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どんなのがいいの?

「何にやにやしてるの?」


 嬉しそうに携帯画面を覗き込んでいる友人に声をかける。

 彼女は、ぱっと振り返ると、緩みきった頬のまま返事を寄越した。


「デートの約束。日曜日、前から約束してた水族館に行くの」


 なるほど。惚気られてしまった。

 この友人は、仲良し6人組の3分の2を占める、彼氏持ち組だ。

 そして3分の1となる彼氏なし組は、私を含め、たったの2人。

 とはいえ、唯一の仲間である人物は、大変おモテになるがために、相手を選びかねているだけのこと。私とはずいぶん状況が異なる。

 まずい。おちおちしていると、売れ残りになってしまうではないか。

 彼女たちが、同グループで唯一のさみしんぼとして私をハブにするような奴らではないとは信じているが、集団惚気攻撃くらいならやりかねない。そうなったら、さすがに心にダメージが――。

 よし、早急に彼氏を作らなくては。


「あー、彼氏欲しい!」

「あんたはいるでしょ、とびっきりのが」

「うっわ!」


 誰かと思えば、どれでも選び放題という羨ましい立場にいらっしゃる、現彼氏なし組のさやか嬢ではないか。

 ぴしりと彼女が指差したその先は、当然のことながら幼馴染の、あ奴の姿が。

 いつの間にやらいつものメンバーが全員集合して、頷き合っている。

 いやね、だからそうではなくて。


「ですからね、あれは幼馴染なのであって――」

「いやぁ、レベル高くて羨ましいよ」

「ま、私が愛するのは暁くんただ一人だけどね!」 

「どっちにしろ、あの男の相手が出来るのはあんたしかいないしね」


 ひ、人の話を聞け!

 私の友人はどうして皆、揃って人の聞く耳を持たないのだろう……。

 こうして今日もまた、私の主張は無視されていく――。




「相沢さん」


 下校時刻、教室を出たところで声をかけられた。

 見たことのあるような、でも名前は知らないその男子に「ちょっと聞きたい事があるんだけど」と前置きされて、一体何だと軽く眉をしかめた。


「相沢さんって柴田司と付き合ってるの?」


 おやおや?

 とうとう女子だけでは飽き足らず、男子にまで及ぶこととなってしまったのか。

 末恐ろしい、司シンパたちよ。


 私はよっぽど険しい顔で、うんうんと唸っていたらしい。

 「大丈夫?」と声を掛けてきた彼の顔は、可哀想なくらい引き攣っていた。


「ごめんね、もしかして気分悪くした?」

「へ? あ、ううん。えっと司ね、司。私と司は付き合――」「もちろん付き合ってないよ」


 出た! この神出鬼没男。

 そして、出た! 爽やか悩殺スマイル。

 男子相手に悩殺してどうするんだっつーの。


「……あっ、そうなんだ! うん、変なこと聞いてごめんね! じゃ、また――」

「うん、まったねぇー」


 早口で謝りを口にした、名前もわからぬその男子が慌てて去っていく姿を、満面の笑顔で見送る司。

 何だろう、司の背中に黒い何かが見える気がする。今度、眼科に行くべきか?

 そう思って軽く目を擦っていると、司が私の顔を覗き込んだ。 


「メグさぁ。さっき、また教室で彼氏欲しいって叫んでたでしょ」


 どきり。

 教室の端と端にいたっていうのに、どんだけ地獄耳なんだ、どんだけ!

 

「どんなのがいいの、彼氏」

「どんなのって――別に」

「じゃあ、体重が100キロで、禿げてて、油ギッシュで、眉毛が繋がってて、変な尻尾が――」

「こらこらこら! どんなんだ、ソレ?」


 それ一体どんな男子よ!?

 いや、男子とかの以前に、人間なのかも怪しいでしょうが。

 ぎろっと司を睨むと、にこりと涼しい笑顔を返された。

 ちくしょう。相変わらずの美しさに、思わず見入ってしまったではないか。 

 慌てて首を左右に揺すると、司の笑みが深くなった。


「で?」

「――と言いますと?」

「だから、どんな人がいいの? 彼氏になるやつは」

「うーーん……」

 

 あまり具体的に考えたことがなかったため、とっさに思いつかず、しばし考え込む。

 特にコレっていうのは、ないんだけど。

 司が『はよ言えや』ってな顔をしているもんだから、先日さやか嬢が挙げていた条件を、そっくりそのまま使わせていただくことにした。


「えー、身長が175cm以上で。スポーツやってて……勉強はそこそこで」

「ふんふん」

「目は二重か奥二重、年下はアウト」


 意外と覚えてるもんだ。まあ何回も聞かされてるってのもあるけど。

 しかしコレ、改めて考えると凄い条件じゃないだろうか。

 まあ、さやか嬢なら許されるかもしれないが、私が言うのはどうよ?

 司も相当呆れているに違いない。

 そう思って、ちろりと視線を送る。

 しかし司は「ん?」と首を傾け、こちらをじっと見つめたままだ。


「もう、おしまい?」

「あ、えっと確か、爽やかで笑顔がステキな人。それから優しい」

「――なるほど」 


 そう言うと、司はまるで私の言葉を反芻するかのように、小さな声でブツブツと言葉を繰り返している。

『おまえ、どんだけ贅沢なこと言ってるんだよ』なんて言われて馬鹿にされるか、もしくは笑い飛ばされるかと思ったのだが、特にそんな様子もない(そう言われたら、正直にさやか嬢の話をするつもりだった)。

 しばらくすると、司は私の頭に手を伸ばし、今朝早起きして丁寧にセットしたふんわり内巻きの髪をくしゃくしゃにしやがった!


「ちょっと、司! あんたねぇ――」 

「ていうか、それって俺じゃん」

「は? 何が?」


 顔をしかめて頭の上の手を払いのける私を面白そうに眺め、司は振り払われたその腕をまっすぐ正面に突き出した。

 そして指折り数え始める。


「身長179cmでサッカー部所属、今回の期末は学年13位」

「……はい?」

「切れ長二重の高校2年生。ちなみに誕生日は4月、おまえ11月だよな?」


 はい。そうそう、その通り。

 さすが幼馴染、よくご存じで――て、そうでなく!


「男は女性に優しくあれ、がうちの親の教え。爽やかな笑顔してみるから、合否はメグが判断して」


 言ったが早いか、さやか嬢もノックダウンの天使の微笑みをしてみせた。

 爽やかとか、ステキとか、もうそういった枠を飛び越えて、神々しいんだよ、司の笑みは!

 ついつい拝んでいると、「ほーらね」と嬉しそうに頬を突いてきた。

 いや、ですからね、司君。

 あれだけ幼馴染アピールしといて、いったい己は何がしたいんだ? 

 全く、ふざけた真似を!


「残念でした、不合格! 欠点、赤点、留年、落第っ!」


 したり顔をして、思いつく限りのアウトワードを並べ立てると、べしりと司の頭を叩いてやった。

 そして床に転がっていた学生鞄を拾い上げ、大股で下駄箱へと向かう。

 背後で笑いをかみ殺すような声が聞こえたのは気のせいということにしよう。

 うん、気のせいだ。 

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