出会い
あなたは、ルームシェアというものに興味はあるだろうか。
友人と、知人と、あるいは見知らぬ他人と。同じ屋根の下で寝食を共にして暮らすことに、思いを馳せたことが。
もちろん不安もあるだろう。血のつながった家族とだって、うまく生活できない人は多い。
それでも、新しい出会い、そして新しい環境に、期待を抱く人は少なくないに違いない。私がそうであるように。
私の名前はアディル=ストレイス。この春、生まれ育った故郷を離れ、大学生活のかたわら、知らない人とルームシェアをすることになった。
理由としては、ちょっとした手違いで、学生寮に入れてもらえなかったからなのだけど。それ以上に、私は生来好奇心が強いタイプのようで、それならばと新しいことを始めてみることにしたのだ。
ルームシェアの相手は、大学の教授に紹介してもらった。私より年上の大柄な男性で、ガサツではあるが陽気で気のいい人だ、と。
私は異性に免疫のあるタイプではないので、男性というのはありがたい。同性であれば、ことさら気を遣うこともなさそうだ。教授の紹介ならば、特別問題のある人物ではないだろう。……おそらくは。
大学のそばの、少しさびれた喫茶店。今からここに、その人物が来ることになっている。
どんな人なのか。期待と不安がないまぜになって、心が浮ついて落ち着かない。気持ちを落ち着けようと口に含んだコーヒーの味さえ、あまりよく分からないくらいだ。どうやら、自分で思っている以上に緊張しているらしい。
そうしていると、特に前触れもなく扉が開いた。軽やかな鈴の音が鳴り響き、店の奥から、いらっしゃいませとやる気のない声がする。
今か今かと待っていた私は、自然とその客に視線を向けていた。その体格は大きく、なるほど女性ではなさそうだ。性格は分からないが、鍛えられた体を見るに活発な性質である可能性は高いだろう。だが、私の気を引いたのは、私が気になったのはそのどちらでもなかった。
彼はきょろきょろと店内を見回し。そして角の席に座っている私と目が合うと、ずんずんとこちらへ歩み寄った。そして。
「よお。あんたがアディルかい? ミーシャから聞いてると思うが、俺がお前の同居人。名前はバルツだ。よろしくな」
そう言って、私に向かって手を差し出した。私はあっけに取られて口をひらけず、恐る恐る彼の手を握った。
――確かに、教授は言っていた。彼は野性的で、少し犬っぽいところがある、と。
実際に見た彼は、確かに野性的な様相をしていて。そして、少し犬っぽい、どころの話ではなかった。
思わず、彼の顔をまじまじと見る。そこに私の知る、人間の頭部はなく、あるのは犬の顔そのものだ。ガッシリと握られた手は毛に覆われ、モフモフとした感触を伝えてくる。
一目見た時から分かっていたことではあるが……彼は、私の同居人は、人間ではなかった。
「じゅ……獣人だったのか……」
「およ、ミーシャのやつ言ってなかったのか。ああ、人身獣頭、正真正銘の獣人だ。見るのは初めてか? かっこいいもんだろ」
そう言うと、彼は犬の顔で不敵に笑って見せた。
それが、彼と私の初めての出会い。これは、私たちが共に過ごした、四年間の記録だ。




