第4話 名前を呼ぶ声
春の陽光が柔らかくキャンパスを包み込む午後、駿と風花はいつもの帰り道を歩いていた。通り抜ける風はほんのり暖かく、桜の花びらがひらひらと舞い落ちては地面にそっと積もっている。
二人の間には、言葉にできない微かな緊張感が漂っていた。昨日まではただの友達だったけれど、今日は何かが違う予感があった。
「ねえ、駿」
風花がぽつりと口を開いた。
駿は顔を上げ、少し驚きながらも彼女を見つめる。
「好きだった?」
その一言はまるで風に乗って、彼の胸の奥に静かに響いた。
「好きだった?」と繰り返す風花の声は、どこか遠く、震えるようで、それでいて真剣だった。
駿はしばらく言葉が出なかった。昔の淡い想い、すれ違った時間、すべてが胸の中で絡まり合う。
「……昔から?」
風花は小さくうなずいた。
「うん。中学の頃からずっと」
彼女の瞳はまっすぐに駿を見つめ、その目の奥には真実と、どこか隠しきれない不安があった。
駿は呼吸を整え、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺もだよ。ずっと……好きだった」
その言葉を告げた瞬間、長い間閉じ込めていた何かが、ふたりの間に溶け出していくようだった。
風花の瞳に、ふっと涙がにじんだ。
それは悲しみではなく、救いの涙だった。
駿はそっと風花の手を取り、温かく包み込む。
「風花」
「駿」
お互いの名前を呼び合うその瞬間、二人の心が深く結びついた。
桜の花びらが舞う中、風花の頬に触れた手が震えながらも温かく、そして確かな未来への一歩を感じさせた。
「これからは、ちゃんと伝えよう」
風花がそう呟くと、駿は微笑み、優しくうなずいた。
春の風が再び吹き抜け、二人の心を優しく包み込んだ。