第5話 刺客ラッシュ
最初に壊れたのは、時間感覚だった。
何人倒したのか、もう分からない。
炎を放ち、雷が走り、血と灰が地下に積もっていく。
だが――
終わらない。
「ちっ……」
俺は息を吐いた。
炎はまだ出る。無限だ。
だが、体は有限だった。
「次、来る」
トウマの声は冷静だったが、雷の密度が上がっている。
能力の負荷は、確実に溜まっている。
地下通路の奥、六つの影。
「今度は……」
俺は目を細めた。
先頭に立つ女。
全身に水の膜を纏っている。
「静岡王国。水圧操作」
次。
巨大な盾を背負った男。
「埼玉王国。防御特化か」
さらに――
音が、ない。
「……兵庫。音殺し」
その瞬間、世界から音が消えた。
爆発音も、雷鳴も、心臓の鼓動も。
「まずい!」
叫んだはずだが、声は届かない。
水が来る。
圧縮された水刃。炎を切り裂く。
「活性――」
思考だけで炎を展開。
だが、燃えない。
水が炎を“押し潰す”。
「くそっ……!」
盾の男が突っ込んでくる。
物理。真正面。
――間に合わない。
雷が走った。
トウマが、盾の“結果”を斬る。
突進という未来が、消失。
男は、前のめりに倒れた。
だがその背後。
見えない刃。
脇腹が裂ける。
音殺しだ。
「ミコト!」
トウマの叫びが、遅れて聞こえた。
血が流れる。
炎で止血するが、集中が削られる。
――このままじゃ、押し切られる。
「……いいだろ」
俺は、炎を“絞った”。
上限なき炎を、あえて一点に。
「燃やすのは……」
足元。
空気そのもの。
瞬間、地下の圧力が変わる。
水圧が暴発し、音殺しの能力が破綻。
音が戻る。
「今だ!」
雷が、連続して落ちる。
結果が、三つ切れた。
静岡の女は水ごと蒸発し、
音殺しは自分の無音空間に閉じ込められ、
盾の男は、倒れたまま動かない。
だが――
拍手。
乾いた音。
「素晴らしい」
奥から、男が出てくる。
白い外套。顔は笑っている。
「神奈川王国、刺客長。
能力は――再演」
嫌な予感が、背骨を這う。
「一度見た戦闘を、完璧に再現できる」
男が指を鳴らす。
さっきの水圧、盾、無音。
全部、同時に来た。
「……は?」
トウマが即座に雷を走らせる。
だが、斬ったはずの未来が、再生する。
「結果を斬っても無駄だよ」
男は笑う。
「“もう一度起きたこと”だからね」
初めてだ。
トウマの能力が、完全に無効化された。
俺は、炎を最大まで高めかけ――
止めた。
直感が叫んだ。
――ここで全開にしたら、地下ごと崩れる。
東京帝国が、沈む。
「どうした?燃やさないのか?」
男が煽る。
俺は、静かに言った。
「……トウマ」
「分かってる」
二人同時に、後退。
逃げる。
初めての撤退。
刺客長の笑い声が、背後で響いた。
「いいね……
逃げる価値がある力だ」
通路を曲がり、崩落寸前のエリアへ。
俺は、壁にもたれた。
「……やばいな」
「敵が強くなってきてる」
トウマは事実だけを言う。
「刺客は、段階制だ。
今のは――中位」
「じゃあ上は?」
「化け物だ」
俺は、笑った。
血と煤で、喉が焼ける。
「望むところだ」
炎が、小さく、だが確かに燃える。
45国すべてが敵。
娯楽ではない、本気の戦いが、今始まった。
この先、何人死ぬかは分からない。
だが一つだけ、決まっている。
――最後に立っているのは、俺たちだ。




