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文明崩壊、3000年後  作者: うなぎ
神奈川王国編
3/12

第3話 雷鳴は地下で名を持つ

警報は、追い風だった。

 赤いランプが回り、管理区画の壁が閉じ始める。その瞬間、俺は炎を床に叩きつけた。

 熱が爆ぜ、視界が白く跳ねる。

「活性――過燃」

 体が軽くなる。

 同時に、横で雷鳴が弾けた。

 剣士が、拘束具ごと壁を切り裂いた。

 剣は抜かない。ただ、雷を走らせるだけで金属は紙のように裂ける。

「右だ。下に抜ける」

「了解」

 会話はそれだけ。

 俺たちは、最初から連携できていた。

 炎で前を焼き、雷で後ろを断つ。

 警備兵が見えた瞬間、未来ごと消えた。倒れる音すら、遅れて聞こえる。

 エレベーターシャフトに飛び込み、落下。

 途中、炎を噴射して減速する。

 地下――遺都東京の、さらに下。

 ここから先は、国家の地図に存在しない。

「……ここが?」

「旧中枢層だ。代表戦が始まる前、都市を管理してた場所」

 剣士の声は、ここではよく響いた。

 薄暗い通路。壁一面に、古い端末と配線。

 死んだはずの都市が、まだ息をしている。

「なあ」

 歩きながら、俺は聞いた。

「お前、名前」

 剣士は一瞬だけ、足を止めた。

「……ミカヅチ・トウマ」

「雷の名前そのまんまだな」

「嫌いじゃない」

 それきり、また歩き出す。

 通路の奥で、灯りが揺れた。

 人影が2つ。

「止まれ」

 女の声。

 俺とトウマは同時に構える。

 だが、女は武器を持っていなかった。代わりに、目が異様に澄んでいる。

「炎と雷……やっと来たか」

「誰だ」

「反逆者。あるいは――記録係」

 女は、指で自分のこめかみを叩いた。

「私は“過去”が見える。国家が消した記憶を、ね」

 もう一人、背の低い男が前に出る。

 足元の空間が、歪んだ。

「空間固定。ここから先、国家は入れない」

 ……なるほど。

 こいつらが、地下で生き延びてきた理由だ。

「単刀直入に言う」

 女が言った。

「国家は悪じゃない。悪にされた」

 その言葉で、空気が張り詰めた。

「ふざけるな」

 俺は炎を強めた。

「代表戦は殺し合いだ。娯楽だ。どう見ても悪だろ」

「そう思わせるように、導かれた」

 女は一歩も退かない。

「最初は違った。争いを減らすための制度だった。

 でも――“あれ”が現れてから、変わった」

「……あれ?」

 女は、端末に触れた。

 古い映像が、空中に投影される。

 会議室。若い貴族たち。

 その中心に――影。

 姿が、定まらない。

『人類は必ず滅ぶ』

『ならば、管理された争いを』

『殺し合いは、秩序だ』

 声だけが、やけに鮮明だった。

「国家を悪にそそのかした存在。

 私たちは、黒い導師と呼んでる」

 胸の奥が、嫌な熱を持つ。

「……そいつが、元凶か」

「そう。そして――」

 女は、俺を見た。

「あなたの炎は、そいつを殺せる唯一の力」

 空気が、重くなる。

 トウマが口を開いた。

「だから俺たちは、選別されてた。代表戦で」

「そう。未来に干渉できるか。結果を壊せるか。

 あなたたちは“規格外”だった」

 沈黙。

 俺は、笑った。

「はは……つまり?」

 炎が、床を焦がす。

「国家も、導師も――全部燃やせばいい」

 女は、首を横に振った。

「導師は、時間の外にいる。

 今のままじゃ、届かない」

 トウマが、剣に雷を走らせる。

「……だから、過去か」

「ええ」

 女は、はっきり言った。

「代表戦が始まる前。

 国家が、まだ引き返せた時代へ」

 遠くで、再び警報。

 国家は、もうここに気づいている。

「選べ」

 女が言う。

「この世界で、燃え尽きるか。

 過去へ行って、全部壊すか」

 俺は、トウマを見る。

 トウマは、頷いた。

 迷いはなかった。

「行くぞ」

 俺は、炎を最大まで落ち着かせる。

 上限なき炎が、静かに、確実に燃える。

「この世界が、俺を試すなら――」

 雷鳴が、応える。

「今度は、俺が世界を試す番だ」

 地下で、装置が目を覚ました。

 過去へ向かう道が、開く。

 さらに下へと落ちる。

 そして俺は、まだ知らない。

 この選択が、

 誰を救い、

 誰を燃やすのかを。

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