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カードゲームみたいなやつ  作者: SIS
悪逆のデュエリスト
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続・悪逆デュエリスト その2



「先攻は俺が頂く! 俺は手札から“スカウト・ブラックスーツ”を召喚!」


 デュエルが始まるや否や、マフィアはデッキから五枚のカードを引き抜き、モンスターを召喚する。


 現れたのは、人型のモンスター。サングラスをかけたスーツの男にしか見えないそれは、名刺を差し出す営業マンのように右腕を懐に差し入れている。が、よくみると懐の厚みは名刺ケースのそれではない。拳銃を隠し持った刺客、という事か。


 芸能のスカウトと、斥候のスカウトを掛けている訳か。面白いが、勝手に先攻を取るのはいただけない。


 抗議の意味を込めて審判を買って出た男を見るが、彼はサングラスの下でにやにやと笑みを浮かべるだけだ。


『どうした、嬢ちゃん。何も言わないから、てっきり先攻は譲ってくれるのかと思ったぜ』


 なるほど。そういう腹積もりか。


 まあいい。私は対戦相手へと視線を戻した。


「まだ俺のターンは終わっちゃいねえぜ、スカウト・ブラックスーツの効果発動! こいつの召喚に成功した時、手札からブラックスーツモンスターを召喚する。出ろ、“アサルト・ブラックスーツ”!」


 斥候が場を偵察し、現れるのは本命の戦闘ユニット。アサルトライフルを手にした黒服がさっそうと場に姿を現し、手慣れた動きでスカウトの横に並んだ。


 つまるところ、相手のデッキはいわゆるヒットマンデッキ、という事か。モチーフが分かったところで、コンセプトはよくわからないが。


 この世界の厄介なところだ。カードの総数が膨大すぎて、ちょっと相手のカードを見ただけではデッキの方向性が特定できない。


 まあ、私はやれる事をやるだけだ。


 デッキから引いた五枚のカードに目を通す。


 ……なるほど。今回は、そうやって勝て、という事か。


 手札の中にある、槍を持った二本角のモンスターに頷き返し、私は戦術を脳裏でくみ上げた。


「私のターン、ドロー。……私は、手札の“堕落の注ぎ手”の効果を発動。自分フィールド上にモンスターカードが存在しない場合、召喚権を放棄し手札のこのカードを相手に提示する事で、このモンスターを特殊召喚する事ができる。そして」


 私は手札の二枚、そしてドローで加えた一枚をも、相手の男に見えるように提示した。


「同様の召喚効果を持ったカードがさらに二枚。私はまず、“堕落の注ぎ手”二体を特殊召喚する」


『なんだと……自己召喚効果をもったカードが三枚だと!?』


 審判の男が驚く前で、三体のモンスターが一斉に召喚される。


 それは、酷く悍ましいモンスターだった。


 一見すると人型にみえるが、その腹部は大きく裂け、内臓の代わりに凶悪な牙が並んでいる。顔は半分が醜くケロイドのように爛れ、右腕はサソリの鋏のような異形。それでいて、女性らしい柔らかい膨らみを持った胸部、麗しい曲線を描く足、細くしなやかな指、爛れた顔に浮かぶマスカラの施された瞳と、アダルトでエロティックな要素も散りばめられている。


 エロとグロは相性が良いというが、これはまさにその典型といえよう。


「さらに私は、“酩酊の誘い手”を特殊召喚」


 続けて現れたのは、なんというか……毛皮の無い二足歩行するアリクイ、といった感じの奇妙な生き物だ。ひょろりと長い体に、同じくひょろりと伸びた口からは、細長い舌がしゅるしゅると出入りしている。胸元には乳牛のように大きな乳房がいくつもぶら下がり、こちらはこちらでエロティック、という概念を嘲笑うような奇怪なデザインであった。ケモナーならそれなりにいけるかもしれない。


 異形のモンスター達に、男達が露骨に顔をしかめる。


『うげえ……なんだあの気持ち悪いモンスター』


「子供が使うにしては背伸びしすぎだな」


 男達の気持ちも分かる。ゆらゆらと揺れながら、かすれた笛の音のような鳴き声を上げる怪物達は悪趣味にも程がある。これが使っているのが高身長のイケメン美女とかならともかく、チンチクリンの薄汚い小娘ではギャップもあってひたすら不可解な構図だろう。私もそう思う。


 だが、『悦楽』デッキの本領は、そんなデザインだけではない。


 申し訳ないが、一しきり不快なショーに付き合って頂こう。


「バトル。三体のモンスターで攻撃」


『くそ……だ、だが、スカウト・ブラックスーツは1ターンに一度、戦闘破壊されない効果があるぞ!』


 言葉通り、堕落の注ぎ手の攻撃を受けたスカウト・ブラックスーツは背後に吹き飛ばされながらもその攻撃に耐える。が、次の瞬間、背後から突き刺された鋏が胸を貫き、破裂するように消滅する。その様子に気を取られたアサルトの上から人型アリクイが襲い掛かり、鋭い爪でズタズタに引き裂いた。


