プロローグ
湧き上がる歓声、それをかき消すほどの胸の高鳴り。いつものように、目をつぶって精神統一。
そして今、オリンピックのスタート台に俺は立つ。
今俺がこうして、オリンピックの舞台に立っていられるのは、ある夏のことだった。
あの日のことを、今でも忘れはしない。
その日は、記録的な猛暑だった。まだ四歳だったころの俺は片手に網、肩には虫かごをかけ、頭には麦わら帽子をかぶって虫取りをしにいった。まだ四歳だった俺は、虫取りに夢中になり時間を忘れあたりが暗くなるまで必死に虫を探していた。
そのときだった、夢中になっていた俺の耳に入った音があった。
たくさんの応援の声、たくさんの水しぶきの音。気になった俺は、すぐ近くにあった高校に行った。
するとそこには、魚たちのように泳ぐ人たちの姿があった。
虫取りよりも夢中になってしまい、ずっと柵越しに彼らの姿を見ていた。
あたりは、よりいっそう暗さをましかなり時間が経っていた。ここまで時間が経っても帰ってこない、と心配した母が俺を迎えに来てくれた。
「もう、こんな時間まで何やってんの帰るよ」
少し怒り気味できた母だったが、歩いているうちに機嫌もよくなったみたいで今日の虫の収穫の話で盛り上がった。
そして、俺はこの日ある決断をした。それは、「絶対に彼らのようになる」そう誓い高校を去った。
まだ、このときの俺はこの先にある数々の試練があることを知らなかった、ってか知るよしもなかった。
つづく