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十九.

翌日の火曜日。学校の中では穏やかに時間が過ぎた。

学校から帰る道すがら、綿貫はおもむろに聖義にむかって言った。

「橋本さんは婚約者でしょう?でも恋人同士っていう雰囲気でもない。

微妙な緊張感がある。不思議ね」

綿貫は高校生でも、妖艶という言葉が似合った。

彼女の母親は、間宮美子によって創られた子供だった。

能力者のジーンバンクを利用して、下宮のチカラを持つ遺伝子を受精させて産ませた『作られた能力者』。

間宮美子が死ぬ前に子供達の行方が分からなくなったが、その生き残りの女性の子供であることがわかったのだ。

綿貫を産んだ母親は早くに他界し、幼少期は施設で育っていた。

その彼女をある人物・間宮義住が引き取り、二階堂に引き合わせたようだった。

綿貫の実年齢は、聖義よりも二歳も年上だった。

聖義は、綿貫と歩きながら思っていた。


——落ち着かない。


聖義は綿貫の言葉に黙っていると、綿貫は軽やかに、しかし脅すように言った。

「あくまでも護衛で私といるって感じね。

でも私が間宮家に協力しなかったらあなたも困るでしょう?

少しは気を遣って欲しいわ」

聖義は軽くため息をつくと、綿貫に言った。

「海は婚約者だ。でも、俺を好きな訳じゃない」

「へぇ・・・じゃあ、あなたはどうなの?

間宮家のためなら自分の意志に関係なく、決められた相手と結婚するんだ?」

綿貫の言葉を、聖義は肯定も否定もしなかった。

綿貫は、聖義の顔を見ながら笑った。

「間宮くんのご両親は、私とあなたを結婚させるかもしれないわよ」

「どうして」

「能力者の高い者同士が結婚したからって、子供の能力が高いわけではないわ。

むしろ近親婚は子供に悪影響があるかもしれない。

橋本さんと間宮くんは従兄妹同士でしょう?

