第11話 静岡本隊
足音が、揃っていた。
霧の向こう。
数じゃない。訓練だ。
「……本隊だ」
トウマが低く言う。
静岡前線部隊の背後、霧が左右に割れた。
そこから現れたのは――十六人。
全員、同じ外套。
同じ歩幅。
同じ呼吸。
「静岡王国・相変化戦団」
中央の男が名乗る。
「指揮官、アサギリ」
その声は、驚くほど静かだった。
「対象二名。
想定被害、東京区画三割」
淡々と、事実だけ。
「――殲滅を開始する」
合図もない。
環境が先に動いた。
地面が沈む。
空気が冷える。
湿度が跳ね上がる。
俺の喉が、焼ける感覚。
「……酸欠?」
「違う」
トウマが歯を食いしばる。
「酸素を奪ってる」
燃焼を、根こそぎ殺す構成。
「炎対策、徹底してやがるな……!」
次。
圧力。
上から、横から、下から。
逃げ場がない。
「全隊、段階一」
アサギリの声。
「凍結・圧縮」
世界が、止まりかける。
俺は、体内の炎を回す。
外に出さない。
熱を生まない。
――だが、重い。
「……くそ」
拳が、思うように動かない。
そこへ。
「段階二」
地面が、液体になる。
「臨界泥流、展開」
足が沈む。
一歩ごとに、奪われる。
「トウマ!」
「分かってる!」
雷が走る。
未来切断。
一瞬、足場が固定される。
だが――
「段階三」
アサギリが、言った。
「再凍結」
泥が凍る。
雷で作った足場ごと、固められた。
「……っ!」
トウマの雷が、乱れる。
「切れない……未来が、多すぎる……!」
同時多発。
静岡は、“選択肢”を消してくる。
これは戦闘じゃない。
処理工程だ。
「ミコト」
トウマが、低く言う。
「このままじゃ……」
「ああ」
分かってる。
俺は、炎を――点にした。
上限なき炎を、極限まで圧縮。
熱を出さず、光も出さず。
ただ、存在としての炎。
「……何だ?」
静岡本隊が、初めて反応する。
圧縮された炎が、俺の心臓の奥で脈打つ。
「燃やさない」
俺は、一歩踏み出す。
「相変化しない炎だ」
拳を、地面に叩きつける。
衝撃。
だが、爆発じゃない。
相が、固定される。
凍結も、液化も、起きない。
「……っ!?」
アサギリの表情が、初めて崩れた。
「環境制御が……効いてない?」
「炎を、温度で考えるな」
俺は、顔を上げる。
「これは――意志だ」
固定された一瞬。
トウマが、雷を走らせる。
未来を、一本だけ切る。
隊列の“中心”。
指揮官アサギリの未来。
「――!」
アサギリが、後退する。
だが、倒れない。
「……なるほど」
彼は、静かに笑った。
「神奈川が負けた理由が、分かった」
本隊が、再編される。
「全隊、段階四へ」
嫌な言葉。
「富士火山帯、共鳴開始」
地鳴り。
遠くで、赤い光が、確かに強くなる。
東京の地下が、震える。
「……来るぞ」
トウマが、息を荒げる。
「これは……」
「本物の“国”だ」
静岡王国は、
国ごと、殺しに来ている。
俺は、炎を抱えたまま、前を見る。
このまま進めば、
東京が死ぬ。
止めれば、
俺たちが死ぬ。
選択は――
まだ、終わっていない。
お久しぶりです
誰かが見てるって信じて書いてます




