第4話 そして物語は動き出す。目指すは北の大地
地方都市ミリート
石畳の道が太陽の光に照らされ、赤茶けた屋根の家々が並ぶ。
通りのあちこちでは露天商が声を張り上げ、
香ばしい焼き串や甘い果実酒の匂いが風に乗って漂ってきた。
「規模こそ小さいが、露店と商人で賑わう活気あふれる都市」
それがミリートだ(スピカ談)
*
昨日、運命的? な出会いを果たした俺とスピカは、
日の出とともに惨劇のあった家を後にした。
死体はどうしたのかって?
もちろん、夜のうちにちゃんと埋めてきた。
流石にあのままにしておくのは気が引けたし......
安らかに眠れたならいいけど(あのスキンヘッドはともかく)
そういえば、あのエルフにはなにもしてやれなかったな____
ちゃんと仲間が埋葬してくれたのだろうか?
*
「ウィルさん! 教会はこちらですよ」
スピカに連れてこられたのは、白壁に青い尖塔がそびえる小さな教会。
ステンドグラスから差し込む光が床を彩り、中央に設置された水晶が柔らかく輝いていた。
「ここでスキルの確認ができるのか」
「はい! あの水晶を使うんですよ♪」
そういうと、スピカは俺の手を取って水晶の元へと連れていく。
ホント____一度刺されてるのに命知らずだなこの子は。
「ここに手をかざして、深呼吸……はい、どうぞ♪」
スピカの案内に従うと、水晶が微かに脈打つように光り出した。
・・・・・・
「お、なにか浮かび上がってきたぞ」
・・・ーーー・・・ーーー
ーーユニークスキル
《絶対殺すマン》ーー
ーー致命の一撃を与える
ーーー・・・ーーー・・・
......え?
そ、それだけ?
スキルの詳細ってこんだけなの!?
もっと詳しく教えてくれるもんなんじゃあないのかよ!!
「致命の一撃......それって____誰かれ構わずってことですか〜!?」
なんか、スピカの顔が"ムンクの叫び"みたいになってる。
「いやいや! そうだとしたら通りすがりの人間、みんな死んでるだろ!」
「......なにかしら発動条件はあるんだろうが____はぁ、結局無駄足か」
正直、かなりがっかりな結果だ。
ここで何かわかれば、対処法も考えられたのに。
「さて......これからどうするか」
「......ウィルさん、ここは酒場に行くのはどうでしょう?」
「酒場?」
「はい! 情報集めと言ったら、酒場が定番ですよ!」
「確かにな......俺はここにきたばかりで知らないことだらけだし」
「私だってほとんど何も知りませんよ〜」
「でも、スピカは一週間も前にここにきてるんだよな? ......その間、なにしてたんだ?」
「う!? そ、それは____」
なんだ?なんか、凄く言いづらそうな顔してるな。
もしかして......聞いちゃまずかったか?
「食べ歩き(ボソ)」
「へ?」
「食べ歩きしてたんですよ〜!!この街、露天なんかも凄く多くて!____
目につくものは全部美味しそうですし......」
「ほ〜う?」
「うぅ......そんな顔で見ないでくださいよ____」
「そんな食べ歩きの達人スピカ様が、どうして夜遅くにあんなところを彷徨ってたんだ?」
「な、なんですか達人って!!それはですね_____沢山食べて、宿に泊まってを繰り返していたら、あっという間にお金が尽きてしまいまして......」
「なるほどな。完璧に理解した」
「うぅ......」
「まあとにかく情報集めないとな。金の問題もあるし。
スピカの話だと、普通に生活してたら多分2週間で路銀が尽きる」
「え?私は1週間でしたよ?」
「俺はそんなに爆食いしないし」
「も〜!」
膨れっ面して怒ってやがる。
可愛いやつめ。
取り敢えず酒場に行くとするか。確か、教会にくる途中にあったはず____
*
___酒場・隻眼の赤鬼
お〜結構賑わってんな!
木製の扉を開けると、店内は活気で溢れていた。
冒険者風の男たちが大声で笑い、吟遊詩人が小さな竪琴をつま弾く。
壁には数々の武器や古地図が飾られ、床板は踏み鳴らされて軋んでいた。
「真昼間から飲んでるやつは、どこの世界にもいるもんだな」
「カウンターが空いてますね!取り敢えずあそこに座りましょう」
スピカと端のカウンター席に着くと、酒場の店主らしき男がカウンター越しに向こうからやってきた。
かなりガタイが良く、特徴的なあごひげだ。
「おう、いらっしゃい!何にする?」
酒は____取り敢えずやめとくか。
弱いってわけでもないけど、何がスキルの発動に影響するかわからんし。
「これから用事があるから酔っ払いたくないんだけど......なんかオススメはある?」
「酒場に来たのに酔いたくない? にいちゃん面白いこと言うな!」
「それなら、クオールの果実で作ったドリンクがオススメだ!」
「クオール......?」
「なんだ? まるで初めて聞いたみたいな顔して!クオールはここらの特産品だろうがよ!」
「いや......ずっと家に引きこもってたせいで、あまり外のことに詳しくなくて」
まあ、これはある意味嘘ではないな。家でゲームばっかやってたし......
