腕は私が呟いた通りボンレスハムが腕に付いているかのような太さを有しておりました。いやな予感がして下を向けばビール樽もかくやと言わんばかりの三段腹(正直に言うと四段腹)に、丸太と言われても仕方が無いようなぶっといおみ足が鎮座しております。自分の身の変化が信じられなくて近くにあった豪華な装飾が施された鏡を見ると、そこには脂肪に塗れた子豚ちゃんが間抜け面を晒しながらこちらを見返しておりました。


「ぎゃああああああああああ!!何よこれぇぇぇぇぇ!!」


 およそ乙女にあるまじき奇声を上げる私。もちろん、目の前で間抜け面を晒している子豚ちゃん(仮)が今の私自身の姿であるというのは理解できました………が、受け入れられるかどうかは別問題なのです。


「お嬢様!」


 悲鳴を聞きつけたのか、メイド姿の美人さんが部屋に飛び込んできました。もちろん、私には見覚えがありません。


「お嬢様!意識が戻られたのですね!旦那様にご報告致します!」


 そう言うと、こちらの様子も構わずに再び部屋を飛び出していきました。呆気に取られてその場に取り残された私………って、そんな場合じゃない!

 今は一刻も早く現状を理解すべきだという考えが脳裏をかすめます。起きたら見ず知らずの場所でいつの間にか体が別人のものになっているだなんて、不安という一言で言葉で片付けられる案件ではありません。いつまでもこんな状態でいるのは宜しくないのです。


 早速部屋を探索してみると日記のような物が置いてあり中を調べると衝撃の事実が。

 どうやら、彼女は公爵家のご令嬢……つまり公爵令嬢で、とっても偉いんだそうです。原文のままだと自画自賛が過ぎて気持ち悪いナルシスト調になってしまう為、必要な情報だけ抜き出すことにします。


 この日記を見るにこの体の本来の持ち主は普段から権力を傘に好き勝手に行動していて、使用人にそれとなく注意されても『愚民には貴族の崇高な考えは分からない』という言葉を筆頭にした罵詈雑言が書かれています。しかも全然懲りてないどころか、よくみればやれムカつく使用人をクビにしてやっただの私が全て正しいだのと掛かれております。

 間違いなくこの体の持ち主は周りから嫌われている事でしょう。それに拍車を掛けるように見た目も可愛らしい外見ならまだしも目が釣り上がり意地悪そうな顔をしています。“性格は顔に現れます”という言葉を体現しているかのような見た目をしているのですからなお更です。


 さて、本来の体の持ち主は置いてとくとして私自身はどうなのかというと、健全な心には健全な肉体が宿る!という前時代的な教えを両親から受けていた私は、少しでも太ろうものなら精神が弛んでいる!と母親にスパルタダイエットを敢行させられたりしておりました。今の姿を母親が見ようものなら地獄すら生ぬるいダイエットという名の拷問が待ち構えていることでしょう。

 まぁ、親の方針は人それぞれなのでどれが良いだとか悪いだとかの判断は出来かねますが、ウチはそうだったんです!(他所は他所、ウチはウチを地で行く一家ですね。まぁ、そのお陰で健康的な体型を保っていられたのでしょうきっと。それが良いか悪いかは評論家にでも考えて貰いましょう)


 そんなつまらない事を思っていると、この館の主と思しきカリスマというかオーラを纏った美形の壮年男性と、その隣に立っていても見劣りしないであろう美人さんが。

 そしてそれらの血を引いているであろう美形の青年が現れました。これは私の勘ですが、恐らくこの体の血縁者……つまり家族なのではないでしょうか。

 でも鏡に写る今の自分の顔と比べてしまうと、似ても似つかない様子が見て取れるので状況証拠のみで推測しているだけですが……


「エリザベス!私の可愛い天使!無事でよかった!」


 エリザベス!この顔と体型で!

 そんな失礼な事を瞬間的に思った私に天罰が下ったかのようにカリスマ美形壮年こと推定お父様がおもいっきり私に抱きついてきました。

 抱きつく力が強すぎて本当に痛いです。メキメキと体から鳴ってはいけない音が響いています。思わず潰れた蛙のような声が漏れ出てしまいました。その様子を見た母親(仮)らしき人物がお父様(仮)の耳を引っ張って私から引き剥がしました。


「もう!エリオット!私のではなく“私達の”可愛い天使でしょ!間違えないで頂戴!」


「おお、すまない、エリザベータ!もちろん“私達の”可愛い天使だ!」


 え!そっち!?

