第15話 天使の翼
ゾーイ「妙ですね......」
戦況は圧倒的に優位。
にも拘わらず、ゾーイはこの状況に違和感を覚えていた。
(ワタシの放った球体......思ったよりも数が増えていない。これは一体どういうことでしょう)
ゾーイはウィルの後方にいるふたりを見つめた。
ゾーイ「彼女は......違いますね。そんな素振りは見せていない」
「ということは......」
その視線は、カーティスへと移される。
ゾーイ「彼......ですね。本を開いているということは、杖ではなく"あれ"を媒体にしてワタシの魔術を相殺しているというわけですか」
「どういう魔法かは知りませんが......なかなか頑張りますね」
「ですが......」
ゾーイはカーティスの表情を確認すると、思わず笑みをこぼした。
ゾーイ「あんなに必死な顔をして......どうやら、全く余裕などないようですね」
「想定よりは遅いですが、球体は数を増している。まあ......所詮無駄なあがきです」
余裕の表情を浮かべるゾーイとは対照的に、ウィルは神経を研ぎ澄ませる。
"その瞬間"を決して見逃さないように。
カーティス「いいですかスピカ。 私が合図したら、ウィルに"あの魔法"をかけてください」
「一瞬の遅れが致命的になります......集中してくださいね」
スピカ「わかりました!」
スピカは、杖を構えた。
カーティスの合図に即座に反応できるように。
ウィルの前方では、黒い球体が更に数を増してゆく。
だが、そこに焦りは一切ない。
(あっちのも、こっちのも.......あそこのも消えた。多分.......あと少しで)
球体自体は減っている数よりも、増えている数の方が多い。
だが、直線上にいるゾーイの姿がウィルの目にハッキリと映る機会が増えてゆく。
それは、意図的に狙いをつけて球体を消していたカーティスの思惑によるものだった。
(よし、あとはあれだ。あれさえ消えれば.......)
結界内で無差別に反射を繰り返す黒い球体。
だが、そんな混沌とした状況の中_______
ウィルからゾーイまでの間に一直線上の道ができる。
阻む球体は___
ひとつのみ。
カーティス「スピカ!」
カーティスの叫び声とともに、ウィルの視界を阻んでいた最後の球体が消滅した。
スピカ「エンジェルウィング!!」
呪文を唱えると、ウィルの背中が白く輝いた。
その光は、大きな天使の翼へと姿を変える。
ビュゥゥゥゥン!!
開けた視界。
人ひとりが通れるギリギリの隙間を縫って、ウィルはゾーイの元へと一直線に飛んで行く。
あっという間に球体を置き去りにすると_______
「アウルスガーレ!」
持っているナイフに風の刃を纏わせた。
ウィル「終わりだ!!」
ゾーイ目掛けてナイフを振り抜こうとしたその時________
ヴヴヴゥゥゥゥゥンン.......
ウィルの目の前に大きな黒い球体が出現する。
ゾーイ「よくここまで来れましたね。褒めてあげます」
「ですが......攻撃する権利を与えるとは言いましたが......反撃しないとは言ってませんよぉ?」
ウィルは既に攻撃態勢に入っている。
もう______止まることはできない。
ゾーイ「さようなら」
ウィル「く......くそぉぉぉぉ!!!」
ウィルの死を確信し、悦に浸るゾーイ。
だが________
パァァァァァン!
ゾーイ「......は?」
突如、大きな黒い球体は跡形もなく消え去った。
(消えただと!? 一体なにが起こって......)
状況を理解できずに目を見開くゾーイ。
だが、その目の前には_______
ウィル「うぉぉぉぉぉぉ!!」
ズバァァァァァァァ!!!
振り抜いた渾身の風の刃がゾーイの身体を切り裂くと____
黒い血しぶきが宙を舞った。