第16話 千両役者
ブシャァァァァ!!
黒い血しぶきが勢いよく吹き出すと、ウィルはとっさに後方へと下がった。
ウィル「手ごたえはあった......けど.......」
緊張感を保ち、じっと前を見据えるウィル。
目の前には、自らの血しぶき浴びながらも、怒りに震えるゾーイの姿があった。
ゾーイ「キ.......キサマ......ヨクモ........」
「ヨクモコノワタシ二キズヲツケタナァァァァ!!!」
けたたましい咆哮が洞窟内に響き渡る。
その圧によって、空気とともにウィルの全身が一瞬震えた。
ゾーイ「オット......イケマせん.......コレハ......いけませんね」
「イ......怒りで我を失うところでしたよ」
ゾーイは自身を切りつけたウィルをジッと見つめた。
ゾーイ「素直に褒めてあげましょう......このワタシに傷をつけたのですからね」
「そして......そこに至るまでの過程も見事なものでした。あれだけの球体を一瞬で切り抜け.......」
そう言いかけたところで、ある疑問が頭を過る。
(おかしい......あの数の球体だぞ? それを、一直線に切り抜けてきた。ワタシへと通じる道ができたその瞬間に______そもそもなぜ.......そんな隙間が?)
考えを巡らせながらふと前方に目をやると______
ゾーイは結界内の大きな異変に気が付いた。
ゾーイ「球体が......全て消えている!?」
その言葉に反応し、ウィルは後方を見渡す。
先ほどまで結界内に多く存在していた黒い球体。
だが、その全てが今は姿を消していた。
(マジか......本当に消えてやがる! ってか、目の前に現れたでかい球体も一瞬で消えたよな......これって......)
ゾーイ「これは......いったいどういう........」
ゾーイが視線を奥へとやる。
すると________
そこには、不敵に微笑むカーティスの姿があった。
ゾーイ「オ......オマエダッタノカ......!」
ゾーイを覆う体毛が一瞬のうちに逆立つ。
(オマエか......ワタシに気づかれないよう、必要な球体だけを消し......ワタシへと通じる一本の道を作っていたのか! そして______ワタシがウィルを迎撃するために作った球体.......更には、結界内にある全ての球体を一瞬で消し去るとは.....! じゃあ......これまで球体を消すのに時間がかかっていたのも......最初にワタシを挑発して醜態を晒したのも全て.......)
ゾーイは持っている杖をカーティスへと向けた。
ゾーイ「道化め......! キサマ、力を隠していたな!」
(すげぇなカーティス! まさかここまでやる奴だったとは! 最初にあいつを挑発した時は内心焦ったけど......それも全部計算づくだったのかよ!)
憤るゾーイをカーティスは鼻で笑う。
カーティス「お前たちのような卑しい魔族には十分過ぎる対応だよ」
「それにしても.......随分とダンスが上手いんだな」
ゾーイ「ダンス......ダト?」
カーティス「踊ってくれただろう? 掌の上で........クルクルと」
カーティスは本の上で右手の指を躍らせながら笑った。
ブチィ......!
ゾーイ「キサマァァァ!! ナメルノモイイカゲンニシロォォォォ!!!」
雄叫びとともに持っている杖を地面へと押し当てる。
「怨(オ"ーン)」
次の瞬間、カーティスを薄紫色の結界が覆った。
幾重にも紋章が絡み合うそれは、まるで牢獄のようだった。
カーティス「これは......」
内側から手を触れるが、結界の外へは届かない。
ゾーイ「フゥ......イケない、いけない。また......取り乱すところでした」
「アナタは......危険すぎますね。ワタシの本能が囁いています。アナタを自由にしてはいけないと」
そう言うと、ゾーイは人差し指をカーティスへと向けた。
ゾーイ「その結界には、大量の魔力を込めています。私が持つ全魔力の......7割と言ったところでしょうか」
「流石のアナタでも.......その結界は解けませんよ。そこからは決して出られない。もちろん......手を出すことも......ね」
ゾーイは杖をゆっくりと振り上げると______
ゾーイ「アナタのことは後回しです。まずは他のふたりから.......」
「順番に消してあげましょう!」
地面へと一気に押し当てた。
結界内の紋章が______
再び黒い光を放つ。