 私を傷つけるくらい強く抱きしめたことに対しての注意じゃないの!?

 そんな様子を見かねてか、美形その2ことお兄様(暫定)が両親(推定)を嗜める。


「父上も母上もまだエリザベスが起きたばかりですよ。起き上がって無事な姿も見たことですから、後は主治医に任せましょう」


 そう言って二人を強制的に追い出すお兄様(仮)。父がエリオットで母がエリザベータで私がエリザベス。お兄様は不明……と。


「ふむ、ではお嬢様、検診を始めますよ」


 考え込んでいるとダンディなお医者様の言葉で意識が戻される。そして考える間もなく色々な質問や検査などを受けた後にお医者様は室内を出ていった。


 質問の内容から察するに、どうやら“私”は10歳らしい。そして怪我をした理由というのは廊下を歩いていたら廊下を転んで頭を打ち付けたらしい。原因はヒールの高さのようで、こんな事を言うと逆に分からないと言われるかもしれないけど“ジュリアナ東京”のお立ち台で立っていた人が履いてるようなとんでもない高さのヒールのせいだった。

 医者が現物を見せてくれたけど、ソールが低くてヒールが高い。

 軽く見積もってもヒールの高さが13cmを越えるような代物だ。身長……というか足型から察するに常時つま先立ちで立つレベルの靴だ。背丈にコンプレックスでもあるのだろうか?確かに検診の時に立ってみたけど、どうみてもチビデブな体型だったから、さもありなんと言った所かも。まぁ、嘆いても仕方がないことは流すけれども。


 ……話は脱線したけど、とにかく頭を打ち付けて一部の記憶が欠損しているという診断をされた。まぁ、当たり前だけどいきなり別人が入ってるなんて診断される訳ないものね。答えられない質問は分からないとか言うしかなかったのだけれども、とりあえずお兄様の名前以外は家族の名前は言えたようだ。

 ちなみにその後、その話を医者から言われたらしくお兄様はショックで寝込んだとか後で聞かされたけども知らんがな。ちなみにお兄様の名前はエドワードというらしい。


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 暫く安静にした後に軽い軟禁状態も解かれほぼ自由に動けるようになった。ある程度自由になったのは良いのだけれども、その間に感じた事は食事の量が以上に多い。朝からガッツリ肉、昼は揚げ物、3時にゴテゴテのスイーツ、夕食に油ものと肉のダブルパンチ……ではなく食後のデザートまで付くトリプルパンチ。

 そこで一番ショックだったのは、体が食事を覚えている事。私の意思とは無関係に食事を貪り食うのだ!


 何も考えずにボーッとしていると、いつのまにか皿がカラになっているのだ。恐怖以外の何物でもない。何とか強い意思を持って何度か我慢したことがあるけど、その度に両親から「具合が悪いの?」だとか「医者を呼ぼう!」とか騒がしくなる。

 食べないことがどれだけ異常事態なんだと問い詰めたいレベルである。しかも、じゃあ家族の食事はどうなのだというと普通。ちゃんとサラダや魚料理などがあり、特別脂っこいだとか肉まみれだとかそういうことはない。


 試しに聞いてみたところ「エリザベスがこれじゃなきゃヤダ!私餓死する!」とダダをこねた結果このような一人だけ特別なメニューになったらしい。エリザベスの好きな料理だけが並んだ悪夢のような食事メニューだ。

 毎日こんなものを食べていたらこのような体型になるのも頷ける。私は一人、自室で敗北感に項垂れていた。


 そんな時、ふと鏡を見る。私が始めて自分の今の身体を見た時の鏡だ。そこには相変わらずキツイ顔の子豚ちゃんがショボクレた顔をしている。じっと見つめていると、何となくだが、こいつパーツ悪くないんじゃね?と思うようになった。

 確かに父も母もその結晶たるお兄様もめちゃくちゃ美人だ。カッコいいし綺麗だし凄い(語彙力)。それらの血を引く私が一人だけオークのハズがない。遺伝子とは偉大なのだ!


