第8話 魔族
湖から少し歩くと、木の柵と小さな門が見えてきた。
その中には、三角屋根の家が遠くからでも数軒確認できる。
「あ!」と言いながら、スピカが門へと向かって走り出した。
俺とカーティスもその後を追う。
門の前では、スピカが嬉しそうな顔で辺りを見回していた。
スピカ「やっと着きましたね~! ここが、アグネス村ですか!」
ウィル「だな! __少し厄介事もあったが......」
そう言って振り返ると、カーティスは首を傾げて「はて?」みたいな顔をしている。
自覚がないのかこいつは。
スピカ「じゃあ、早速入りましょうか!」
そう言ってスピカが門をくぐろうとすると___
カーティス「ちょっと待ちたまえ」
カーティスがスピカを呼び止めた。
そして門へと近づくと、右の手のひらを前へと突き出す。
カーティス「ふむ......」
ウィル「おい、一体どうしたんだよ?」
カーティス「......いや、なんでもないよ。さぁ、お先にどうぞ」
そういうと、カーティスは左腕を広げ、先に進むよう促した。
*
村の中は妙に静まり返っていた。
畑にはクワやバケツが放置され、干された服がそのままになっている家もある。
スピカ「誰も見当たりませんね......みなさん、もうお家の中なのでしょうか?」
ウィル「かもな。もう日暮れ時だし」
スピカ「困りましたね。これだと、どこが村長さんのお家かわかりませんよ」
確かに......見る限り家は10軒以上ある。
だが、ファンタジーあるあるで村長の家っていうのは村の中でも一番大きいと相場が決まっている。
ってことは____
「とりあえず、あの家を訪ねてみるか」
少し奥の方に見える、ひときわ大きな家。
あそこがそうなんじゃないか?
窓から明りが漏れてるってことは、誰かしら中にはいるみたいだな。
ドアの前まで行くと、スピカがドアをノックした。
コンコン
反応がないな。明りは点いてるけど。
コンコン
スピカ「どなたかいらっしゃいませんか~?」
スピカの声に反応したのか、家の中から床をかける音がする。
足音がすぐ目の前まで近づくと___
ガチャッ!!
ドアが勢いよく開いた。
中には白髪交じりの初老の男性。
目を見開き、口を大きく開けて驚いた表情を見せている。
「ど、どうして......!?」
スピカ「どうか......したんですか?」
「あ、ありえん! だって、外には......」
カーティス「結界が張られている」
なに!? 今、なんて......
ウィル「結界って......どういうことだよ!?」
カーティス「詳しい話は、この方から聞くとしよう」
「ご安心を。我々は、あなた方に危害を加えに来たのではありません」
「......中へ......どうぞ」
男性は、俺たちを中へと案内してくれた。
家の中には、他に誰かが住んでいる様子はない。
もうすぐ夕飯時だが、食事の準備はされてなかった。
テーブルに案内され、俺たちは席へと着く。
「ご紹介が遅れました。私は、この村で村長をしているコーネルといいます」
カーティス「初めましてコーネルさん。私はカーティス」
「そして、こちらにいる二人はウィルとスピカです」
ウィル「どうも」
スピカ「はじめまして!」
カーティス「我々は旅をしていましてね。日も落ちてきたので、一晩この村に泊めてもらおうと立ち寄ったのですが......」
カーティスとコーネルが話している最中、スピカが耳元でなにかを囁いてきた。
スピカ「ウィルさん......」
ウィル「どした......?」
スピカ「カーティスさん、なぜ私たちのお使いのことを言わないのでしょう......?」
ウィル「なんか、切羽詰まっててそれどころじゃなさそうだしな....」
「こっちの用事は、タイミングをみて話せばいいだろう......」
お使いを終えてミッション完了___って雰囲気でもないしな。
コーネル「ところで......外の結界はどうされたんですか? 結界がある限り、出入りはできないと言われたのに」
カーティス「私には、少々魔術の心得がありましてね。それで__あの結界はいったい誰が?」
コーネル「......魔族です」
ウィル「ま......ぞく?」
コーネル「はい。数日前、奴は突然この村に現れました__」
***
?「どうも、こんばんは。今宵は......随分と良い月が出ていますね」
ヤギのような頭に、闇夜に溶けるようなボロボロの黒いローブ。
持っている杖は先端が尖り、いくつもの金色の輪がついている。
明らかな異形____
その姿に、村人たちは戦慄した。
「い、いやぁぁぁぁ!!」
「まぞくだぁぁぁ!!」
?「ああ! 皆さん。少し落ち着いてください」
「少し、お話をしに来ただけなんですよ。ここの代表者の方は.....どちらにいらっしゃいますか?」
コーネル「代表者は私だ!」
コーネルが村人たちをかき分け、前へと出る。
?「ほおぅ、あなたが......どうも、初めまして。ワタシの名前はゾーイ」
「以後、お見知りおきを」
コーネル「い、いったい、この村になんの用だ!?」