「くそっ、俺のモンスター達が……!」


『だが、ライフまでは削れなかった! 落ち着け、あんな特殊召喚条件を持ってるモンスターがあのステータスな訳ない。概ねデメリット効果持ちだ、この勢いは続かない!』


「……その通り。私は手札からカードを2枚セットし、ターン終了。そして私のターン終了時、こいつらの効果が発動する」


 せめてもうちょっと形だけでも公平なフリをしてほしい。審判を半眼で睨む私の前で、召喚したモンスター達が光になって消滅する。


 手札に戻ったカードを、私は男に向けて提示した。


「こいつらは召喚されたターン終了時、場を離れ、相手の手札に加えられる。ほれ、受け取れ」


「は……?」


『自分の手札に戻るんじゃなくて、相手の手札に加えるぅ?! ボードアドバンテージどころかハンドアドバンテージまで失ってるじゃねえか、なんだその効果?!』


 呆れたような顔でカードを受け取る男。審判がこれがいかにイカれた効果か解説してくれる。


 そう、これが『悦楽』デッキ。


 普通の刺激は欲しくない、同じ刺激もほしくない、飛び切りの新しい刺激が欲しい。そんな概念が形になったような、好き勝手に振舞う我儘なカード群だ。


「……わ、訳が分からん……うげ」


 頭を抱えながら手札に目を向けた男が、露骨に顔をしかめる。概ね、手札に加わった奴らの、醜悪なカードイラストにドン引きしているのだろう。


 他のカードイラストと明らかに雰囲気違って浮いてるからなあ、あれ。


『ま、まあ、手札が増えたならいいんじゃないか? 効果自体は悪くないし、相手の場はがら空きだ。同じことして返り討ちにしてやればいい』


「そ、それもそうだな。え、ええい、気を取り直していくぞ。俺のターン、ドロー!」


 男が、デッキからカードを一枚引く。


 ……最初の手札は五枚。男はそこからモンスターを二体召喚して、そこに私が三枚加えた。そして今一枚引いたことで、手札は七枚。


 条件はそろった。


「対戦相手の手札が七枚になったこの瞬間、トリックカード“達成による衰退”を発動! この効果によって、手札が四枚になるまで選んで捨ててもらう」


「はぁ?」


 男が私の発動したトリックカードと手札の間で視線を往復させる。


 つまり三枚の手札を捨てろ、という訳だ。そうなれば当然、勝手に手札に加えられた私のカードを捨てるべきだと、考えるだろう。


 まあそれが罠な訳だが。


『待て! 明らかに今の一連の流れはコンセプトコンボだ! カードをよく見ろ、手札から捨てたら何か効果が発動するって書いてないか!?』


「ああ、その通りだな。『このカードが相手の手札、場からトラッシュされた時~』って効果が書いてある。化け物女はライフダメージ、アリクイ野郎はガキに1ドローだ。ち……どうする?」


『……ここはアリクイを捨てて、化け物女は温存だ。相手はもう一枚トリックカードを伏せている、それにさっきから変な動きばかりするデッキだ、また大量展開からの総攻撃をされれば危ない。ライフは極力温存していけ』


 おい審判。流石にそれは露骨に利敵行為だろう。


 とはいえ、そもそも最初からフェアな勝負ではない。黙って様子を窺う私を前に、相手は捨てるカードを決めたようだ。


 “酩酊の誘い手”と、他にカード二枚がトラッシュに送られる。それを受けて私はカードを一枚ドローし、相手から投げつけられた自分のカードを受け取った。


「変な効果ばっか使いやがって……へっ、だがテキストは最後まで読んだのかお嬢さん」


「何の事かな」


「すっとぼけやがって。テキストにはこう書いてあるぜ、「トラッシュされた時、プレイヤーは1ドローし、このカードをロストする」ってな。ははは、わかってるだろうな? テキストに従えなければ、ジャッジキルだ!」


 ロスト。


 墓地送りではない、所謂、墓地以外の所に送る、だ。


 除外とかそういう扱いである。だが、カードプールの増加によって第二の墓地どころか第三の手札と化すこともある現実のカードゲームと違い、この世界における除外は明確にカードが再利用不可能になる。


 何故か? 簡単だ。


「ロスト処理は物理的にカードを処分して使えなくする必要がある! ひゃははは、お友達とのお遊びごっこのつもりだったか?」


『だが俺たちは大人だからな、なあなあで処理するのは許されないぜ、分かってると思うがな』






「ああ。別に?」






 私はデッキケースのスイッチを入れた。ヴぃいい、とシュレッダーが起動したのを確認し、そこに手にしたカードを突っ込んだ。


 ばりばりばり、とカードが粉砕されていく。舞い散る紙屑を前に、男達が唖然とした。


「お……お前、お前ぇ!?」


『ば、ば、ば……まじで処分する事はないだろ!?』


 さっきまで煽っていたのもどこへやら、顔色を変えて非難してくる男達。


 さもありなん。


 この世界においてカードはただの紙切れではない。それそのものが大きな力を秘めた象徴なのだ。


 いくらルールで定められているといっても、それを本当に処分するのは普通はない。大抵は、ポケットの中とか、物理的に隔離してなかった事にするのがお約束だ。


 だが、そもそも、それでは済まさないといってきたのは男達の方である。


 それに、だ。


 前提として私の元には変なカードばっかり集まってくる、というのは周知のとおり。その集まってきたカードにロスト処置が記載されているのだから、それはもう、カードがそれを望んでいるという事で、ある意味合意の下ではないか?


「別に、気にするほどの事ではない。パックを1,2袋引けばすぐに補充できるしな。私にとっては自動販売機で缶ジュースを買うよりも安いコストだ」


「い、イカれてやがる……!!」


 失敬な。デュエルマフィアなんぞよりは、よっぽどまともさ。


 シュレッダーから吐き出された紙屑を払って、私は男に向き直った。


「さあ、続きをしよう」


「く、くそ……っ! キチガイの相手をするなんて聞いてねえぞ……っ!?」


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