 つまり痩せたら絶対に美人になれるという誰もが持ちたくても持てない約束手形を持っている状態である。なんて贅沢な……そう思った瞬間、痩せようと自然に思いました。


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 時が流れ、ダイエットを始めてから2ヶ月が経とうとしています。その間に行われた聞くも涙、語るも涙という地獄のような奮闘を繰り広げていた。なんといっても最大の敵はこの身体。少し動けば汗に塗れ足は動かなくなり息も絶え絶えに。

 急には動けないからゆっくりとウォーキングをしながらとんでもなく広い庭を散策し、部屋では見よう見まねでヨガのような事を行う。一回、メイドさんに見られて親を呼ばれた時は憤死するかと思いました。

 これだけ聞いていると少しずつ痩せるのか?と思いきや、最大の敵はやはりこの身体です。


 運動して疲れ果て頭がボーッとしてる時なんて最悪です。食事に呼ばれると身体が勝手に椅子に座り、手当たり次第に食べ物を食べ尽くします。その際、ほとんど噛まずに飲み込むように食物を取り皿を空にします。

 気づいたときには未だに感じる強烈な空腹と目の前に何も乗っていない皿だけが残されます。恐らく、前の身体の持ち主もこのように本能で食べ物を食べていたのでしょう。


 よく噛まないということはダイエットにとってやってはいけないことです。噛むという行為は脳の中にある満腹中枢を刺激します。満腹中枢が刺激されることでお腹いっぱいだと脳が認識する訳です。つまり噛まないで飲み込むとですね、食えるだけ食っちまう訳なんですよ。なので、最初の2ヶ月はこのクセを直すことだけに注意するだけで精一杯といった状況となりました。


------


 ダイエットを始めて4ヶ月も経つと、微妙にお腹が引っ込んだような気がします。運動の合間に家庭教師がこの世界の事を教えてくれるのですが、やはり全然知らない世界のようでした。というか魔法がある時点で私が知ってる世界ではないですね。


 魔法で痩せられないのか?と家庭教師に言った所“そのような魔法を編み出した人が居るならば、一生遊んで暮らせるお金を手に入れるか、権力者に飼い殺しにされるか、悪くて誘拐されて魔術の構成を奪われ殺されるでしょう”と言われた。なにそれ怖いんですけども。


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 ダイエットを始めて6ヶ月ほどした頃でしょうか。父親から婚約者を紹介すると言われました。何でも王家の第二王子とかいう身分の方でとても偉いんだそうです……って、王子!偉いに決まってるじゃないですか!というセルフツッコミをいれつつ、逃げ出したい気持ちを抑えながら王子を迎え撃ちます(誤字にあらず)。ゴテゴテの服を着せられ化粧も施されます。完全武装なので迎え撃つという言葉を使って問題ないでしょう。


 この歳で化粧ってのは私にはあまり縁が無かったことでしたから、新鮮であるのと同時に出来栄えに関して微妙と言わざる得ないというのが正直な感想でした。なにせ少し痩せてきた程度ですから、鼻で笑われるレベルです。しかも両親と兄のレベルの高さからすれば清水の舞台(両親組)と地面(私)くらいの高低差があることは明白です。


 なんて現実逃避をしている内に初顔合わせの時間となりました。広い部屋の中に居たのは金髪碧眼と王子の見本のような美貌の少し生意気そうな美形が居りました。そして挨拶をしようと前に出た瞬間こんなことを言い放ったのでした。


「お前が俺の婚約者だと?お前のような豚が?絶対俺はお前となんか結婚しないからな!」


 そう仰られた後に部屋を出ていってしまいました。唖然とする私、激怒する両親、真っ青な顔で謝罪するお付きの偉い人。三者三様でカオスな事になりながら、最悪の初顔合わせは終わりました。もちろん王子はその台詞を吐いた後にすぐに帰りましたとさ……



 ゆ゛る゛さ゛ん゛!!



 仮にも婚約者に言うような台詞とは到底思えません!ましてやダイエットのダの苦労も知らなそうな小僧(失礼)に暴言を吐かれる筋合いなんてありません!

