第2話 雷は結果を斬る
気づいた時、俺は冷たい床に寝かされていた。
天井は高い。白い。やけに整いすぎている。
闘技場じゃない。医療施設……いや、管理区画だ。
「目、覚めたか」
聞き覚えのある声。
視線を動かすと、あの黒髪の剣士が壁にもたれて立っていた。今は剣を持っていない。代わりに、手首に黒い拘束具がはめられている。
「……生きてたのか」
「そっちの台詞だ。普通なら、お前は灰になってる」
俺は体を起こそうとして、やめた。
内側が焼ける感覚が、まだ消えていない。
「ここは?」
「東京帝国・代表管理局。勝者でも敗者でもない奴が送られる場所だ」
「……処刑場か?」
「観測所だ」
剣士は即答した。
「お前の炎を、な」
その言葉で理解した。
国家は俺を助けたんじゃない。測るために生かした。
視界の端で、透明な壁の向こうに人影が動く。白衣、軍服、貴族服。
全員、俺を見ている。
気に食わない。
「お前は、どういう立場だ」
俺が問うと、剣士は少し黙った。
「千葉王国代表――だった。今は、処分待ちだ」
「負けてないだろ」
「勝ってもだ」
淡々とした声だった。
「国家にとって都合の悪い能力は、強すぎても弱すぎても駄目らしい」
なるほど。
だから代表戦は殺し合いなのに、全員が“勝つこと”を求められていない。
「じゃあ聞く。あの時――」
俺は腹の傷を指した。
「動いてないのに、なんで斬られた」
剣士は初めて、はっきりと俺を見た。
「時間を斬った……って言ったら、信じるか?」
「信じない」
「だろうな」
小さく笑ってから、剣士は続けた。
「正確には、結果を斬った」
「結果?」
「お前が『活性』した瞬間、未来は決まった。
俺は、その“起こるはずだった結末”を雷で切断した」
雷。
そう言われて、初めて気づく。
剣士の周囲の空気が、微かに震えている。焦げた匂い。
「雷は最速だ。原因と結果の間に割り込める」
「……つまり?」
「お前の炎が腹を蹴る“未来”を、起こる前に消した。
だから、お前は動いていないのに斬られた」
頭が追いつかない。
だが、納得はできた。腹の傷が、何よりの証拠だ。
「厄介な能力だな」
「お前の炎ほどじゃない」
剣士は、はっきり言った。
「上限が、ないだろ」
心臓が一瞬、跳ねた。
「……何を根拠に」
「闘技場の結界だ。あれは国家が誇る“絶対安全装置”だ」
剣士は天井を指さす。
「お前が本気を出した瞬間、出力計測が壊れた」
「壊れた?」
「振り切れたんじゃない。
“測れなくなった”」
嫌な沈黙が落ちた。
「国家は今、恐れてる。
お前の炎は、兵器でも異能でもない。災害だ」
その時、部屋のスピーカーが鳴った。
『カグラ・ミコト。
あなたは国家保全のため、管理下に置かれます』
感情のない女の声。
『協力すれば、生活と地位は保証されます』
俺は笑った。
「で、拒否したら?」
『――処分対象です』
分かりやすい。
俺は立ち上がった。
体内の炎が、静かに膨れ上がる。
壁が軋む。観測者たちがざわつく。
「なあ、剣士。」
「なんだ」
「俺に勝ったら協力するって言ったよな」
「ああ」
「じゃあ逆だ」
炎が、床を焦がす。
「俺が勝ったら――一緒に、この国を敵に回れ」
剣士は一瞬、目を見開き――
次の瞬間、笑った。
「……最初から、そのつもりだ」
雷鳴が、室内に走る。
同時に、警報が鳴り響いた。
『異能反応上昇!拘束レベルを――』
最後まで聞く気はなかった。
「行くぞ」
「おう」
炎と雷が交差する。
この時、俺はまだ知らなかった。
国家が“悪”になった理由も、
俺の炎が、この世界にとって何なのかも。
ただ一つ、確信したことがある。
――この世界は、燃やす価値がある。