しかも、一般的な従兄妹よりも血が濃いのだし」

綿貫は聖義の腕に軽く触れながら、続けて言った。

「私は橋本さんには及ばないけれども能力があるし、あなたとは直接的な血縁者ではないから、いい相手かもしれないわね」

聖義は、綿貫との関わりを避けるかのように黙っていた。

綿貫は続けて言った。

「私はそれでもいいわ。間宮くんは賢いし、家は安泰だし」

「綿貫は二階堂の味方じゃないのか?」

聖義はそう言うと、綿貫の手から自分の腕を離した。

綿貫は笑いながら言った。

「間宮家に復讐したいのはあいつだけ。私は自分がラクできればいいの。

間宮くんがしっかりしていれば、私は子供を産んで後は遊んで暮らせるしね」

綿貫には発作が起きないようだった。

彼女にとってチカラは単に便利なアイテムに過ぎない。

安易にチカラを利用する綿貫の言葉を、聖義は苦々しい気持ちで聞いていた。

しかし聖義は嫌なことを思いついていた。


ーー綿貫の意見を母親が聞いたら頷くかもしれない。


綿貫の意見には一理あった。

下宮の能力者も少なくなった今、海や香には下宮のチカラを継ぐ人間を増やす必要があった。

もちろん、聖義と海が結婚して複数の子供を持てばいいのだが、生まれる子供の人数が少なければ、下宮の能力者の数が増えない。

香が病弱な身体であることを考えたら、海に下宮家の跡継ぎを産ませることを考えた方が一族のためだと言われかねない。

聖義のチカラが強ければ、間宮の能力者を産む相手は、必ずしも下宮の能力者である必要はないのだ。

聖義は家に戻ると綿貫を玄関に残したまま、自分の部屋に入った。

そして自分に言い聞かせるように、軽く呟いた。

「海が好きだ」

聖義が自分の気持ちに気がついたのは、最近のことだった。

聖義が海を意識し始めたのは、高校の進路を決めるときに、母親に打診されたのがきっかけだった。

「海ちゃんと同じ高校に行ってもらえないかしら?」

義貴は間宮家の能力者の中でも、特に高い能力を持っていた。

そして、義貴の娘である海は一族の中でも注目されていた。

実際は舞の実子である海は、下宮家の強いチカラを持っていた。

しかし、あまりにも下宮の能力が高いと、海と聖義の出生の秘密が知られてしまうことから、舞は密かに海のチカラを封印していた。

そして、チカラを出すことのできない海を、義貴がずっと守っていた。

しかし海は成長とともにチカラが増していき、さらに、高校は義貴の職場から距離が遠くなるので義貴自身の負担も大きくなった。

そこで、舞の提案で二人を同じ高校に進学させた。

聖義は成績が良く、進学先に対するこだわりはなかった。

そうして、聖義は海と同じ高校に通うようになった。

義貴のことを尊敬していた聖義は、高校に入った当初、義貴の愛情を一身に受ける海を妬ましかった。

しかし、幼い頃から家事をこなし、自分の状況に不満を言わない海を見るにつれ、聖義は海に惹かれていった。

聖義が間宮家に対する不満を燻らせたときも、海がいると思うだけで気持ちが穏やかになった。

聖義は自分の気持ちを自覚した。


ーー今の自分が平静でいられるのは、海がいるからだ。


聖義は婚約者である自分の立場を利用して、海を自分のものにしたいと何度も思った。

発作を起こした日の翌朝も、海に請われてを押し倒したときも。

たとえ母親や香に知られても、海が傷ついても抱いてしまいたかった。

婚約者である聖義が海を抱いても、非難される理由はなかったからだ。

しかし海の笑顔を思い浮かべると、今の二人の関係を壊したくないと思った。

自分のこの感情は、海の持つチカラのせいなのか、それとも海の人柄なのか、聖義には分からなかった。

そんな葛藤の中、今まで聖義は平静でいられたのは、いずれ海は自分と結婚するのだと言い聞かせたからだった。

聖義はぼんやりと自分の手を見つめながら思った。


ーーもし間宮家から、別の結婚相手を指名されたら、俺はどうするのだろう。


発作を起こした翌朝、聖義は海の手を離したくないと本気で思った。

その時、玄関に海の気配を感じた。


海が間宮家の玄関に立つと、舞が出迎えた。

舞は昨日とは打って変わって、いつもの優しい伯母の表情に戻っていた。

海は緊張のあまり少し声を震わせながら、言った。

「私、昨日は言い過ぎました。ごめんなさい」

頭を下げる海を、舞は少し困ったような表情で見ていた。

「私こそごめんなさいね。海ちゃんを困らせているのは分かっているの。

それよりも、私は海ちゃんが聖義を心配してくれたことが、すごく嬉しかった」

「えっ?」

海は顔を上げた。

「海ちゃんの聖義を想う気持ちは、聖義を強くする。

だから、海ちゃんには聖義のそばにいてほしい」

舞の言葉に、海はどう返答してよいのか困っていた。

舞はいつものように微笑んだ。

「あがってちょうだい。お茶でも飲んで行って?」

「いえ。夕飯の買い物をしないといけないので、これで失礼します」

海が応えた時、舞の背後から聖義が現れた。