 両親は婚約破棄だ!とか色々息巻いておりましたが、王家からの正式な謝罪等があり嫌々ながらも婚約を継続される事が決まりました。私としてもとても残念です。

 でもこれで気持ちが一つ決まりました。


「あのクソガキ……絶対痩せてギャフンと言わせてやる……」


 自然と口に出された呪詛のような言葉を糧にメラメラと暗い闘志が湧いてきました。明日から体力の関係上自ら封印していた高温反復浴でも始めようという決心をしました。


------


 王子との衝撃の出会いから数年、由緒正しいと言われるアリアンローズ学園という100年以上も前に設立された格式高い全寮制の学び舎に入学した。

 ここでは将来の国政を担う要人となる若い貴族の子供達が学ぶ一方、市井の優れた能力を持つ人間にも門戸を開いている。能力があると認められた場合は国に縛られることになるが、最高の環境で学ぶことを約束されるらしい。つまり授業料等のお金の掛かるものは全て国持ちということ。

 とはいえ、ほとんどは貴族の子供達が通う学校という認識で間違い無いらしい。


「……昔は親元を離れて生活してたけど、久しぶりだから緊張するわ……」


 そんな事を馬車から居りて校門の前で言ってると、王家の馬車が来た。そして一人の男が馬車から居りてきた。


 まぁ、話の流れ的に想像通りの人物がそこに居た。

 私の婚約者だ。あの一件以来、一度も会っていないが(手紙すらやりとりをしていない)あの憎たらしい顔は覚えている。

 あれから身体の方もシェイプアップに成功したし、これで一矢報いることが出来るのでは?という考えもよぎったが、顔を合わせた瞬間に罵詈雑言が出そうになる気がしたので王子とタイミングをズラして入ることにした。


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 入学式から1年経ち、今年で2年目となる。あれから何度か王子に会おうとしたがお付きの方を通して会おうとするが、何度か門前払いをされたのでその後ムカついて会うことを諦めた。そもそも男性と女性では学び舎も講義内容も違うので会おうと思わない限りなかなか会えない環境もその後押しをしている。婚約者なのにあの最悪の一件以来一度も会えていない。

 でも望まない婚約だったしそれも良いかと思って今では開き直っているくらいだ。憎しみの心もダイエットに役立ったと思えば犬に噛まれたと思って忘れる事にしたのだ。


「お姉さまぁ~、また感想を教えて下さい~」


 ボーッと昔のことを思い出していると、昔の私のように太っている女性が可愛くリボンでラッピングされた物を持って私の方へ走ってきたのだ。


「あら、エミリー嬢じゃない。どうしたの?」


「うふふ~、私クッキー焼いたのでお姉さまに食べてもらおうと思って~」


 そう言って可愛らしい笑顔を私に向けてくるエミリー嬢。

 彼女とは入学式の時に友達になった。性格が顔に出ると昔言ったような気がするけど、彼女は例外だった。遺伝なのかキツそうなツリ目にお嬢様特有のあのドリル頭(失礼)でぽっちゃり貫禄がある女性だった。その姿を見た瞬間、昔の私を思い出してすぐに仲良くなったのだ。


「うふふ、いつも美味しいクッキーありがとう」


「おねえさま~^^」


 未だに何で同級生なのにお姉さまと呼ばれているか不思議である。聞いたけど答えてくれないし。


-------


 更に1年が経ち卒業の時がやってきた。

 とうとう卒業を迎える段階に至っても婚約者こと第二王子とは一度も会えていない。むしろ既に会おうとしなかったのだから余計である。


「今日でこの学園で暮らすのも最後かぁ~」


「そうですわねお姉さま。ちょっとわたくし寂しい気分になってきましたわ……」


 隣にいるエミリー嬢とそんな事をひそひそと話している内に卒業式のプログラムが進み、最後に卒業生代表の言葉を第二王子が発表する事になった。そんな厳粛な空気の中、壇上に上がったあの失礼王子はとんでもない暴挙に出たのであった。


「さて、諸君。ご存知の通り私には婚約者が居る。だが私は真実の愛を見つけた!私はエリザベスとの婚約を破棄し“サクラ”と婚約する!とう!」


 突然、アホなことを言ったかと思うと壇上から一足飛びに飛び降り、その丁度近くに一般生徒と並んでいた一人の可憐な女性の腕を掴む。掴まれた女性はびっくりした顔をしていた。


 更に校内の生徒達は、ざっと私達を避けるように空間を空け、私と王子、そしてびっくりしている綺麗な顔の女性と哀れ、逃げ送れたエミリー嬢の4人が衆人環視の目に晒されることになった。エミリー嬢は緊張しすぎて目が普段よりも釣り上がっている。


 そんな混沌とした状況の中、王子は語り出す。


「エリザベス嬢!お前のような令嬢はどこを探しても居ないだろう。昔と全く変わっていないその姿!見間違いなどするものか!」


 ズビシ!という効果音が付きそうな勢いでこちらに指を向ける王子。私は怒りで憤死する一歩手前だ。

 そんな王子の横で困ったようにキョロキョロしだす可憐な女性。

 見た目は正統派ともいえる可憐な女性でこの地方では珍しいピンクブロンドの髪色でニキビ一つ無いツルツルの卵肌だ。プロポーションは少女らしい控えめなものだが将来化けるかもしれないポテンシャルを秘めている。


「何も言わないのか!エリザベス!

