第6話 湖での出会い
ミリートを出発してから1日と少しが経過した。
ここまでの旅は至って順調。
こういう世界では、モンスターと頻繁に出くわすイメージだったが
酒場の店主いわく、この大陸は割と平和らしい。
危険な場所もあるにはあるみたいだが、街道を外れなければあまり心配ないそうだ。
それにしても、本当にどこまでも緑の景色が続く。
たまに見かけるのは小高い丘や、崩れた石造りの建物くらい。
夜には、こぼれ落ちてくるんじゃないかってくらいの星空が広がる。
都会に住んでた頃には拝めなかった風景だ。
スピカは終始上機嫌。
店主が包んでくれた飯が美味いってのもあるんだろうけど_____
*
スピカ「ウィルさん! あそこに看板がありますよ!」
走るスピカの後を追うと、そこには矢印型の立て看板があった。
ウィル「なになに......この先、アグネス。おぉ! じゃあもうすぐ到着だ!!」
スピカ「やりましたね! この世界で初めての任務達成です♪」
ウイル「それはまだ気が早いんじゃないか〜?
____もしかしたら、とんでもないことに巻き込まれるかも......」
スピカ「な、なんですかそれ〜!? やめてくださいよ〜」
ふっふっふ、慌ててる慌ててる。
スピカは本当に感情豊かでいいな。
ウィル「冗談だよ! 酒場のおっちゃんも言ってたろ?この大陸は割と平和な場所だって」
スピカ「も〜! ......ウィルさんは意地悪です」
ウィル「ゴメンって! そういえば村の近くに割と大きな湖があるって言ってなかったっけ?」
スピカ「そういえば! 湖が見えたら、村は目と鼻の先だって話でしたよね」
そんなことを思い出しながら街道沿いを歩いていると____
*
スピカ「うわ〜! 大きいですね!」
目にした瞬間、空気が変わった気がした。
向こう岸までは、距離にすれば200メートルほど。
街道の反対側は木々で覆われている。
眼を凝らすと、向こうの岸辺に小舟が繋がれているのがわかった。
遠いが、見えないほどではない。
ウィル「結構でかいな!向こう岸に小舟が見えるってことは......魚が釣れたりすんのかな」
スピカ「お魚!? _____ウィルさん!!魚釣りしましょうよ! 魚釣り!」
瞳を輝かせて手を上下にブンブンしてる。
本当、子供みたいだな。
ウィル「釣り竿なんて持ってないだろ?それと_____大切なこと忘れてないか?」
スピカ「は! そ、そうでした! まずはお届け物をしないとですね!」
やれやれ......
「おい! 聞こえね〜のか!!」
ん?向こうの......林の方から声がするぞ?
「てめぇ!? 死にて〜のか!!」
おいおい、なんか物騒なこと言ってないか!?
スピカ「ウィルさん! 行ってみましょう!!」
ウィル「お、おい! ちょっと待て!」
走り出したスピカを追いかけて、林の中へと入っていく。
すると、人が4人いるのが見えた。
3人が____1人を取り囲んでる。
「おい! いつまで無視してるつもりだこらぁ!!」
「もういいんじゃね〜か? 殺っちまおうぜ」
囲まれてる方は、目の前にある小さな石像をずっと眺めてる。
で......こっちは見るからに野党だな。
初日に出会ったスキンヘッドと同じにおいがする。
さて____どうしたもんか......
ザッ......
スピカ「こら〜!! そこの人たち!!!」
って、え〜!? ちょっ......スピカさ〜ん!??
「あぁん?なんなんだ、てめ〜ら」
スピカ「なんなんだじゃありません! その人、困ってるじゃないですか!!」
「困ってる!? こいつのどこが困ってるっていうんだ!」
確かに____
これだけ周りで騒いでるのに、まるで聞こえてないかのようにずっと石像を眺めてる。
「困ってるのはこっちなんだよ嬢ちゃん。こいつの身包み剥ぎて〜のに、さっきからずっとこの調子で、全く取り合っちゃあくれね〜」
「この際、あんたらでもいいんだぜ〜? _____持ってるもん、全部こっちに寄越しな!!」
あ〜仕方ねえ! こうなったらもう戦うだけだ!
スピカ「行きますよ! ウィルさん!」
ウィル「はい......よ!」
ヒュン!
ザシュッ!!
「ぐあ〜!!」
よし、まず1人目。利き腕を刺したからこれで問題は___
ーーユニークスキル《絶対殺すマン》発動ーー
ザクゥ!
「が、あぁ......」
バタン......
