第5話 マナポルタとはじめてのおつかい
スピカ「はぁ〜♪ 大満足です......♡」
メロウ鳥の香草焼きは、店主が言った通り最高に美味かった。
クオールのドリンクも、程よい甘さでグイグイ飲める。
異世界に来てから干し肉と、老夫婦の家にあった余り物のパンしか食べてなかったからな。
ちゃんとした食事にありつけるってのはホントにありがたい。
店主「美味そうに食ってくれてこっちも嬉しいぜ! あんがとよ!」
お礼を言うのはこっちのセリフだ。無料でここまでしてくれて......
ウィル「なあ。流石に全部無料っていうのは申し訳ないからさ、
せめてドリンク代だけでも払わせてくれよ」
店主「ん?律儀なにいちゃんだな! いいって言ってんのによ〜!」
取り敢えずメニュー表を見てみるか。
ウィル「え〜っと......クオールのドリンクは5銅貨____ん?50グレミル?表記が2つあるぞ?」
「メロウ鳥の香草焼き25銅貨____こっちは250グレミルだ」
俺はポーチの中から銀色のコインを全て取り出した。
ウィル「1、2、3、4....5枚か。銀色ってことは......これは銀貨ってことなのか?」
店主「お!?にいちゃんは現金派なのかい?」
ウィル「え? どういうことだ?」
店主「どういうこともなにも......ほれ! あっち見てみな!」
店主が顔を向ける方に目をやると、
さっきまで楽しそうに飲んでいた冒険者風の男が店を出ようとしていた。
ん?なにかカードみたいなものを取り出したな。
真ん中には_____石がついてる。
男がカードを店のレジにかざすと......
♪♪♪
「ありがとうございやした! またのご来店、お待ちしてまーす!!」
え?あれってもしかして......クレジットカードか!?
ウィル「なあ! あれって一体なんなんだ?」
店主「なんだあんちゃん?本当になんも知らね〜んだな! あれはマナポルタっていうんだぜ!」
ウィル・スピカ「マナ......ポルタ?」
店主「ああ!これまでの、銅、銀、金の通貨だと、かさばるし重いしで大変だっていうんでな?
15、6年前に作られたんだよ!」
「ほら、さっき魔法協会の会長の話したろ? そいつが10歳の時に発明した優れものでな!
あ、ちょっと待ってろ!」
そう言って店主は1度奥へ行くと、
再び戻ってきてカウンターの上に石のついたカードと小さな袋を置いた。
店主「こいつだ! カードと袋は対になっててな!
袋に入ってる残高分、このカードで支払えるって画期的な代物よ!」
す、すげ〜な。
異世界って魔法とかは使えてもこういうところって割と不便なイメージがあったんだが......
じゃあこのカードは、まんまクレジットカード(てかデビットカードか)みたいなもんで____
この袋は持ち歩く銀行口座みたいなもんなのか。
店主「支払うときはカードを袋にかざせばOKだ!店の場合はレジが袋代わりになってるけどな!」
スピカ「すごく便利なんですね!」
ウィル「いや、てかスピカは知らないのおかしくないか?
これまで散々食って飲んでを繰り返してきたんだろ?」
スピカ「は!? す、すみません......食べるのに夢中であまり考えてませんでした」
店主「別に変ではないんだぜ? 今でも現金で払うやつはそれなりにいるからな。
こういう技術は“信用できない”って言ってよ」
「だから、どの店でも“硬貨○枚”と“グレミル”の両方を表記してるんだ。
ちなみに銅貨は1枚10グレミル、銀貨は1000、金貨は10000ってとこだな!」
ウィル「じゃあ、現金払いのときは別で管理するのか?」
店主「い〜や! この袋の便利なところは他にもあってな! 袋に現金を入れると自動で残高として計算してくれるし、袋から必要なだけ硬貨として取り出すこともできるんだ!」
「しかも、どんだけ現金を入れても重さは全く変わらね〜しな!」
マジかよ!? なんかそれ......某漫画のキャラクターが持ってるポケットみたいなもんじゃね〜か!
