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カードゲームみたいなやつ  作者: SIS
激闘! 襲来、ダークファイブ!
42/57

逆巻トウマの幸せな未来 その1



「……む?」


 私が目を覚ますと、清潔な白いベッドに寝かされている所だった。


 手足を思い切り伸ばしてもはみ出さないほどの広いベッド。


 見渡せば、贅沢な事に大部屋の個室であるようだった。広い窓からは、午後の穏やかな日差しがゆっくりと差し込み、クーラーがちょっと寒め、ぐらいの快適な室温を維持している。私はベッドの中でもごもご呻いて、重いシーツをえいっと跳ねのけて身を起こした。


「すぅ……すぅ……」


「む」


 と。そこでようやく他の人間が部屋にいる事に気が付く。


 ベッドの横に置かれた椅子で、マスターがすやすや眠っている。腕を組んで呑気に寝ている様子を見ると、なんだか無性に悪戯がしたくなってくる。


 私はいたずら心に突き動かされるまま、えい、とマスターの鼻をつまんで呼吸を阻害してみた。


「むぅ……もがもがもが……むぐぅ……」


「くふふふ」


 途端に寝苦しそうに顔をしかめるマスター。


 やがて息ぐるしさにか、鼻をつままれる痛みにか、ぱちり、とその目が開いた。正面から私はそれを見返しつつ、さっと鼻をつまんでいた手を後ろに隠した。


「おはよう、マスター。よく寝ていたな」


「……?」


「なんだ、寝ぼけているのか?」


 マスターの反応はいまいち要領を得ない。顔の前で手をぱたぱた振っていると、やがてその瞳が焦点を結び始め、ベッドの上で好き放題している私に視点を合わせた。


 そして。




「うわああああああああああああ!!! トウマちゃんが起きてるぅうううううう!! 看護師さぁあああああん!!!」


「みぎぃいいい!?」




 とんでもない音量の叫びを至近距離から叩き込まれて、私は耳を押さえてベッドの上にひっくり返った。鼓膜が破れるかと思った。




◆◆




 そっから後はもう大変だった。


 まず、茉莉さんが駆け付けてきて私を抱きしめてわあわあ泣くし、遅れてやってきた医者と看護師に検査室に運び込まれて色々検査を受けるし、それがひと段落して戻ってきたら今度はハナちゃんとダン少年がやってきてベッドの上で揉みくちゃにされるし、気が付いたら病室の外にマスコミが押しかけてきていて病院の人達に追い出されるし、その間半日以上ご飯食べられないし、もう散々だった。これなら最初マスターを起こさずにもうちょっと大人しくしておけばよかった。


 そんな訳で、私が事情と状況を把握するのは、一通り騒ぎが落ち着き、マスターから改めて説明を受けるまで待つ事になった。


「……それで、私は失血死寸前の状態で病院に担ぎ込まれたと」


「そうだよぉ。おかげで大変だったんだから」


 一通りの説明をしてくれたマスターは、ほうと、安堵にため息をはく。ここ数日ろくに飲食も喉を通らず看病にきてくれていたそうで、その頬はすっかり痩せこけている。少しだけ申し訳なく思った。


 マスターの話によれば、こうだ。岩田さんが長沢をぶちのめし解放された私だったが、やっぱり女児ボディであの失血量はかなりやばかったらしく、駆け付けた警察に保護された後は病院に直行。すぐに輸血を行ったものの、なかなか意識が戻らずそのまま昏睡状態が続いていたらしい。下手をすれば出血性ショックを引き起こしていた可能性もあり、自分で思っていた以上にヤバイ状態だったらしい。いやあ、自分の体は自分が一番よくわかってるなんて大ウソだね、改めて再確認だ。


 以降、実に三日もの間、私は意識不明状態だったらしい。そんなに寝ていたとはびっくりだ。その割にはあんまり躰の節々が痛くないのだが、これもまた若い体の特権だろうか。


 あとはその。


 正直、警察に保護されたらしいという事は身元についてもバレてるのかとか、病院の入院費用とか、いろいろ聞かないといけない事はたくさんあるんだが……私はとりあえず、一旦その事は棚に上げる事にした。ちょっと直視したくない。


