厳冬特別編・彼に性別バレしたら その5
「ふふ……さらに私は、場に氷結状態のモンスターが一体以上いる事で、手札から“氷原の山姥”を召喚!」
相手の場に、さらにモンスターが召喚される。
顕れたのは白い毛皮の大きな獣のようなモンスター……一見するとシロクマのような姿に見えるが、顔は夜叉面のような歪んだ鬼面であり、両腕には巨大な包丁のような爪が生えている。胸から足にかけての毛皮は赤く、それはまるで犠牲者の血で半身が染まっているかのようだ。
もし雪原でばったり出くわしたら心の底からびびりそうな見た目である。
なるほど、氷結状態のモンスターはただ無力化しただけでなく、あちらのデッキの上級モンスターの召喚トリガーでもあるわけか。
がら空きの場で相手の攻撃を誘い、攻め込んできた敵を翻弄する氷雪デッキ……使い手である雪女と同じく、つかみどころのないトリッキーなデッキだ。
「さあ、バトルよ! 雪原ノ王と氷原の山姥で貴方にダイレクトアタック! これを防ぐ手段はあるかしら?」
「ち……っ!」
残念ながら、今の状況で有用な対抗手段はない。
私はドスドス走ってきた山姥が包丁のような腕を振り下ろしてくるのを甘んじて躰で受けた。流石に物理ダメージはなかったものの、立体映像ではない、鋭い冷気が体を横切る悍ましい感触。
低く呻いて身を縮める私を見下ろして、雪原ノ王が唸りを上げる。その咥内に白い光が集ったかと思うと、それはすさまじい冷気となって頭上から私へと吹きつけられた。
ビキビキ、と音を立てて手足が霜に覆われていく。瞼と瞼がくっつきそうだ。
「トウマッ!?」
「うふふ……どうかしら、雪原ノ王の冷気の味は? ……って、あら」
サディスティックな笑みを浮かべていた雪女が、きょとんとした視線を向けてくる。
それに対し、私はひきつった笑みを浮かべて見せた。冷気ではりつめた唇が切れて血が流れ、それも氷柱のようにすぐに凍ってしまうが……まあ、どうでもいい事だ。
ああ。確かに、なかなか刺激的な冷気だったよ。
だが生憎様。私は、残念ながら体温が0度になっても死ぬことはない。ちょっと寒くは思うけどね。
「……本当に気味の悪い子供ね。これで私はターンエンド。この瞬間、雪原ノ王の効果発動。このカードはターン終了時、私の手札に戻るわ。氷原の山姥も同じくね」
雪女のフィールドに強い吹雪が吹き荒れ、その白い闇の向こうにモンスターたちが姿を消していく。そして吹雪が止んだ時には、彼女の場は空になっていた。
「また手札に戻った……で、でもこれでアイツの場はがら空きのままだ、やっちまえ、トウマ!」
「うふふ、残念。雪原ノ王は手札に戻るときに、私のトラッシュから“大霊峰の黒き影”を手札に戻す事が出来る。そして同時に、氷原の山姥は手札に戻るとき、トラッシュのトリックカード一枚を手札に加える事ができるわ。私は“妖精郷の氷鏡”を手札にもどす」
「そ、そんな……それじゃあ、攻撃してもさっきと同じことの繰り返し……!」
ダン少年が愕然とした声を零す。そう、最低でも3体展開しなければミラー・トークンとコピー・トークンの守りを打ち破れず、それでも相手の敗北には届かない。そして場に3体以上モンスターが居れば、再び大霊峰の黒き影で場のモンスターを無効化した上で雪原ノ王を召喚され、さらにそれを呼び水に氷原の山姥を呼び出される。さらに、雪原ノ王はトラッシュからでも特殊召喚できる。恐らく他に握っているカウンターカードのコストも兼ねている。
完全にサイクルが出来上がってしまっているといえる。カウンター型のデッキは手札消費の激しさが欠点だが、雪女のデッキはそれを上手く補っているようだ。
それを理解したのだろう、ダン少年が心配そうな視線を向けてくる。
「トウマ……」
「ふぅ……やれやれ。ダン少年、君はもう少し、私の事をわかってくれていると思ったがね?」
「え……」
傍目からは絶体絶命の危機。だが、残念な事に、私には既にこの状況をひっくり返す手筈が揃っている……!