「そうなのか?だからそんなにヒョロっこいのか!
ちゃんと食わね〜と身が持たないぜ!もう飯は食ったのか?」
「いや、まだだけど」
「見ない顔だし、ここは初めてなんだろ?なら特別サービスだ!
このメニューの中から好きなもの選びな!今回は無料で食わせてやるよ!」
「え? ......いいのか?」
「あぁ! 俺は出会いを大事にする男だからな! 隣のお嬢ちゃんも好きなもん頼むといい!」
「えぇ!? それじゃあ......お言葉に甘えて♪」
めちゃくちゃ目を輝かせてるな。
まあ、異世界にきてずっと食べ歩きしてたくらいだし。
それに____
元いた世界では、あんまり好きなもんとか食えなかったのかもしれないしな。
「ウィルさん!このメロウ鳥の香草焼きっていうのが凄く美味しそうです!!」
「確かに気になるな......じゃあ俺も同じのを」
「お、目の付け所がいいな! それはうちの看板メニューだ! 食ったらぶっ飛ぶぜ!!」
「メロウ鳥の香草焼き2つ頼む!」
そう言うと、店主は一度奥へと戻っていった。
「それにしても......こんな呪われたスキル持ちで、これからどうしたらいいんだよ」
「困りましたね。詳しいことはわかりませんでしたし......
発動条件がわからない以上、安易な行動も取れませんしね」
「はぁ......」
「クオールのドリンクだ! お待ちどう!」
そう言うと、店主はカウンターの上にドリンクを2つ豪快に置いた。
「どうした、にいちゃん? 浮かない顔して」
「あ〜いや......さっき教会でユニークスキルの鑑定をしてもらったんだけどさ____もう最悪で」
「なんだ? 悪いスキルでもついてたのか?」
「悪いと言うか......もう呪いだよ」
「呪い!? そりゃまた随分と物騒な話だなおい!」
「本当そうなんだよ......」
俺が困ってるのを見て、店主は腕を組んでなにか考え始めた。
「そういえばよ、こんな噂があるぜ! ここから遥か北にある大陸"ユークラテス"には、神に祝福された古代の神殿があってな? そこでは、一度だけ"神から授かった恩恵"を別のものに変えることができるらしいぜ!」
「なに!? 神から授かった恩恵って......ユニークスキルのことだよな!? そんな場所があるのか?」
「ああ、そうだ!まあ、あくまで噂だけどな!だが、今の魔法協会の会長は、そこで良いスキルを引き当てて成り上がったって話だぜ?まだ25、6だってのに魔法界の頂点に立っちまうくらいだからな。単なる噂ってわけでもなさそうだが」
「なるほどな......ってか引き当てたってことは、そこはガチャ要素なのかよ」
「でも、もし噂が本当なら____そこでならウィルさんのスキルを変更できますね!」
「ついでに......私のも♪」
「やっぱり......不死身は嫌なのか?」
「はい!王子様より先に死にたいので♪」
ホント、底なしに明るいな。
1人でうじうじ悩んでるのがバカらしくなる。
「じゃあ、決まりですね! 一緒に行きましょう! 北の大陸、ユークラテスへ!!」
「一緒にって!? ......本当にいいのか? 俺なんかと旅して」
「何言ってるんですか! ウィルさんと無事に旅ができるのなんて私くらいですよ!? それに......」
?
「この世界に"2人"しかいない転生者じゃないですか! 仲良くしましょう♪」
仲良くしましょう......か。
この世界でも、結局仲間はできないのかって諦めてたけど____
キミとだったら。
「よし。じゃあ行くか!ユークラテス大陸へ!」
「はい!でも、まずは腹ごしらえからですね♪」
***
ユークラテス大陸の更に北
世界の果て・龍の住まう孤島
「感じるな......2人。また、懲りもせずに送り込んできたのか」
「そういえば、遥か昔にあの女が言っていたな。異世界への転生者は俺を含めて"3人"までと」
・・・・・・
「まあ......慌てる必要はない。もうすぐ大願は果たされる」
「その前に____消しにいけばいい」