さっきまで同じ教室にいたはずだったが、学校で見た聖義は難しい顔をして黙ったままだったので、会った気がしなかった。

「聖義」

海が話しかけると、聖義は無表情のまま言った。

「海を家まで送る。いいだろう?」

聖義の言葉は、舞に向けて言ったものだった。

舞は渋い顔をした。

「海ちゃんには送迎をつけているわ。聖義は家にいなさい」

「大丈夫。二階堂のチカラは俺より弱い。海、行こう」

聖義は海の腕を掴むと、表に出た。

「どうしたの?」

聖義はいつになく荒れていた。

海が尋ねても応えず、黙って歩いた。

「ねぇ、送迎の人が待っているから」

海が言うと、聖義は送迎の車に近づき、自分が海を送ることを告げた。

車は静かに発車すると、聖義は海の腕を掴んだまま、黙って門まで歩いた。

「聖義?」

聖義は家の門を出たところで、海の腕を離した。

そして聖義は海を見ながら尋ねた。

「車で来たのに、家に来るのは俺よりも遅かったな」

「うん。朝は裏門なら人が少ないから目立たずに降りられるけど、帰りは部活動の生徒がいるから裏門でも人が多くて。

だから時間をおいて、学校を出ているの」

海は言葉を切って、そして続けた。

「綿貫さんはどのくらいチカラを持っているの?」

海の問いを、聖義は不思議な気持ちで聞いた。

「綿貫の持つ下宮のチカラはそれほど強くない。

その代わりに、人の感情を利用しているらしい。

例えば・・・山崎が海を好きなのは本当だ。

山崎の気持ちを使って海に近づけさせたり、俺への嫉妬心を利用して俺を襲わせたりする。

美術準備室で海を襲った二人は、綿貫に好意を持っている奴ららしい。

自分に好意を持っている人間は操りやすいそうだ」

聖義は淡々と話していたが、海は聖義の話す内容に驚いていた。

海は人の気持ちを読むことはできたが、操ることをしたことがなかったからだ。

海は感心しながら言った。

「そう。すごいね」

「お前にだってできる。綿貫よりも、海のチカラのほうがずっと強い。

チカラで彼女の素性を読めたのがその証拠だ。

今までする必要がないからしないだけだろう?」

聖義はなぐさめるように言ったが、海は首を横に振って応えた。

「自分のチカラを理解して、応用しているのがすごい」

「いや、誰かに習ったらしい」

「誰に?」

「わからないけど」

海の問いに聖義は応えられなかった。

母親から聞いたところによれば、綿貫と二階堂の背後には聖義らの大伯父である義住がいた。

義住と義彦は表向きこそ遠縁だが、義彦の実母である夕は、義住の実子だという噂があった。

そして夕は義貴の母親の美子に殺されたも同然だったことから、この経緯を義彦が知れば、間宮家に恨みを持つ可能性があった。

それを海に話すことを、聖義は躊躇った。

海は、そんな聖義に少し苛立ちを感じた。

そして、怒りの感情を込めて聖義に言った。

「私が聖義と結婚して間宮家に入ったとして、私に何ができるんだろう?」

「どういうこと?」

「チカラを持つ子供を産むだけなら、例えば綿貫さんにもできるんじゃない?」

海の言葉に聖義は驚いていた。

そして海は自分でも信じられない事を言った。

「聖義が間宮家を継ぐのに、私は必要じゃない」

その直後、海は兄と二階堂の気配を感じた。

家にほど近いビルの裏手。

家までまだ距離があるので、聖義には二階堂の気配を感じられなかった。

しかし海には二人の気配がはっきりと分かった。


ーーお兄ちゃんが、あの人に会っている。


海は聖義に向き直ると、慌てて言った。

「聖義。ここでいい。私は大丈夫だから。もう帰って」

海は聖義から離れると、家に向かって走り出した。


義彦は学校から帰る途中で、二階堂が後をつけていることに気がついた。

義彦にも間宮家の護衛がついていたが、義彦はそれらを振り切り、二階堂をビルの裏手に誘い込むと、二階堂に向き合った。

二階堂が姿を現したところで、義彦は言った。

「もう復讐劇はやめろ。俺は間宮家を継ぐつもりはない」

間宮の追っ手から逃れている二階堂は、少しやつれた表情で言った。

「それは困るな」

「海や聖義に危害を加えるな。そんなことをしても俺は気持ちを変えない」

「今の間宮家の体質を変えなければ周りの人間を不幸にする。

例えば橋本姫呼さんだ。彼女が間宮樹に何をされたか知っているのか?」

二階堂の言葉に義彦は意外な事を言った。

「知らない。だが俺はお前の母親の事を覚えている。

お前の母親とひーこの関係をお前は知っているのか?」

義彦の言葉に二階堂は言葉を詰まらせた。

しかしすぐに向き直ると言った。

「何を言っているのか分からないな」

「俺がまだ小さい頃、お前の母親の二階堂みつきは間宮の施設から抜け出して、親父の家へ逃げこんできた。

でも親父は留守だった。

その時、ひーこが代わりにお前の母親をかくまった。

ひーこはお前の母親を追ってきた男に首を絞められて死にかけた。

追ってきた男は彼女の恋人、つまりお前の親父なんじゃないか?

