第1話 炎と剣
夜明け前の遺都、東京帝国。
上層部の娯楽として楽しまれていたのは━━━━
殺し合いだ。
この世界には45の国がある。
今日は国を代表して戦いが起こる日。
今回の相手は千葉王国。
俺、カグラミコトは後衛として配置された。
正直、剣などを使うやつは馬鹿だと思う。荷物になるだけだ。
『勝負開始!』
合図と共に、全員が走り始める。
10人ほどのチームだが、それほど仲はいいわけじゃない。
俺の能力は炎。
炎を自在に操ることが出来る。
「活性」
「おい待て!」
制止の声を振り切り、炎の能力を使いジェットのように駆けだす。協力する必要なんてない。俺一人でいい。
その速度は時速100kmを超える。
会場の中央まで来たところで、人影が見えた。
「剣士……?」
降りて見てみると、鞘を腰に下げた黒髪の剣士がいた。
「剣を使うバカに俺が負けるわけないだろう!」
炎で急接近。腹に蹴りが入った。
ヒットアンドアウェイ、一旦引こう。
「陽炎」
魂を肉体から剥がし、肉体を炎の力で形を保つ。その後、魂に肉体をつけて瞬間移動したように見せる技だ。
このままいけばこの剣士には勝てる。
「活性」
腹から血が吹き出す。
斬られた?何も動いてなかっただろ!?
まずい、剣士に殺される。こんなところで……!
「お前、何を目的に戦っている?」
剣士がそう言う。
「何って……それ以外に職がないからだろ……」
「そうだ。それ以外の職業は全て貴族がやっている。でもおかしくないか?なぜ我々下級国民に殺し合いという仕事をやらせていると思う?」
「それは……娯楽のためだろう。」
「それ以外の目的もあると思わないか?」
「……なんでそれを俺に聞く?」
「お前とならこの世界の謎を解き明かせると思ったからだ。」
……
「俺に勝ったら協力してやるよ!」
時速100kmを超える蹴りを剣士に入れる。
「防がれた!?」
あり得ない。
この速度、この威力――生身で受け止められるはずがない。
だが、剣士は動かなかった。
腰の剣を抜きもせず、ただ片腕で受け止めている。
いや、違う。
受け止めた“ように見えた”だけだ。
次の瞬間、俺の視界が横にずれた。
地面が近い。視界が回転する。
――吹き飛ばされた。
背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に抜ける。
炎で衝撃を逃がしたはずなのに、骨が軋んだ。
「剣士を……舐めすぎだ」
いつの間にか、剣士は剣を抜いていた。
黒い刃。光を反射しない。まるで影そのものだ。
「今のは、防いだんじゃない。斬った」
「……は?」
剣士は静かに言う。
「お前の“未来”をな」
意味が分からない。
だが、腹の傷がそれを否定しなかった。
俺は歯を食いしばり、立ち上がる。
血が滴り落ち、地面で蒸発する。
「未来を斬る?……冗談だろ」
「冗談ならよかった」
剣士は一歩、前に出た。
その瞬間、空気が変わる。
――危険。
反射で能力を解放する。
「活性・過燃『オーバーヒート』!」
体内の炎が爆発的に増幅される。
皮膚の下を火が走り、視界が赤く染まる。
次の瞬間、俺は消えた。
否、突っ込んだ。
直線。
真正面から。
逃げも小細工もなし。
拳に炎を凝縮する。
「焔砕!」
交差点が吹き飛ぶ。
地面が抉れ、衝撃波が観客席まで届いた。
――当たった。
確信した。
だが。
「……浅い」
煙の中から、声がした。
剣士は立っていた。
外套が焦げ、肩口が焼け落ちている。だが、それだけだ。
「な……っ」
「お前の炎は強い。だが、速さに頼りすぎている」
剣士は剣を構えた。
その構えは、不自然だった。
剣先が――俺ではなく、空間を向いている。
「剣はな。物を斬る武器じゃない」
一閃。
音が遅れてきた。
世界が、ずれた。
気づいた時には、俺の右腕が宙を舞っていた。
遅れて、痛みが爆発する。
「――ッ!!」
だが、叫ぶ暇はない。
「再生・炎!」
断面を炎で焼き固め、無理やり形を作る。
腕が“戻る”。だが、感覚は鈍い。
――こいつ、危険すぎる。
「それでも立つか」
「……当たり前だ」
息が荒い。
内臓が焼ける感覚がする。使いすぎだ。
「約束だ。俺が勝ったら――」
「分かっている」
剣士は、わずかに笑った。
「だから、次で終わらせる」
剣士の姿が、ぶれた。
いや、違う。
時間が、歪んだ。
俺は理解した。
こいつの能力は――
「時間干渉型……!?」
「正確には、“結果固定”だ」
剣士の声が、遠く聞こえる。
「俺が斬った未来は、必ず起こる」
つまり――
避けても、無駄。
俺は、笑った。
「……最高じゃねえか」
炎を、すべて解放する。
「だったら俺は――」
世界が赤く染まる。
「未来ごと燃やすだけだ!!」
次の瞬間、遺都東京帝国の闘技場は、
夜明け前だというのに――太陽が昇ったかのように輝いた。