「私のターン、ドロー」
デッキからカードを引き、しかし私はその中身を確認する事なく、手札からあるカードを相手に提示した。
金枠の最上級モンスターカード。“GIA The NEURO”。
「な……何?」
「The NEUROの効果。このカードを手札から相手に見せる事で、私の場のカードを好きなだけトラッシュに送り、その数だけマジック・トリックに対する適応カウンターを増やす事が出来る。私は氷結状態のスターマインとイェーガーをトラッシュに送り、適応カウンターを二つ得る!」
吹雪く闇の向こうから、しゅるしゅると伸びてくる二本の触手。それは凍り付いて佇む二体の異星生物を絡めとると、闇の向こうへと戻っていく。
闇の向こうからガリボリと何かを貪るような音。それによってカウンターが二つ、増える。
これまで蓄積したカウンターは、アイス・スタラクライトの効果を受けたスナッチャーで一つ、大霊峰の黒き影の効果を受けたスターマイン・イェーガーで二つ。計三つだ。
これで五つのカウンターが揃った。
「な、何のつもり!? 雪原ノ王や氷原の山姥の召喚条件を満たせないようにするつもりかしら? おあいにく様、私を倒すためには貴方はモンスターを展開せざるを得ない。そこを狙えばいいだけの事よ!」
「いいや。今のは前菜さ。お前というメインディッシュを平らげる前のな。……マジック・トリックカードに対する適応カウンターが5つ以上あるとき! 私は手札からこのモンスターを特殊召喚する事が出来る……現れろ! “GIA The NEURO”!!」
ヒュウゥン、ヒュゥウン。
闇の向こうから奇妙な音を立てて、巨大な怪物が姿を現す。
鋭く前に突き出した恐竜のような顔……しかしその後頭部は異常なまでに膨れ上がり、はち切れそうな頭蓋骨には無数の亀裂や穴が開いている。その中からは、青白く発行する脳髄が脈動しているのがよく見えた。首から下の体は無く、代わりにいくつもの触手が生えてぶら下がりのたうっている。
脳機能に特化した、脳みそだけのインベーダー。それがニューロである。
そしてこの瞬間、私の勝利は確定した。
その事に気が付かぬ雪女が、NEUROの姿を目の当たりにして瞠目する。
「な……?! くぅ、この禍々しいオーラ……貴方、人間じゃない?! よくも私をだましたわね!?」
「失礼な。立派にちゃんとした人間だとも、少なくとも妖怪にだけは言われたくないぞ」
「減らず口を……だけど残念ね! 私にはちゃんと対策があるわ、私は手札から“屋根下の氷柱針”を発動! 相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、それを破壊する! 消えてちょうだい、デカキモ脳みそ!」
夜闇の宙から、無数の折れた氷柱が降ってくる。まあ確かに、冬の事故として屋根から降ってくる氷柱は有名だ。
だが……残念だけど、宇宙を生活の場にするインベーダーは、そういうのには無縁なんだ。
「The NEUROの効果発動。私の手札を一枚コストとしてトラッシュに送る事で、相手のマジック・トリックカードの発動を無効にする」
「なんですって!?」
NEUROの脳みそが光り輝き、振ってくる氷柱を粉砕する。吹雪の中に佇む怪生物を見上げて、雪女が顔を真っ青にした。それはそうだ、彼女にとってコイツの存在は最悪中の最悪。
彼女のデッキのキーカードである、大霊峰の黒き影、そしてそのサポートを行う妖精郷の氷鏡。このどちらかをNEUROに無効化されるだけで、形勢は逆転する。