ひーこは親父がひーこの異変に気がついて対応したから助かったけど、そうでなければ死んでいた。

俺に不幸を生み出すのは、間宮家だけじゃない」

二階堂は驚愕した表情で義彦を見ていたが、自分を取り戻して言った。

「うそだ」

「嘘じゃない」

義彦はそう言うと、自分の鞄からオフィサーナイフを取り出した。

元々は義貴の遺品から見つけた物だったが、海が襲われたことを聞いて以来、護身用として持っていた。

義彦は自分自身でも取り出すつもりではなかったが、ナイフの刃を開いた途端、自分の中の何かが崩れた気がして言った。

「海や聖義に危害を加えるのはやめろ。

お前は間宮家から離れて好きに暮らせばいいだろう。

これ以上二人に何かするならば、俺は俺自身を人質に取る」

義彦は自分の首にナイフを当てた。

その姿を見た二階堂は呟いた。

「やめろ」

義彦は青ざめた表情で言った。

「うんざりなんだよ、もう」

義彦は死ぬつもりはなかった反面、このまま消えてしまいたいと考えてもいた。


——ひーこや親父のところに行くのも、悪くないな。


義彦がそう思ってナイフを動かそうとしたその時、暗闇から音もなく舞が現れた。

舞はナイフを持っていた義彦の腕に掴みかかった。

義彦は驚きのあまり、反射的に自分の手を動かしてしまった。

そして、ナイフの刃先は舞の左手の中でスライドした。

舞は義彦からナイフを取り上げると、ナイフを持ったまま座り込んだ。

海と聖義を心配した舞は、車で二人の後をつけていたのだ。

そうしている間に舞は海よりも先に、チカラで義彦と二階堂の様子を知ってとっさに駆けつけた。舞は間宮家の跡継ぎ候補である義彦を警戒していた。

しかし、義彦がナイフを持っているのを見た瞬間、思った。


——やめて。


ひーこも義貴も死んで、舞はもう誰も失いたくなかった。

義彦は今でこそ立派な大人だが、舞は幼い義彦を鮮明に覚えていた。

「母親に似ている」といってなついてきた義彦を思い出した途端、舞の身体は反射的に動いた。


義彦は呆然とした表情で舞を見下ろすと、小さな声で呟いた。

「舞さん・・・どうして」

義彦と舞の背後から海の声が聞こえた。

「おばさま」

その声で、義彦は我に返った。

「海、リボンを借りる」

義彦はそう言うと、海の襟元のリボンをほどき、舞の左手を縛った。

舞は顔をあげて二階堂を見た。

二階堂は呆然と舞の様子を見ていたが、突然その場に倒れ込んだ。

「えっ?」

海は驚いて声をあげると、二階堂の背後に聖義の姿が見えた。

二階堂の隙をついて、聖義が気絶させたのだった。

二階堂を抱えた聖義は、母親を見た。

「母さん」

「私は大丈夫。聖義、彼を会社まで連れて行って。

チカラをシールドできる部屋があるから」

ほどなく間宮家の警備員が現れ、二階堂を抱えると車に乗せた。

義彦は舞の手に自分の手を翳すと、冷静な声で舞に尋ねた。

「舞さん。神経を繋ぎます」

義彦は傷を治すチカラがあった。

舞は、右手で義彦の手を押さえた。

「私は大丈夫。二人とも、家に戻りなさい」

舞はそう言ったが、海は引かなかった。

「おばさま・・・私、病院までついていきます」

「でも」

「聖義のかわりに・・・いいでしょう?聖義」

海は聖義の顔を見上げた。

「頼む。治療が終わったら電話くれるか?」

聖義の言葉に海は黙って頷いた。

実際は間宮の警備員が母親に付き添うので連絡がつくのだが、聖義は海の気持ちに配慮したのだった。

