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第4話 同好会

 部室には、すっかり穏やかな時間が流れていた。もっとも初羽はいつの間にか机に突っ伏して寝ていたので、そのおかげもあるのかもしれない。


 叶亜菜は、そんな初羽の髪の毛を引っ張ったり三つ編みにしたりして遊んでいる。ときおり不機嫌そうな声が聞こえてくるのがなかなか面白い。


「そういえば、叶亜菜」

「ん〜?」

「俺、1つ謎が解けたよ。この『おかると研究部』って名前、ずっと疑問に思ってたんだが、魔法少女だから、なんだよな?」


 いきなり叶亜菜が『おかると研究部つくるっス!』とか言い出したとき、郁人はかなり困惑したものだった。ホラーは苦手な方だったはずなんだが……と思っていたが、オカルトはオカルトでもただのオカルトではなかった、ということなんだろう。


 これまでの話を振り返ってみると、魔法少女の活動というのはかなりオカルト的なものだ。魂だとか、憑依だとか、成仏だとか。

 普通に生きていれば関わることなどないであろうことだが、まさに今、郁人は当事者になってしまっていた。


 だから、急にファンタジーな世界に放り込まれたようで落ち着かない気分なのだ。


「よく分かったっスね、兄さん! いぐざくとり〜」

「ちゃんと英語使えて偉いな、よしよーし」

「か、確実に舐められてる……なでなでは、まあ、やぶさかではないっスけど……」


 照れたように頬を緩める叶亜菜に対して気恥ずかしさを感じた郁人は、すぐに手を彼女の頭から離した。


「まあその、兄さん。正直いま、結構困惑してるでしょ? 変なこと、いろいろ聞かされて」

「おう、まさかこんな超常的なことが実際に存在してたとは……って感じ」

「そっスよねー! トアも初めはマジで意味わかんなかったから、少しずつ慣れていくといいっスよ」


 快活な笑みを浮かべて、叶亜菜は言った。

 慣れてしまうのは果たして良いことなのか、悪いことなのか。郁人としては、早くこの問題にケリをつけたいのだが。


 ……大体なんなんだ、討伐対象って。俺にいったい何が憑いていると言うんだ。何か悪さをされている感覚はないし、きっと、よほど善良な幽霊さんに違いない。まあ、それでも迷惑なのに変わりはないので、可及的速やかに成仏しちまってくれ。もちろん、俺たちの知らないところでな。


 ──なんて、半ば愚痴のようなものを心の中でつぶやいていると。


「…………んんぅ……はぁ……? 先輩……キモキモッ!?」

 

 初羽がガバッと起き上がった。それより、何やらおかしな寝言が聞こえたのだが、どんな夢を見ていたのだろうか。


「はは、夢の中にまで俺が出てくるとはな。そんなに好きなんだなぁ、俺のこと。わっははは!」

「……おえっ。寝覚め最悪」

「いや、さすがにおえっ、はないっスよ……何吐いてんスか」

「うん、気持ち悪い夢を見てしまったものでね」


 驚くほどの無表情で、そう言い放つ。まだ瞼が上がりきっていないものの、端正な顔も相まってめちゃくちゃ恐ろしい。その夢について、深く尋ねるのはやめておこう。彼女なら、郁人ごと成仏させてしまってもおかしくない。


「……んで、2人は何話してたの?」

「えっと、この部活の名前について、みたいな?」

「同好会ね、いい加減認めなさいってば。……それにしても、名前ねえ。そういえば、オカルトってひらがなにしたら結構かわいくない?」


 その言葉を聞いた瞬間、叶亜菜は目を爛々と輝かせて初羽の手を強く握った。初羽はかなり面倒くさそうにしている。


「そうっスよねっーー!! トアのこだわり、初羽なら分かってくれると思ったっス! 前兄さんに言ったとき、全然分かってくれなくてぇ……」

「きっと先輩は感性がおかしいんですね、ふふ」

「お前ら……」


 ──まったく、女子の考えていることは分からないものだ。カタカナもひらがなも変わらないだろ。

 

 郁人は、そんな年下女子2人に対して、気になっていたことを尋ねた。


「おい、今日は《《先生》》って来るのか?」

「朝聞いてみたら、いちおう来るって言ってましたけど。まあ、ちゃんとやってるか見に──」

「失礼します」


 コンコンコン、というノック音のあと、凛とした声が部屋に響く。

 入ってきたのは、黒髪ストレートボブで落ち着いたワンピースを身に纏った女性。色白でクールな表情をした彼女は、おかると研究部の顧問、ということになっている。


 名前は白沢麗華しらさわれいか。いかにも美人そうな名前をしている。20代前半くらいに見えるが、噂によれば三十路らしい。初羽と叶亜菜のクラスの担任でもある。


「ちゃんとやってるかしら?」

「仲良くお話してたっス! ……怒んないでくださいね?」

「別に怒らないわよ……。というか、今日は安堂くんもいるのね」

「なんか、久しぶりかもですね」

「ええ。元気そうで良かったわ」


 彼女は一見、厳しそうにも見えるが、全然そんなことはない。厳しすぎず甘すぎず、という感じで、生徒からはかなり好かれている。口調も仕草も上品ではあるが、意外と親しみやすいのだ。

 ……どうしてこんなに変てこな同好会の顧問をしているのかは分からないが。


「私は少し見に来ただけだから、あとはみんなでごゆっくり。それじゃあ、さようなら」

「ありがとうございました、先生」

 

 外面は優等生な初羽は、笑みを浮かべながら軽くお辞儀をして彼女を見送った。やっぱり、こういうところはしっかりしている。


「さて、あたしはもう帰る。先生はもう来たし、やることないからね。お2人は、まあ……兄妹で仲良く残れば?」

「ちょちょ、待つっスよ初羽! トアたちも一緒!」


 せっせと帰り支度を始めた初羽に、慌てて追従する叶亜菜。この光景も日常茶飯事である。郁人はといえば、鞄からなにも出していないので支度も何もない。コートを着るくらいだ。


「さあ兄さん、帰るっス!」

「先輩、早く」

「分かってるよ」


 無邪気に笑う叶亜菜に、完全防備を決めたモコモコな初羽。2人の視線を感じながら、郁人は部屋の電気と暖房を消して歩き始めた。

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