店主「どういう原理だかはよくわかってないんだけどな。なにしろ天才様が作ったもんだしよ!
まあ、あまりにも便利だっていうんで、今じゃあ世界中で使われてるんだ!」
確かにこんなに便利なら使わない手はないよな。
俺がいた世界だって支払いはスマホって感じだったし。
店主「銀貨5枚ってことは5000グレミルか_____
あんちゃん、北を目指すならそれだとちぃっと心許ないな!」
ウィル「そうなのか?」
店主「ああ! にいちゃんなんにも知らなそうだから、地図で説明してやるよ!」
そういうと、店主は壁に貼ってある地図を外して持ってきてくれた。
店主「今、にいちゃんたちがいるのはシルフィーナ大陸! 3つの大陸のうちのひとつで地図の左下にある。で、ここがミリート。大陸の少し右下あたりだな。」
「ミリートを出て北北西の方角。地図でいうとここだな! ここで船に乗ってこの地図の真ん中にあるバカデカい大陸、グローリアへと向かうわけだ!」
ウィル「ミリートから直接ユークラテスへ向かう船はないのか?」
店主「その左右の海域はかなり荒れててな! 直接向かう航路ってのがないんだ!
だから一度、グローリア大陸にある恵の街、フルメシアに行かないといけねえ!」
「で____問題は渡航費だ。商人は許可書を持ってるから安く乗れるんだが......
一般の乗客は15000グレミル必要なんだ」
ウィル「い......15000!? じゃあ俺とスピカの2人分で____30000グレミル!?
全然足りないじゃね〜か!!」
店主「まあこればっかりは仕方ね〜な! でな、よかったらひとつお使いを頼まれちゃくれね〜か?」
スピカ「お使い......ですか?」
店主「ああ! 港町へ向かう途中にアグネスって村があるんだがな。そこの村長に届け物をしなきゃならないんだ。船賃......とまではいかね〜けどよ! 銀貨3枚に道中の飯も包んでやるよ! どうだい?」
銀貨3枚なら3000グレミルか......届け物だけでそれだけもらえるのはありがたいが____
ウィル「スピカ。この街の宿代って一泊どれくらいだった?」
スピカ「宿ですか? え〜っと......確か銀貨1枚だったと思います」
ってことは1000グレミルか......
ウィル「なあおっちゃん。ありがたい話だけどさ......
ただのお使いで3000グレミルって_____かなり良い値段なんじゃないか?」
店主「なんだ、遠慮してんのか!? むしろこっちとしてもありがて〜のさ! 村までは歩けば1日半はかかる。往復だと3日だ! それに......俺が行くってなると店も閉めなきゃいけなくなるからな!」
ウィル「でもよ......会ったばかりの俺たちのことをなんでそんなに信頼してくれるんだ?」
店主「それは......感だな!」
ウィル「か、感!?」
店主「ああそうだ! 俺は昔、冒険者をやっててな! それなりに色んな人間を見てきたが......あんたら、なかなか良い面構えしてるぜ? 俺の直感が言ってる! あんたらは信用していい人間だってな!」
ウィル「......でも引きこもりだぜ?」
店主「今は違うだろ! 一歩踏み出したんなら_____もうどこへだって行けるじゃね〜か!」
なんて熱いおっちゃんだ。
......すげ〜な。ホントになんでもできそうな気がしてくる。
スピカ「そうですよウィルさん!? 私たちの可能性は無限大です!!」
ウィル「......なんでスピカがそんなに偉そうなんだよ」
店主「ガッハッハッハ!!いや!嬢ちゃんの言う通りだ!
まあ、もうちょい筋肉は増やしたほうがいいけどよ!!」
*
こうして俺たちは、アグネスへと向かうことになった。
ところで......
1泊1000グレミルの宿に1日の食費代____
5000グレミルじゃあ一週間も生活できるわけがない。
気になったので聞いてみたところ、スピカは最初から金貨1枚(10000グレミル)持っていたという。
......この差は一体なんだんだ。
あの女神____次に会うことがあったら絶対文句言ってやる。