ゾーイ「おや? ワタシは名乗ったはずですが......アナタは、随分と失礼な方のようだ」
そういうと、ゾーイは左手を前方へと伸ばした。
すると___
コーネル「ぐ.....がぁぁぁ......」
コーネルが首を抑え苦しむ。
その身体は、宙にふわりと浮いていた。
「そ、村長!!」
「こ、この__村長を放せ!!」
村人のひとりがクワを持って襲い掛かると__
「ぐあぁぁぁ!!」
ゾーイは持っている杖を村人の肩へと突き刺した。
コーネル「や......やめてくれ......」
ゾーイ「やめてほしいですか? それなら、チャンスをあげましょう」
「アナタの__お名前は?」
コーネル「コ、コーネル......」
ゾーイ「よろしい」
ゾーイは上機嫌で持っていた杖を引き抜き、村長を地面へと降ろした。
コーネル「ガハァ......! ゲホッ、ゲホッ.....!」
ゾーイ「さて、コーネル。ワタシは久々に地上へと出て来ていましてね。
今、とても気分が良いんですよ。」
「そこで一つ......お願いがあるのですが」
コーネル「おね......がい?」
ゾーイ「ええ、そうです。 綺麗な月明かりの下で、食事を楽しみたいのです。つきましては、ディナーの用意をお願いしたいと思いましてね。」
コーネル「......わ、わかった。村にあるものは持って行って構わない。だから......」
ゾーイ「ああ......おそらく、なにか勘違いをしていますね」
「ワタシはね......"生きた人間"を食べたいんですよ」
コーネル「な......!?」
ゾーイ「随分と良い顔をしますね。安心してください。
ワタシはそこまで沢山食べるわけではありませんから」
「__ヒトリで構いません。若いのがいい。ヒトリ、ワタシに差し出してください」
コーネル「そ、そんなこと! できるわけ......!」
ゾーイ「ナラ、ミナゴロシガオノゾミカ?」
コーネル「ひっ......!」
ゾーイ「おっとすみません。つい興奮してしまいました。これはいけませんね」
「ヒトリと......村人全て。どちらが良いかは......まあ言わずもがな、ですね」
そういうと、ゾーイは村人の方へと歩き出した。
魔族への恐怖心が道を作る。
ゾーイ「次の満月の夜、村の奥にある洞窟でお待ちしています」
「天井に大きな裂け目がありましてね。そこから月明かりが差し込んで......さぞ、素敵な食事となることでしょう」
そして、人差し指を立てると
ゾーイ「ああ、それと......この村の周辺に結界を張りました。逃げることもできなければ......助けが来ることもありません」
「それでは、ごきげんよう」
***
カーティス「満月の夜......ということは、約束の日まではあと三日ということですね?」
コーネル「おっしゃる通りです。もし、生贄を差し出さなければ......この村は滅ぼされてしまう」
スピカ「......許せません」
ウィル「スピカ?」
スピカ「許せません! そんな......自分勝手に罪のない人達を......!」
そうだよな。怒るのも当然だ_____
まだ付き合いは浅いけど、スピカのことはなんとなくわかる。
彼女はきっと、この事態を見逃せない。
けど......
ウィル「なぁ、カーティス」
カーティス「なんだい?」
ウィル「魔族っていうのは......やっぱり強いのか?」
カーティス「そうだね......魔族といっても色々だが。話を聞く限り、知性がかなり高い。そして、結界術も使うとなると......恐らく上位の魔族。強敵だ」
やはり__
俺たちは......この世界にきてまだ日が浅い。
この世界のこともろくに知らないし、装備だって来た時のまんまだ。
戦闘だって野党と____最初に倒した"ヌシ"くらい。
こんな状態でもし戦えば......
スピカ「ウィルさん......!」
スピカが俺の腕を掴んだ。
手が__震えてる。
恐怖なのか、怒りなのか。
わからない......
わからないけど______
ウィル「カーティス......」
「俺たちは......勝てるか?」
絞り出すような俺の声をきいて、カーティスは"フッ"と笑った。
カーティス「それは......君たち次第だ」
よし___
ウィル「村長、その魔族......俺たちが何とかする!」
スピカ「ウ......ウィルさん!!」
やってやる。
正直、どうしたらいいかはわかんけね~けど。
ここは......絶対に逃げちゃダメだ。
コーネル「そ、そんな......ありがたい話ですが___相手は魔族です!
もし戦えば、きっと殺されます!」
ウィル「だからって、村人を差し出すわけにはいかないだろ?」
コーネル「そ、それは......」
コーネルはうつむき、両こぶしを握り締めながら震えている。
カーティス「ご安心ください。我々は、こういった事態には慣れていますから」
そういうと、カーティスは一冊の本を取り出した。
カーティス「そうと決まれば、早速準備をしよう」
「約束の時は三日後。それまでに......できる限りのことをするんだ」




