義妹の身代わりに鞭打たれ続けた私ですが、スキル反転で冷徹公爵と婚約して溺愛されています
また、私がレナリアの身代わりで鞭を打たれるのですね……。
十七歳の公爵令嬢アリア・ローゼンタールは、背中に走る激痛に唇を噛みしめた。
「アリアお姉様、本当にごめんなさい……私が至らないばかりに……」
一つ年下の義妹レナリアは私の隣で、申し訳なさそうに頭を下げながら、涙声で謝罪を繰り返す。しかしその口元には、隠しきれない薄い笑みが浮かんでいた。
いつものことだ。
母が亡くなってしばらくした頃、お屋敷に父の子だというレナリアが現れた。
私とは何もかも違う。整った顔立ちに、豊かな体つき。性格も明るくて、物おじなんてしない。
最初は可愛い妹が出来て嬉しかったのもつかの間のことだった。
この日以来、私の日常は一変した。
レナリアの食事の作法が悪いと、私の夕食が取り上げられた。
レナリアがお皿を割ると私が注意を受けた。
レナリアが悪口を言うと私が叱責された。
レナリアが嘘をつくと私が殴られた。
レナリアが銀の髪飾りをくすねたら、私の宝石が全部取りあげられた。
いつしか、私は何かあるたびに、鞭でぶたれるようになっていた。
「アリアお姉さま。すいません。私が可愛いばかりに、殿方から言い寄られてしまったのです」
この日、私は王太子様に色目を使ったと、学園中の女子生徒から吊し上げられた。
学園は退学処分となり、いつもより激しい鞭打ちを受けているのだ。
こうして私は公爵家にいながらひとりぼっちになった。
そんなある日、隣接する帝国の大公爵家から結婚の話が舞い込んだ。ローゼンタール公爵家の長女レナリアを正室に迎えたいとのことである。
お相手は、先の大戦で数々の武功をあげられた長男のラインハルト様。その美しい顔立ちとクールなたたずまいから、冷徹侯爵として名高いお方。
一目お姿を拝見したときから、苦しい思いを心の奥に無理やり押し込めてきた初恋の方。
私は一晩中泣きはらした後、付き添い役としてレナリアの輿入れに同行した。
帝国宮殿での婚約儀式の数日後、事件は起きた。
レナリアが帝国の重臣や他国使者を招いた茶会のことである。
いささか露出が高いドレスを身にまとったレナリアが、身分の高そうな殿方を見つけては親し気にボディータッチを繰り返すのに、さる貴婦人がやんわりと注意したのだが、レナリアは、反省するどころか私を指差し、高らかに言い放った。
「申し訳ありませんわ。すべては私の付き人であるアリアお姉さまの教育が至らなかったからですの。この者は側室の子というだけあって出来損ないで、頭も悪く容姿も地味、鞭で叩いても言うことを聞かないんですのよ」
この言葉に、場に居合わせた者は驚いて顔を見合わせた。レナリアの言葉はいつものこと。私には貴族たちの驚いた顔の方が不思議だった。しかし得意の絶頂にいるレナリアは得意げに言葉を続けた。
「先日も私が他国の使者様に『小国の貴族など帝国の靴を舐めても足りませんわ』と冗談を言っただけなのに、この者が慌ててフォローしたせいで空気が悪くなったんですの。本当に、こんな下賤で役立たずな姉がいるせいで、私まで迷惑を被るんですわ」
その場にいた全員が凍りついた。
重臣たちの顔が引きつり、他国からの使者の表情が露骨に怒りに染まる。
「そうそう。お姉さまはいつもそうでした。私に食事の作法も教えてくれないだけじゃなく、お皿を落とすと割れることまで教えてくれなくて。悪口を言ったり、嘘をついたり、極めつけは銀の髪飾りを勝手にとることが悪いことすら教えてくれなかったのですから」
誰もが言葉を失っていた。
この場は完全に凍り付いていた。
ほんの数秒、しかし永遠にも感じられる沈黙の中、ラインハルト様が現れた。
しかも婚約者のレナリアではなく、私の方にゆっくりと歩み寄ってこられた。
「この傷は、これまで何十回と繰り返されてきた、身代わりの代償か?」
彼は私の顎を優しく持ち上げ、私の首筋に残る鞭痕を皆の前で晒すと、冷たい視線をレナリアに向けた。
「帝国の諜報部に命じて、徹底的に調べさせた。アリア・ローゼンタールがどれだけ優秀で、どれだけお前の失敗を背負わされてきたか……全部の把握が終わったところだ。もちろんお前が幼い頃から『身代わりのスキル』の存在を知りながら、意図的にアリアを利用し続けてきたこともな」
「そ、そんな……違います。私を信じてください。悪いのは全てあの女なんです!」
逆上して私を指さすレナリア。
そんな彼女をラインハルトさまは、氷の表情で見据えた。
「お前にひとつ教えてやろう。この広間はお前のスキルを防ぐ結界が貼り廻らされてある。反転するようにな」
そしてラインハルトは、真っ青な顔で震えるレナリアを無視するかのように私の手を取り、皆の前で高らかに宣言した。
「ここに、レナリア・ローゼンタールとの婚約を破棄し、正室をアリア・ローゼンタールとする」
その瞬間、私の体がふっと軽くなった気がした。対してレナリアは、全身に無数の鞭痕を浮かび上がらせ、泡を吹いて痙攣しながらその場で失神した。
私の傷跡、そしてすべての痛み、屈辱、疲労、絶望が、一気にレナリアへと返ったのだ。
「アリア。初めてお前を見た瞬間、私は決めた。お前はただの付き人などではない。どんな武官よりも忍耐強く、どんな貴族令嬢よりも誠実で、誰よりも美しい心を持っている。そんなお前を、ただの道具として終わらせるなど、絶対に許せなかった。私に必要なのは、お前だけだ」
ラインハルトさまは、皆の見ている前で、深い熱いキスを落とした。
「愛している。これからは、誰にもお前を傷つけさせない。二度と」
「ラインハルトさま、どうして私なんかが……」
まるで夢見心地な私の手を取ってささやいた。
「私は、ローゼンタール公爵家の長女を正室に迎えたいと申し入れたたずだったのだが」
婚約から二年後。
部屋から見える花園には、色とりどりの花が美しく咲き乱れていた。
「アリア、愛している」
「私もです。ラインハルトさま」
私はもう、誰かの身代わりでもひとりでもない。
ラインハルトさまがおそるおそるなでてくれる私のお腹には、元気な命が宿っているのだから。
――おしまい――
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