義彦はチカラで舞の怪我の止血を終えると言った。

「俺も行きます。舞さんに怪我をさせたのは俺のせいだから」

舞は躊躇しながら、それでも不思議と嬉しそうな表情になった。

舞は、自分を心配そうに見つめる兄妹を愛おしいと思ったのだ。


暗い病室の中で、舞は頬に触れる手を感じて目を開けた。

その人物を見た舞は、自分から声をかけた。

「樹」

舞は結婚して以来、夫のことをそう呼んでいた。

樹は優しいまなざしで妻を見ながら言った。

「気分はどうだ?」

舞は義貴の勤めていた病院に入院することになった。

そして樹が舞の病室を訪れた時には、夜の十二時を回っていた。

面会時間はとうに過ぎていたが、間宮家が病院に出資していることもあり、樹は難なく部屋に入ることができた。

舞は夫の表情を見て、微笑みながら尋ねた。

「大丈夫。それより二階堂は?」

「聖義が連れてきた彼か。裏に義住がいることをしゃべったよ」

「そう・・・。土曜日の会議は出席するから」

「無理をするな」

「大丈夫。神経は義彦くんがチカラで繋いでくれたし。

後は傷口がふさがってくれれば」

舞は久しぶりに夫と向き合って話をした気がした。

舞が思い出し笑いをすると、樹が不思議そうな顔をした。

「何だ、怪我のわりに嬉しそうだな?」

「ふふっ。海ちゃんがね、ずっとついていてくれたの」

海は舞の治療が終わり、面会時間ぎりぎりまで舞のそばにいた。

舞の入院が決まり、病室に入ってからも海は手際よく部屋を整えていた。

間宮家の家政婦もいたので海が手伝う必要はなかったのだが、舞は海の好きにさせた。

香はチカラで綿貫を監視するために家を出られないこともあり、海がいてくれるだけで舞は嬉しかった。

「そうか」

暗闇の中、樹は軽く笑った。

舞は夫に気遣って言った。

「もう遅いから、戻ってください」

しかし樹は平然と返した。

「眠るまで側にいるよ」

夫の思いがけない言葉に、舞は少し照れながら言った。

「なあに?優しいことを言って」

「いつも頑張っているから。少し休ませたいと思っていたところだ」

樹は忙しく、なかなか夫婦の間で会話はできなかったが、それでも樹は舞に優しかった。

「怪我も悪くないわね」

舞はそう言うと目を閉じた。

樹は黙って舞の様子を見ていたが、言葉を選びながら口を開いた。

「前から思っていたことがある。義貴は海を間宮家から解放させるつもりだったんじゃないかって」

「・・・どういうこと・・」

舞は目を閉じたまま訊いた。

「聖義と海の婚約を解消しよう。聖義にチカラがあれば、海が間宮家に入る必要はない。

下宮の後継者には香がいる。だったら海は自由にしたい・・・お前の代わりに」

「私・・の・・・?」

舞は樹の言うことを聞いていたが、痛み止めが効いていたこともありすぐに眠ってしまった。

樹は舞の意識がなくなったことを知りながらも話を続けた。

「だから義貴は子供の交換を了承した気がする・・・義貴とひーこの間に男子が生まれても、年頃になったら間宮の養子にすれば良かったんだ。

あえて子供を交換しなくても良かったんだよ、舞」

樹は眠る妻にキスをした。

穏やかな寝顔の舞を見て、樹は軽く笑って言った。

「聖義は納得しないだろうけどな・・・あいつは海が好きだから」

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