「長沢とかどうなったんだ?」


「ああ、その事なら、岩田さん達から直接……あ、噂をすれば。今、病院の前にきてるって」


 タイムリーな事に、携帯に出たマスターからはそんな言葉。


 言われた通りに、5分もしない内に病室に岩田さんがやってくる。が、その背後には見覚えのあるふとっちょのおじさんと、人の好さそうな見た事あるけど初対面の男の人の姿があった。


 黒田さん(本物)である。


 岩田さんに率いられて病室に入ってきた二人。マスターが「ごゆっくり」と気を利かせて出ていき、扉が閉まった途端、二人の大人はその場に膝をついた。


 DOGEZAである。


「この度は、大変なご迷惑を!」


「本当に申し訳ありませんでした!!」


「ええっと」


 困惑して岩田さんに視線を向けると、彼はやれやれ、と首を横に振った。


「ええとまあ、気にしておりませんので。貴方達も被害者ですし。それより黒田さん、ご無事でよかったです。心配していました」


「はい、それについては、ええ。不幸中の幸いというか……」


「ほら、そういう訳だから顔を上げろTVマンども。大体こんな子供が大人に頭下げられて嬉しいわけがねえだろうが、逆に怖いわ」


 岩田さんのとりなしで、顔を上げて椅子に座る大人二人。


 いやあ、ちょっと意外。前世の感覚だと、TVスタッフってもっとこう太々しい上に常識知らずで礼儀知らずの印象があったからねえ。誠実というよりこういう畏まった対応は想定外だった。


 とにかくガチガチに畏まっている二人に促しながら話を聞く。


「つまり、本物の黒田さんは、薬で眠らされてロッカーに放り込まれていた、と」


「はい。全く申し訳ない。あの長沢という男は、うちのTV局の内情を把握していたようで……上手く潜り込まれてしまったようです。そもそも、あんな変装をしてまで他人がなりすましで潜り込んでいる、なんて想像だにしませんからね、普通。毎日顔を合わせているスタッフ達も、なんか変だな、と思っただけで流してしまったようです」


「他ならぬその筆頭が私でして……。今回は本当にご迷惑を。無事意識が戻られて心の底から安堵しています」


 なるほど。まあ、言いたい事は分かる。


 流石に長沢の行動はあまりにも常軌を逸していたからね。TV局のスタッフが犯行をしたのではなく、スタッフに変装していたとかそりゃ斜め上だわ。


 その長沢はどうなったんだろう。岩田さんに視線を向けると、尋ねなくとも察した彼が口を開く。


「長沢の奴は意識不明で病院に逆戻りだ。もともと、交通事故で意識不明の重体で1年以上入院していた奴なんだが、それが今度は別の理由でまた昏睡だ。相当衰弱しているらしく、意識が戻るかどうかはわからないらしい」


 なるほど、そういう事か。


 ダークファイブはこれまで、復活した死者で構成されているのが確認されている。ファラオのミイラ、ティラノサウルスの化石ときて、今度は意識不明の患者がよみがえってきた、という事か。一気にスケールが小さくなった気がするが、まあ、そういう奴が一人ぐらい混じっていてもいいだろう。


 逆に言うと、今後も長沢が目を覚ます可能性は低いという事か。警察も困っているだろうな。


 まあそれより今は気になる事がある。


「あの。ハナちゃんの番組はどうなるんですか?」


 私の質問がよほど想定外だったのか、TV局の大人二人は顔を見合わせた。


「ええと、まあ。こんな事があったので、正直、放映は見合わせようかと……」


「その。問題さえなければ、放映する事はできないでしょうか? ハナちゃん、きっとがっかりするので……ほら、私は背後にちらっと映っているだけだし、編集とかで消せません?」


「それはまあ、なんとでも……しかし、いいのですか?」


 気が進まなさそうな黒田さんの問いかけに、こくり、と頷き返す。


「ハナちゃんに、せっかくの体験を、悪い思い出だけで終わらせたくないんです。どうにか、よろしくお願いします」


「……わかりました! 私のディレクター人生にかけて、必ずや番組を成功させてみせましょう! 黒田、戻るぞ! 逆巻さんにここまで言わせてしまったんだ、ここで下がったらあらゆる意味で我々の名折れだ!」