ウィル「あっ......」
「きょ......兄弟〜!!」
やべ〜!スキルのことすっかり忘れてた!!
「てめぇ!よくも兄弟を〜!!」
まあ、今回は仕方ね〜! 正当防衛みたいなもんだしな!
「うお〜!!」
ウィル「おせ〜よ!!」
ヒュン...
ーーユニークスキル《絶対殺すマン》発動ーー
グサァ!
「ぐ....おぉぉぉ」
よし! あとひとり......
ってあれ?____嘘だろ!? ナイフが抜けない!!
「死ねこらぁ〜!!」
マズイ!背後から......
スピカ「ウィルさん!!」
スピカの杖の先端が青く光輝く。
そして____それは氷の棘へと形を変えた。
バシュンッ!!
「がぁ〜!!!」
バタン......
シュゥゥ......
ウィル「すげぇ......背中にぶっ刺さってる」
出会った夜にこれを喰らってたらと思うと......ゾッとするな。
スピカ「大丈夫ですか!? ウィルさん!」
駆け寄ってきたスピカは俺の手を握って心配そうに見つめている。
ウィル「ああ。全く____こいつが抜けなかったせい......だっと!!」
俺は力任せにナイフを引き抜いた。
_____それにしても本当に危ないところだった。
ウィル「助かったよ!ありがとうスピ......」
そう言いかけた時、スピカの後ろに野党の姿が目に入る!
マズイ!まだ生きてやがったのか!!
「ぐ......おぉぉぉ!!!」
剣を振り下ろしてる!
くっ!!間に合え〜!!!
ヒュンッ!
ーーユニークスキル《絶対殺すマン》発動ーー
グサァ!!
・・・・・・
バタン......
ウィル「くそ!往生際が悪いんだよ! ____スピカ!大丈夫か!?」
スピカ「ウィルさん......すみません。ちょっと油断しちゃいました〜」
ウィル「はあ......っておい! 背中から血が出てんじゃね〜か!」
スピカ「え? 通りで......ちょっと痛いわけですね〜」
斬られたのになに笑ってんだよ。
下手したら死んで......
スピカ「でも......大丈夫ですよ。ほら?」
そういうと、スピカの傷口の周りが淡い光に包まれる。
そして_____
次の瞬間、傷はスッと消えていた。
ウィル「そっか。そうだったな......それもすっかり忘れてたよ」
スピカ「え〜忘れてたんですか〜!? もしかして____ウィルさん、勉強苦手ですね?」
ウィル「はぁ.......なんでそうなるんだよ」
まったく。街道を外れた途端にこれかよ。
いや、今回は俺たちが自らトラブルに飛び込んだだけ____か。
?「ほう? これはまた......随分と面白い現象だな」
ウィル「うおぉぉぉぉ!?」
な、なんだ!?
ってこいつ、さっき襲われそうになってた奴か!
......こいつのこともすっかり忘れてた。
?「傷口が完全に塞がっている......魔法を使った形跡もない。一体これは......」
スピカ「ウ、ウィルさ〜ん......なんかジロジロと見られてますぅ(涙)」
ウィル「ちょ、ちょっとあんた! いきなりそんな......女の子を舐め回すように見たらダメだろ!」
俺が訳のわからないことを口にすると、そいつは立ち上がってこっちを見た。
?「いや、これは失敬。 随分と興味深かったものでね。ついつい夢中になってしまったよ」
「それと......キミも随分と面白い。相手を殺すまでの所作......全く迷いがなかった。
もしかして____闇の羽衣の方かな?」
ウィル「やみの......はごろも?」
?「おや? その反応を見るに、どうやら違うようだね。いや、失敬失敬。」
ツバの広いハットに、左目には金縁の片眼鏡。
銀色の髪は緩やかに背中まで伸びている。
身長は180を優に超えているだろう。
年齢は......若そうだけど随分と貫禄みたいなもんがある。
胸元には青い石がはめられた金色のネックレス。
着ているコートの背には、見たことのない紋章が刻まれていた。
ウィル「あんた......一体何者なんだ?」
?「おっと。これは、失礼。名乗るのが遅れてしまったね」
「私はカーティスという者だ。ここには少し、調べ物をしに来ていてね」
「____キミたちのことを聞いても?」
ウィル「俺はウィル。で、こっちは......」
スピカ「スピカです!」
カーティス「ウィルに......スピカ。よろしく、2人とも。」
「そうだ。面白いものを見せてくれたお礼に、少し面白い話をしてあげよう」
そう言うと、カーティスは、湖の前に立つ小さな石像へと目をやった。