「そんな……マジック・トリックカードを無効にするモンスター……?! で、でも、貴方の手札はあと一枚……!」
そう。手札をコストにする以上、無効化効果を発動できるのはあと一回。故に、彼女は“そう”せざるを得ないのだ。
「……っ、私の場にモンスターカードが一枚もなく、相手の場にのみモンスターカードがあるとき! 私はこのカードを相手ターンでも発動する事が出来る! “晴天の猛吹雪”! 発動コストとして手札を一枚トラッシュに送り、相手モンスター一体を破壊する!」
「再びNEUROの効果発動。手札を一枚トラッシュに送り、その破壊を無効にする」
吹き荒れる猛吹雪と、NEUROのサイコキネシスが激突する。それは引き分けに終わったが、雪女はその顔に喜色を浮かべた。
「やった、これで手札は0! もうその能力を発動する事は……」
「私はトラッシュの“GI リサイクル・スナッチャー”の効果発動。マジックカード一枚を手札に戻し、このモンスターを場に特殊召喚する」
「…………え?」
雪女が固まる。私はトラッシュから回収したマジックカードを手札に加えると、淡々とゲームを続行する。
「バトル。リサイクル・スナッチャーでダイレクトアタック!」
「嘘、嘘、うそ……きゃああ!?」
ムチのような触手が雪女を打ち、それに続いてNEUROが動き出す。収束するサイコキネシス、これが直撃すればこちらの勝ちだが……。
「NEUROでダイレクトアタック。これで終わりだ……!」
「ま、まだよぉ! 雪原ノ王の最後の効果を発動! 私のライフが1の時、ダイレクトアタックを受ける時、このモンスターを場に特殊召喚し、攻撃宣言を行ったモンスターとバトルする!!」
突如として雪原を突き破り、黒い巨体が出現する。天を衝く山のような巨体と、浮遊する脳みそが真正面からぶつかり合う。激突するサイコキネシスと、絶対零度の猛吹雪。
両者のステータスは同等。相打ちとなり、破壊されるNEUROと雪原ノ王。
「やった! 私の雪原ノ王は“大霊峰の黒き影”さえあればなんどでも呼び出せる! だけどお前のモンスターに自己再生効果はない! 私の勝ち……」
「私のモンスターが戦闘で破壊された事で、トリックカード“有機物再生槽”を発動。トラッシュからGI スターマインを特殊召喚する」
「…………は?」
ぺったん、と場に現れる白いインベーダー。星のようなその姿を前に、雪女が目を泳がせる。
「え、う、うそ。なんで? 私、私が押してたはずじゃない……? どこで、どこで間違えたの? あれ、でも、これ、どこをどうやっても、私の負け……?」
「残念だがそういう事だ。……詰んでいたのは、そっちのほうだったな」
「うそ、うそ、うそ、うそ……なんで!? なんでなの!?」
残念ながら、デュエルの世界はそういうものだ。
強い方が、勝つ。ただそれだけ。
私は無慈悲に、最後の攻撃を宣言した。
「これで終わりだ。スターマインで、雪女にダイレクトアタック!」
「きゃああああ……!?」
回転突撃するスターマインに突き飛ばされ、雪原に転がる雪女。
これにてゲームセット。
私はダン少年に振り返って肩を竦めて見せた。
「ほれ、勝ったぞ、この通り」
「え、えと……あ、ああ! 流石だぜ、トウマ!」
「ふふーん(ちょいちょい)」
拳を突き出して催促すると、最初ちょっとたじろいでいたダン少年だったが、すぐにいつもの調子に戻って拳を突き出してくる。拳と拳をちょんっ、と突き合わせるいつもの儀式。
まあ本気を出せばざっとこんなもんである。
ふっ。小娘相手に、少し大人気なかったかな?