「了解しました!」


 私の言葉が何か変な導火線に火をつけたのだろうか。


 やる気のオーラみたいなのを立ち昇らせて椅子を立つ二人。その瞳の奥には真っ赤な情熱の炎が燃えている、あっちっちーだ。


「申し訳ない、逆巻さん。我々はこれで失礼します! 必ずや、番組の放映にこぎつけてみせます、どうかご安心を! いくぞぉ!」


「はいっ!」


 そのまま、静かにしかし勢いよく退室していく二人。押し付けるように渡された高級そうな御菓子の箱を手に見送った私は、扉が閉じるのを確認すると岩田さんに目を向けた。


 彼はなんだかこちらに背を向けていた。その肩が、ぴくっ、ぴくっと震えている。


「なんだよぉ」


「……っ、く、くく! いやあお前、人をたきつけんのほんっと上手だな?」


「焚きつけた覚えはないが」


 徹頭徹尾ハナちゃんの為である。口には出さないが、番組が放送できないの、残念そうだったし。あくまで、彼女の為である。


「そういう岩田さんは、大丈夫なのか? なんか触手で貫かれてたでしょ」


「ふん、問題はないさ。闇のデュエルってのは思ったよりも律儀なもんだったな」


 鼻を触る岩田さんは、言葉どおり何か不調がある様には見えない。あの時、カードの効果でライフが既に0になっていた事で、ダメージ3のバーン効果は実質無力化されていた。よって、ダメージそのものも発生しなかった、という事か。


 まあ確かに律儀というか、変に気が回る仕様だ。


 イメージ的には、関係なくダメージ3相当のリアルダメージを与えそうなものだが……。


 いや、思い返せば。


 ジェーンの時もそうだった。あちらから仕掛けてきた、という事を考えても、闇のデュエルの決着に対する対応は非常に平等ではある。証拠隠滅を兼ねているとしても、いささか律儀すぎやしないか。


 どうにもその事実が小骨のようにひっかかる。


「……まあいい。それで、初めての闇のゲームはどうだった?」


「ふん。……まあ、ダンの奴が、考えなしにダークファイブを狩りだしてる、という訳ではないのはよくわかった。ああ、そうだとも」


 ぎし、と椅子を軋ませて肩を小さくする岩田さん。……落ち込んでる? もしかして。


「そんな危険な事に関わらず、大人に任せておけ、って意見は変わらない。だが、相手のイカレ具合を見誤っていた。まさかこんな事をしでかすとはな……自分の無能っぷりにもほとほと嫌気がさすぜ、近くに居たのにまんまと攫われてこのありさまだ」


「で、でも、岩田さんが助けてくれたから、私は助かったし……」


「それは結果論だ。あと少しでも遅れてたら、お前は確実に死んでいた」


 ううーん。どうしよ。岩田さん、凄く責任を感じてるみたい……。


 でもそれあんまり言い出すと、茉莉さん達にも飛び火するからなあ。暴走逆走車が突っ込んできたようなもんだし、あまり気にしても。


「俺はダンに協力すべきだったのかもしれん。一緒になって街を調べまわって、仕掛けられる前に叩き潰すべきだった。そうすれば、こんな事には……」


「ま、まあまあ。そんなタラレバの話をしてもしょうがないでしょ。それに今回の事があったんだ、警察も動いてくれるんでしょ?」


「……まあな」


 そこでようやく、陰鬱な雰囲気が少しだけ鳴りを潜める。ようやく岩田さんが顔を上げてくれたので私もほっとする。


「今回の奴が、完全にオカルトではなくて頭のいかれた精神異常者だったのが逆に幸いした。ファラオの一件もそういう奴の仕業、って事でまとまっていたのもあって、『ダークファイブを名乗る危険な迷惑集団が街に潜伏している』という方向でデュエルポリスが動いている。これで奴らも少しは動きに制限がかかるだろう」


「そっか、そりゃよかった」


「あと、ついでに言うとダークファイブも話通りならあと一人だ。つい先日、ダンが戦って倒してたらしい。……その顔だと、何も聞いてなかったか」


 いんや。全くもって。何も。微塵も。


 突然さらっとぶち込まれた情報に硬直する私。


 岩田さんはそんな私に意地悪そうな笑みを浮かべると、くっくっく、と笑った。


「くく。お前もそんな鳩が豆鉄砲くらったような顔をするんだな」


 気分的には鳩がアヴェンジャーガトリングガン撃ってきたような衝撃だよ!




