プロローグ 兄妹の邂逅
傍点がカクヨム準拠になってます。
彼は、夜の住宅街を歩いていた。
理由は単純。夕食後に勉強をしていたらシャー芯が切れてしまったからだ。もう高校2年生なので、勉強はしっかり取り組まなければ。特に塾にも行っていないのでなおさらだ。
冬の冷たい空気が、彼の頬を撫でた。
行き先は近くのコンビニということで、あまり厚着はしてこなかったのだが、やはり寒い。だが、我慢できないほどではない。
「夜にひとりで出歩くなんて、いつぶりだろうな」
彼は小声で呟いた。
誰かと遊ぶときはいつも早めに解散するので、遅くても7時くらいには帰宅しているのだ。それに遅くなるのは、だいたい妹に連れ回された日だ。だから、1人なのは珍しかった。
ふと、何かの気配がした。それも、とても不気味な。
気になって前方へ目をやった彼は、何かが動いているのを見た。……明らかに人影ではない。それよりもずっと小さいものだ。
どうにも興味が湧いてしまい、彼は怯えつつもその影に近づいていった。
よく見れば、それは1つだけではなかった。5つくらいだろうか。
──そこで彼は、ありえないものを見た。
「…………っ!?」
ウサギのぬいぐるみが、ひとりでに動いていたのだ。複数いる中で、それぞれが違う動きをしている。
「いや、なんだよコイツら……完全にホラーじゃねぇかよ……」
彼はそうおどけて言いつつも、内心ではかなりの恐怖を覚えていた。早くこの場から立ち去りたかったが、どうしても《《それ》》から目を離せなかった。
……どうしよう、危害でも加えてきたら為す術も何もない。死ぬのか俺!?
と、そんなことを思っていた時。
ぬいぐるみたちをめがけて、空から人間が降ってきた。……人間、というか女の子だ。
「……っと!」
少女は華麗に着地した。カツン、と靴の音が響く。ひらひらした黄色のスカートがふわりと揺れた。
彼は、その様子を見て絶句していた。しかしそれは、少女も同様だった。
「……お、お前……!」
彼が言うと、少女は引き攣った笑みを浮かべながら、震えた声で返した。
「ににに兄さん……!?」