私の婚約者ともあろう者が見た目に気を使わないとは最低だ!ノブレスオブリージュとは義務だ!女であれば当然!見た目に気を使うことも必要最低限の貴族としての義務だ!ましてや相手たる私は王子だからな!努力するのは当然だろう!」


 さも当然のように人として最低な事を口走る王子。女生徒の半分以上が王子を白い目で見ている。指を指してる方向はこちらを向いているのだが、微妙に私から照準がズレているような気がする。あれ?おかしいな?と思っていると王子がどんどん近づいてきた。


「そういう訳で婚約は破棄させてもらうからなエリザベス!相変わらずそんなキツイ顔と体型しやがって!サクラ嬢を見るが良い!素晴らしいプロポーションだろう!貴族とはこうあるべきなのだ!お前には分からないだろう!えぇ!?」


 近づくに連れて疑惑は核心に変わる。こいつ……よりによって……


「言ってみろエリザベス!」


 バカ王子が指を指した先にいるのは私の隣に居たエミリー嬢だった。


 それを知覚した瞬間、私はキレた。


「こんのぉぉ馬鹿王子ぃ!!

エリザベスは私だよ!アンタからの婚約破棄、確かに承ってやるわ!!

証人はここにいる全員よ!!」


「な、なんだってぇぇぇぇぇ!!」


 王子は驚愕の表情を浮かべながら、慌てたように矢継ぎ早に台詞を吐く。


「こ、こんなプラチナブロンドの綺羅びやかな長髪に切れ長のセクシーな瞳、その珠のような素肌!伝説上のエルフと見紛うようなその姿!しかもプロポーションに至ってはボン・キュッ・ボンのわがままボディ!!そんなドストライクな女性が、あのチビでデブでツリ目のブサイクなエリザベスだってぇぇぇぇぇぇ!!」


「死ね!このクズ王子!!」


 我慢の限界に達した私はハイキックをお見舞いして王子を昏倒させた。



 余談にはなるが、このような醜態を晒した王子との婚約は正式に破棄され王子は幽閉。

 衆人環視の中、謂れのない罵倒で名誉を汚されたエミリー嬢は王家から莫大な慰謝料や領地を貰うこととなった。更に私の過去のダイエット経験を元にアドバイスをしたところ1年後に素敵な令嬢に変身を遂げ、素敵な男性と結ばれることとなった。

 どちらかと言えば元々太った状態でも可愛かったのだが、痩せて自分に自信がついた結果、素敵な出遭いをすることが出来たのだと推測される。ただ単に、ボロクソ言っていたあの王子の目が腐っているだけだ。

 そして無理やり王子に担ぎ上げられたサクラという女性はというと何故か私の専属のメイドになっていた。なんでも私が“タイプ”だったららしく一目惚れしたそうな。元々彼女は市井から学園に入ってきた口で元々優秀な人材であった。能力もさることながらヒロイン然とした姿に勝手に惚れた王子が付きまとっていたらしい。そして栄えある卒業式で勝手に暴走して自滅したという訳だ。哀れを通り越して痛々しい。まぁ、そんな失態の汚名を少しでも返上しようと王家が謝罪の一部として慰謝料とともに送られた優秀な人材、というのが彼女の事らしい。でも事ある毎に貞操を狙ってくるのは止めて欲しい。


「お姉さま~ん!今日も素敵ですぅ~!!」


「近いから!近いって!!ちょ、やめ……頬を舐めるな~!!」


 ダイエットは成功したけど、なんやかんや今日も忙しい一日が始まりそうです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 面白いのですが、顔文字をセリフに入れるのだけはやめて欲しかったです。顔文字が出てきた時点で一気に現実に引き戻されて興醒めしてしまいました。
[気になる点] 掛かれております →書かれております の誤記では?
[一言] 転生者と、純粋と、百合と、馬鹿王子
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