「ごめんごめん、でもそんなに怒らなくていいじゃん?」


 翌日、お見舞いに聖君とハナちゃんを伴って現れたダン少年を問い詰めた返事がこれである。


 私は頭を抱えた。


「お前な……」


「いやいや、だって入院してる相手にそんな事話したら吃驚するだろ? だいたい忙しそうだったじゃん、前に来た時」


「本当の所は?」


 問いただすと視線を逸らそうとするダン少年。私はしゅるりと絡みつくようにして彼を捕縛した。


 ふはははは、ベッドが広いからと油断したな! すでにシーツの上は我が領土も同じ、間合いを詰めるなど一瞬で事足りるわ!


 おしおきの拳ぐりぐりを食らうがいいっ。


「ちょ、おま、放せってば!」


「うるさい、大人しく折檻されろ。ぐりぐりぐりぐり」


「いたたたたっ!? 力ないのに頭の骨が軋むっ!?」


 そりゃあ的確に頭蓋骨のつなぎ目を狙っているからな。


 と、全身でしがみついてダン少年をホールドしていると、ハナちゃんと聖君が割って入って私を引きはがしにかかってきた。


「はいはい、そこまで。病院では静かに」


「んーーー!!」


 流石に二人がかりでは分が悪い。大人しく引きはがされるも、ハナちゃんは憤懣収まらず、といった様子で私の頭を丸めた紙でぺちぺち叩いてくる。


 そんなに怒らなくても。そう思っていたら、何故か床で潰れてるダン少年もぺしぺし蹴られている。なんで。


「んん!!!」


「はいはい、ハナちゃんも落ち着いて。ダン君、君ももうちょっと考えて立ち回った方がいいよ。そのうち刺されるからね?」


「刺されるってなんだよ、蚊にか?」


 服についた埃を払って立ち上がってくるダン少年。そういえば最近、猛暑の影響で都心部には蚊が少ないらしいね。彼らの繁殖場となる小さな水たまりが高温になって煮えてしまうからだと聞いたが、本当だろうか。


「まあいい。事後承諾はもうしょうがない、何があったか話せ」


「わかったよ。船長と戦ったのは、そうだな。お前が目を覚ます一日前の事さ。街の博物館でさー」


「船長?」


 首を傾げつつも、ダン少年に話を促す。たどたどしい話に質問を重ねながら引き出したところによると、話はこうだ。


「……アームストロング船長? 月に初めて行った??」


「本人はそう言ってた。復活した理由は“我々の夢と希望を踏みにじり、停滞する現代社会に復讐する”とかいってた」


「ああー……」


 正直、その気持ちはとても分かってしまう。復活するに十分すぎる理由だ。


 ニール・アームストロング。


 アポロ11号の乗組員であり、私が生まれるよりも前、初めて月面に着陸した人類の一人だ。


 だがそれから何十年もたっても、人類の月面への進出は遅々として進んでいない。それはソ連の崩壊による国際バランスの崩壊もあるが、ひとえに人々の価値観、目指す方向が変わったという事もある。


 それは、好い悪いで片付けられる話ではない。だが、自らも惜しまず人類の発展の為に貢献した偉人からすれば、自由と無責任をはき違えた現代の政策や社会の有り様に物申す、という気分になっても仕方ないかもしれない。何を考えてるか理解不能ではあるが、先人の偉業すら合成映像で人類は月にいっていない、とか抜かす連中もいる世の中だ。


 少なくとも正当性、という意味ではファラオやティラノサウルスよりはよっぽどある。狂人は勿論論外だ。


 まあ、私は生きていた頃のアームストロングを知らないし、対面したのもダン少年だ。これ以上、想像であれこれ言うのはやめておこう。


「それでデュエルに?」


「うん。滅茶苦茶強かった。割と普通に負けるかと思った」


 しれっとダン少年がとんでもない事をいう。いやいやいや、主人公様がそんな事言っちゃ駄目でしょ!?


