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文明崩壊、3000年後  作者: うなぎ
神奈川王国編
2/12

第2話 雷は結果を斬る

気づいた時、俺は冷たい床に寝かされていた。

 天井は高い。白い。やけに整いすぎている。

 闘技場じゃない。医療施設……いや、管理区画だ。

「目、覚めたか」

 聞き覚えのある声。

 視線を動かすと、あの黒髪の剣士が壁にもたれて立っていた。今は剣を持っていない。代わりに、手首に黒い拘束具がはめられている。

「……生きてたのか」

「そっちの台詞だ。普通なら、お前は灰になってる」

 俺は体を起こそうとして、やめた。

 内側が焼ける感覚が、まだ消えていない。

「ここは?」

「東京帝国・代表管理局。勝者でも敗者でもない奴が送られる場所だ」

「……処刑場か?」

「観測所だ」

 剣士は即答した。

「お前の炎を、な」

 その言葉で理解した。

 国家は俺を助けたんじゃない。測るために生かした。

 視界の端で、透明な壁の向こうに人影が動く。白衣、軍服、貴族服。

 全員、俺を見ている。

 気に食わない。

「お前は、どういう立場だ」

 俺が問うと、剣士は少し黙った。

「千葉王国代表――だった。今は、処分待ちだ」

「負けてないだろ」

「勝ってもだ」

 淡々とした声だった。

「国家にとって都合の悪い能力は、強すぎても弱すぎても駄目らしい」

 なるほど。

 だから代表戦は殺し合いなのに、全員が“勝つこと”を求められていない。

「じゃあ聞く。あの時――」

 俺は腹の傷を指した。

「動いてないのに、なんで斬られた」

 剣士は初めて、はっきりと俺を見た。

「時間を斬った……って言ったら、信じるか?」

「信じない」

「だろうな」

 小さく笑ってから、剣士は続けた。

「正確には、結果を斬った」

「結果?」

「お前が『活性』した瞬間、未来は決まった。

 俺は、その“起こるはずだった結末”を雷で切断した」

 雷。

 そう言われて、初めて気づく。

 剣士の周囲の空気が、微かに震えている。焦げた匂い。

「雷は最速だ。原因と結果の間に割り込める」

「……つまり?」

「お前の炎が腹を蹴る“未来”を、起こる前に消した。

 だから、お前は動いていないのに斬られた」

 頭が追いつかない。

 だが、納得はできた。腹の傷が、何よりの証拠だ。

「厄介な能力だな」

「お前の炎ほどじゃない」

 剣士は、はっきり言った。

「上限が、ないだろ」

 心臓が一瞬、跳ねた。

「……何を根拠に」

「闘技場の結界だ。あれは国家が誇る“絶対安全装置”だ」

 剣士は天井を指さす。

「お前が本気を出した瞬間、出力計測が壊れた」

「壊れた?」

「振り切れたんじゃない。

 “測れなくなった”」

 嫌な沈黙が落ちた。

「国家は今、恐れてる。

 お前の炎は、兵器でも異能でもない。災害だ」


 その時、部屋のスピーカーが鳴った。

『カグラ・ミコト。

 あなたは国家保全のため、管理下に置かれます』

 感情のない女の声。

『協力すれば、生活と地位は保証されます』

 俺は笑った。

「で、拒否したら?」

『――処分対象です』

 分かりやすい。

 俺は立ち上がった。

 体内の炎が、静かに膨れ上がる。

 壁が軋む。観測者たちがざわつく。

「なあ、剣士。」

「なんだ」

「俺に勝ったら協力するって言ったよな」

「ああ」

「じゃあ逆だ」

 炎が、床を焦がす。

「俺が勝ったら――一緒に、この国を敵に回れ」

 剣士は一瞬、目を見開き――

 次の瞬間、笑った。

「……最初から、そのつもりだ」

 雷鳴が、室内に走る。

 同時に、警報が鳴り響いた。

『異能反応上昇!拘束レベルを――』

 最後まで聞く気はなかった。

「行くぞ」

「おう」

 炎と雷が交差する。

 この時、俺はまだ知らなかった。

 国家が“悪”になった理由も、

 俺の炎が、この世界にとって何なのかも。

 ただ一つ、確信したことがある。

 ――この世界は、燃やす価値がある。

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