表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

序章

序章 「災難」


古本屋巡りを終え、帰路についていた。

収穫はあったが、たった一冊だけだ。

店の用意する紙袋に入れられた本は、今は背に担いバッグの中にある。

直ぐ側の路地を曲がり、人気のない場所を通る。

自宅方面への電車に乗る駅へ行くには、ここを通った方が近道なのだ。

ふと、前方に数人の人影があった。

何か一点に集中しているように見えるのは気のせいではないようだ。確かに、そこにも人影があるからだ。

ただ、中央の人影は周りの人間とは雰囲気が違った。

今までと変わらない歩行速度で進む。

少しずつ人影がはっきり見えてきた。

周囲にいるのがチンピラと形容できそうな男達で、囲まれているのは小柄な少女だった。

(およ……?)

何故あんな構図になったのだろうと考えながら、更に近付いていく。

人の顔がはっきりと判る場所にまで近付いていくと、今度は声まで聞こえてきた。

(まずいとこに出くわしたなぁ)

こういう場所を通り抜けるのはとてつもなく気まずいものだ。

速度を落とし、状況を良く観察する。

男達は全部で四人。そのどれもが、薄ら笑いを浮かべており、気色悪い。

対して、少女。美人と言うよりは可愛いタイプの少女だ。背はやや低く、細身の身体が華奢そうに見えるのは気のせいではないように思う。

少女は、怯えたような目で周囲の男達四人を見て、時たま首を横に振っていた。

あからさまに、少女はからまれているのだ。

(助けてやりたいな……)

好みのタイプではある。

――けど、世界はそんなに甘くはないんだよな。

一人納得しつつ、丁度男達の背後を通り抜ける。

「さぁ、行こうぜ…!」

男達の声と共に、か細い、きゃ、と言う悲鳴が重なった。

少女の腕を誰かが引っ張ったのだ。が、引っ張ったために、男が一歩後ろに下がった。

と、丁度真後ろに来ていたために、その肩が触れた。

直後、

「なんだぁ、てめぇ?」

その男は振り向くと同時に胸倉を掴み、顔を近づけて威嚇して来た。

完全なとばっちり、である。

歯並びが悪い、歯にやにがついていて、更に口も臭い。まず、煙草や飲酒はしているだろう。

一発ぐらいぶん殴ってやりたいところだ。

「すいませんごめんなさい!」

考えとは裏腹に口では謝っている。

保身は大事だし、無駄な争いは避けたい。

「うるせぇ!」

突き飛ばされたのに、踏みとどまると、男達の注目がこちらに集まっていた。

踏みとどまれるという、今の力加減からして、そんなに腕力はないと判断した。

「…正当防衛、だな」

溜め息混じりに呟き、バッグをさっと下ろし、その辺の地面に転がっていた壊れたパイプ椅子を掴む。

運動神経が良いとは言えないと思うが、麻薬等のせいで身体が脆くなっている人間相手ならば何とかなるかもしれない。

息を吸い込み、パイプ椅子を横に大きく振りかぶると、殴りかかってきたのだろう男に叩きつけた。

その時に見えた男の腕は細く、麻薬でもやっていたのだろうと思わせた。そのせいか、男はあっけなくパイプ椅子の直撃を喰らった。

悲鳴を上げて倒れる男を踏み付け、一歩前に出ると、近くにいる男を、腕を返すように薙いで、パイプ椅子を叩き付けて張り倒す。

奇声を挙げながら突っ込んでくる奴にパイプ椅子を叩き付け、背後に回っていた最後の一人を、振り向き様にパイプ椅子を投げ付けて押し倒した。

起き上がろうとしている一人目の腹を三度蹴飛ばし、既に起き上がっている二人目の鳩尾に膝蹴りを突き入れる。起き上がろうと、四つん這いになっている三人目の首を横から蹴飛ばし、転がったところを踏み付けて黙らせた。

四人目は既に立ち上がり、パイプ椅子を持って突っ込んできた。

――投げるべきじゃなかったか。

舌打ちするが、相手の振りかぶり方から動きを予測し、攻撃の来ない方向へ回り込む。

ガツッと音がして、道路に椅子がぶつかり、外したせいで前にバランスを崩した男の背中に肘打ち。

倒れたところを、男の手から離れたパイプ椅子を叩き付けて追い撃ちをかける。

追い撃ちをかけて、完全に戦闘不能にしておかなければ、背を向けた時に不意打ちを喰らう可能性が高い。特にこういう莫迦な連中は何をしでかすか解らないからだ。

「ふぅ」

と一息ついて、額の汗を拭うと、先程降ろしたバッグを取りに行く。

バッグを拾い上げ、肩に提げると、視線を感じた。

見ると、驚いたのか、目を丸く見開いた少女がこちらを見ている。

「……大丈夫?」

視線に耐え切れず、声を掛けた。

「あ…は、はい」

「起きる前に行った方が良いよ?」

そう言って歩き出すと、少女が着いてきた。

向かう方角が同じだったのだろう。

――この道はもう通れないかな…?

結構気に入っていたルートなのだが、待ち伏せでもされたら堪ったものではない。

少し遠回りだが、次からは別のルートを通らなければならないとなると、溜め息が漏れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