「でも勝ったんだよな?」


「勝ったっていうか……現場に居合わせた学芸員の人がさ、それは違う、って言い返したんだ。今は宇宙開発とかてーたいしてるし、人類はしんぽしてないように見えるけど、それはあくまで一そくめんであって、技術はどんどん前に進んでるって」


 うんうん唸りながら解説するダン少年。彼の年頃では難しい言葉ばかりだろうに、よく説明してくれた。私は素直に褒めるつもりで彼の頭をなでなでしてやる。


「難しい言葉をたくさんよく知ってるな」


「あ、えっ、いやっ。ば、馬鹿にするなっ!!」


「はははは、ごめんごめん」


 おっといけない。つい年上ぶってしまった。流石に同年代の同性に頭をなでなでされるなんて屈辱だよな。ところでハナちゃん、その感情が感じられないジト目はなんだい? その年からそんな目つきをしてたら将来がちょっと心配になるじゃないか。


「それで?」


「うん。その言葉になんか気持ちが乱れたのか、プレイングが急にへぼくなったのでなんとか逆転できた。最後になんか「そうか、俺達は急ぎすぎていたんだな……」とかなんとか。それで握手したら、満足そうに消えていった」


 当時の宇宙開発はいってみれば戦争の別形態だった。相手より先に月に到着するという目標のために、ほぼコストやリターンを顧みずに開発が行われた。だが、目的を達成したこと、ソ連が崩壊したこと、様々な理由から、皆が正気に戻ってしまった。狂気の宇宙開発は終わりを迎えたのだ。


 だが、技術は地上で進み続けた。


 アポロ11号に搭載されたコンピューターの性能がファミコン程度だった、というのは有名な話だ。今では、手のひらに収まるサイズの端末が、ファミコンが数十万台あってもかなわないような計算能力を持ち合わせている。技術は大きく進歩した。


 そして、宇宙の再開発についても再び目途が立ちつつある。世界は資本主義という毒に侵され夢を忘れたが、しかしその資本主義とて、リターンがあれば再び夢も見る。宇宙進出に具体的なリターンを見出せるようになりつつある昨今、再び宇宙開発の灯は燃え上がりつつある。それを、件の学芸員は真摯に語り、アームストロングはそれを理解し受け入れた。


 そういう事なのだろう。


「そうか。となると、これでダン少年はダークファイブを二人撃破したことになるんだな。大金星じゃないか!」


「ああ! へへーん、どっかの誰かさんはまんまと捕まって血を抜かれてたみたいだけどなー?」


「まったくもって言い訳のしようもない」


 いやほんと。結局、無謀をたしなめられていたダン少年が一番きちんとダークファイブを撃退しているのだから、私達の立場がない。


「これで、残すはあと一人か。どんな奴なんだろうな?」


「それはわからないが、たぶん、これまでみたいにいきなり襲ってくる、という事はないと思う。こういう時、最後の一人は黒幕だとか、根本的に考えが違うとか、他とは違うものだ」


「そういうもん?」


 不思議そうに首をかしげるダン少年に深く頷き返す。そういうものだ。


 そもそも、これまでのダークファイブとの闘いで、噂の三魔公とやらの存在が確認できていない。十中八九、最後の一人が持っていると考えるべきだろう。なんなら、これまでのダークファイブの暗躍そのものが、三魔公を復活させるための時間稼ぎとかエネルギー収集の可能性だってある。いくらなんでもこれまでの連中、三魔公の事を無視して動きすぎだ。


 それに、これまでのダークファイブは皆、死人かその同類だ。となるとそれを復活させた存在がいるわけで、最後の一人がそもそも彼らをよみがえらせた本人であるというのは十分にあり得る。


 四天王とかいいつつ、その一人が事実上のトップである、なんてのは世界一有名な格闘ゲームでもあった話だし。


「だから逆に言えば、近い内にあちら側から接触があるかもしれない。しばらくはダン少年もおとなしくして、岩田さんと連絡を密にとるように」


「はーい。わかった」


 おや、ずいぶんと素直だな。てっきり、「やられちゃったお前の話なんか聞かないぞー」とか言い出すかと思ったけど。


「実のところさ、にいちゃん達も似たようなこと言ってるんだよ。しばらく待てば向こうから動くって。こっちはなんか根拠があるらしいけど、よくわかんねーや」


「そうか……」


 にいちゃん達。複数形という事は、彼の持つカードの精霊……デーモン・スレイヤー達か。相変わらず彼らは私の目の前にデュエル以外で姿を見せてはくれないが、ダン少年は比較的気軽に彼らとコンタクトを取れるらしい。そういう参謀がいる事を考えると、そもそもダン少年を無軌道な子供とみなすのは最初から間違っていたのかもしれないな。彼らも本気で考え無しの行動は掣肘してくれるだろうし。


 やれやれ。思うように物事は進まないものだ。







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